あんたは俺のだから。

そらいろ

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ほろ苦-horoniga-1

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「大嫌い。」

そう言われたのは、俺の人生で一回だけじゃない。

初めては自分の母親から。

まだ小学生にもなっていない幼い頃。
何がきっかけで言われたかは覚えてない。きっと八つ当たりする対象に俺を選んだだけだろう。

忘れたいのに、小さい時受けた言葉の矢は思いの外深く刺さっているらしく中々癒えてくれない。

「大嫌い…。か。」

その次は学生の時、遊びで付き合っていた元カノ達。
欠落した愛情を埋めてもらう為に次々別れて、付き合ってを繰り返していた俺は、アッサリと別れすぎていろんな罵声を浴びていた。

「っても、相手も顔だけで選んでたのにな…。」

「…瀬羅くん?」

現場の移動中にブツブツと呟く俺を心配して、車が赤信号で止まると運転席からマネージャーが顔を覗かせて問う。

「体調悪いですか?酔いました?」

「いや、大丈夫だよ。」

あまりに心配するマネージャーに少し笑って返す。

なんでこんなに"大嫌い"っていうワードに引っかかるのか…。それは昨夜の出来事に戻る。

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「アンケートが盛り沢山だぁー…。」

詰まれている紙の束を横目に、自宅のリビングの机に突っ伏して項垂れる。

「毎回毎回、ほんと大変だね。」

そう声を掛けながら、ふんわりと湯気が立つマグカップを俺の前に置く。

あぁ、落ち着く香り。しゆちゃんの珈琲の匂いだ…。

顔を動かして目の前に座る恋人を見つめる。
お揃いのマグカップを両手に持って、ゆっくりと珈琲をすする。
ミルク多め、砂糖少し。
しゆちゃんが好きな少し甘めのそれは俺には甘すぎる。
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