あんたは俺のだから。

そらいろ

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旅-tabi-2

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「ホントはしゆちゃんも嬉しいくせにぃー。」

ニコニコの笑顔で俺の本心を突く。
いつもいつも樹矢には敵わない。自分でよく分かっていない素直になれない気持ちをいとも簡単に樹矢は言葉で俺に伝えてくる。


「さ、撮影場所にはアポ取ってんだから、早く行こう。遅れたら迷惑かけるぞ。」

樹矢に掴まれた手首を軽く払い、手を繋ぐ。引っ張って急かすように急ぎ足で歩き出すが足の長さの違いからか、直ぐに追いつかれて隣に並んだ。

「いい写真集にしようね。」

前を向いて歩きながら樹矢が言う。
横から彼の顔を見上げると、すごくワクワクしたような高揚した表情が溢れているのが分かった。

「俺の撮る樹矢だから、間違いないよ。」

無意識に繋いだ手に力が入った。樹矢はそれでも前進していく。迷いなんか無い、真っ直ぐな瞳で前を見つめて…。


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「よし。この道で先に撮影するから、適当に俺の前を歩いてって。」

大きな道路に出てきて、この旅で初めてのシャッターを切る。
左右には露店が並んでいて、歩行者天国になっている為、車は無い。平日のためすれ違う人は少なく、観光客ばかりだ。

「はーいっ!」

カシャ…カシャ…

「ねぇねぇ、あそこのお店行きたい!」

カシャ。

指差す先は、たい焼きのお店だった。

「行ってもいいですよ。」

つい、カメラマンのモードで言葉遣いが変わる。

「やったー!」

露天へ行く彼の後ろを追い、購入する前に店員さんに撮影許可を貰う。

「朱斗さんもいります?」

彼もまた、モデル瀬羅樹矢としての被写体になる。

「んー。俺はいいです。」

じゃあ、カスタードを一つください!と元気よく注文して、会計を済まして出来たてのたい焼きを受け取る。
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