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その一言だけ覚えている
しおりを挟む初めて出会った日の事は靄がかかってぼんやりしているけれど、出会った瞬間の時は今でも鮮明に覚えている。
視界にお互いを初めて認識した日。
きっとお互い一目惚れだったんだ。
風船がパンと割れるように、それまで描いていた理想や妄想なんかはちっぽけでどうでも良くなって、この人が好きだと本能で感じた。
程無くして付き合い始めた私達は、周りに「幸せ」と言えるほど幸せに過ごしていた。浮足立っていないと思っていたけれど、ふわふわとした感覚があったのは間違いなく浮足立っていたのだろう。
順調に過ごせたり不調だったり、仲が良ければすぐに喧嘩したりどこにでもいるカップルだったと思う。
月日は流れて、段々とね。お互い気づき始めてたんだ。
『この人とは、恋愛を続ける事が出来ない』
何の根拠も無い。ただ好きだった。
貴方を愛していたし、私を愛している貴方が運命だと思いたかった。
もう終わりにしようなんて、言い出せなくてもどかしくて仕方が無かった。もっと過ごしたいその時間は無駄だと分かって絶望する。
風が吹いて髪の毛が靡く。夕陽は連なる山に隠れようと沈みかけていた。橋の上で振り返ると彼が居て、どちらからでもなく歩み寄り、距離を縮めて行く。同じ位の目線だったのが、近くなることで身長の低い私が彼を見上げる形になった。
「…………」
彼がなんて言っていたかは、もう覚えていない。ただ顔が悲しそうな、切なそうな、良い予感は決してしないネガティブな一言だったと思う。
本当のさよならの時、人はさよならを言わないんだとこの時、私は知った。
「好きになれてよかった」
彼の最後の温もりの中、彼は泣いていたのか不安定に揺れる声で紡いだその言葉の音が私の鼓膜を震えさせて脳に響く。お別れであり、前に進む決意にも聞こえる彼の言葉に応える事も出来ない私は、まだ前へ進もうとしていないからだ。
抱き締め返そうとする腕は、一度上がって直ぐに止まる。
別れてから幾年経った今も忘れられず、最後の彼の言葉が鳴り続けている。
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