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【35話】
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「ルーク様!!」
観客席に居たルークを呼ぶものが居た。
聞き慣れた声だ。
声の方を向くと庶民が着る様なワンピースを着たマロンが従者を引き連れてソコには居た。
「マロン、どうした?今から丁度リリーの試合だ。一緒に見るか?」
「お兄様の事でお話があります!とても大切な事なので今すぐお話しないといけません!お兄様とルーク様の将来の関係にまで関わる内容です!!」
「リリィの試合を見るより重要か……?」
「下手したら、いえ、下手をしなくてもルーク様の御父上が動きますよ?」
「!?…分かった、場所を変えよう」
ルークとマロンは会場を離れ町の裏通りへと移動した。
ルークの元迄はマロンの従者が付いて来ていたが、ルーク自身が剣の達人でもあるので従者は会場で別れた。
少しでも目立つのは避けたい。
人が多い事で逆に目立つことなくルークとマロンは移動する事が出来た。
途中マロンの容姿に目を向ける男もいたが、ルークと言う連れが居たこともあり声をかけてくる者は居なかった。
マロンが第3皇太子妃であると気づいた者も存在しない。
第1皇太子妃と第2皇太子妃はその特徴的な見た目で有名だが、マロンは元々庶民の出であるし一般的な髪と瞳の色だ。
容姿は可憐だが、これだけ人が多いと人の目を集めると言う事も無い。
何より皇太子妃が庶民のような恰好をしていると思う者などがいなかった。
「それでマロン、なにがあった?」
「はいルーク様、いえ殿下」
「気づいていたのか!?」
「今までの無礼講お許しください。どうしてもあの空間を壊したくなくて無礼を働きました」
「いや、気づいてくれて黙っていてくれたなら逆に感謝を述べる。あの幸せな空間を護ってくれたこと、礼を言う」
「勿体ないお言葉です殿下。それでは、お兄様に関する事を話させて貰います」
「あぁ頼む」
「今回の武道大会、皇室用閲覧席に賓客がいました。隣国のカカン国の王太子様とその婚約者の聖女様です。そして聖女様のお名前はマーガレット、髪は空色で瞳は翡翠色でした」
「今日のサイヒと同じ色か!?」
「その通りです。そしてお兄様に興味を持たれた陛下が聖女様にお兄様の素性を尋ねました。どう考えても花の名前である事も色合いも聖女様の関係者であることは間違い無かったですから。そして聖女様は仰られました。「あの者は私の双子の妹です」と」
「妹!?弟でなくてか!!」
「はい、妹です。そして聖女様の妹であるお兄様は先代聖女であり、王太子様の元婚約者であったそうです」
「こ、こここ婚約者…サイヒに婚約者………」
ルークは今にもふらり、と倒れそうだ。
性別云々よりサイヒに婚約者が居たことがショックらしい。
「しっかりなさって下さい殿下!お兄様が女なら殿下と正式に婚姻出来るのですよ!?そして陛下はソレを望んでいます。でもカカン国はお兄様を国から出すことを拒んでいます。お兄様の存在が国レベルで取り合いになっているんです!出来るだけ早くお兄様の存在を陛下からもカカン国からも隠さなければなりません!」
「そうか、確かにサイヒの存在を国が囲いたいのは理解できるな。だが父上がサイヒを欲しがるのも分かる。あの方は強い者が好きだからな……」
「すぐにでもお兄様に事態を知らせないと…」
「分かった、上手く取りはかろう」
「お願いいたします殿下。それでは私はあまり長く閲覧席を離れると不審がられますので一旦戻ります」
「あぁ助かったマロン。それと殿下ではなく今まで通りルークで呼んではくれぬか?私は其方に皇太子扱いされるより”お兄様の友人”扱いされる方を気に入っておるのだ」
マロンの顔が驚きを浮かべ、次にこれ以上無いくらい破顔した。
「はい、ルーク様!お兄様をよろしく頼みます!行きますわよ、モンラーン」
マロンが声をかけると、何処からともなくマロンの執事であるモンラーンが姿を現した。
モンラーンは女性でありながら執事であり、また護衛を兼ねている。
彼女が居るのならマロンを送らなくても安全に閲覧席まで帰れるだろうとルークは安心した。
「サイヒが女…では私が拡張しなくても、サイヒと1つになれる……それどころかサイヒとの間に子も設けられる!のか?……サイヒと婚姻、子供…絶対に誰にも邪魔はさせぬ!!」
うっとりとした顔でしばし夢見心地に浸った後、ルークはその瞳に強い光を宿した。
たとえ我が親相手でもルークはサイヒの自由を渡したりはしない。
ルークはサイヒを本当に愛しているから、婚姻を結びたくともサイヒが嫌なら今の関係でも良い。
いや、サイヒが女なのならもう1歩踏み込んだ関係にはなりたいが。
そして出来れば己の子を産んで欲しいとも思う。
「父上が相手でも、国1つが相手でも、絶対にサイヒはやらぬよ」
決心を固め、再びルークは会場へと向かった。
観客席に居たルークを呼ぶものが居た。
聞き慣れた声だ。
声の方を向くと庶民が着る様なワンピースを着たマロンが従者を引き連れてソコには居た。
「マロン、どうした?今から丁度リリーの試合だ。一緒に見るか?」
「お兄様の事でお話があります!とても大切な事なので今すぐお話しないといけません!お兄様とルーク様の将来の関係にまで関わる内容です!!」
「リリィの試合を見るより重要か……?」
「下手したら、いえ、下手をしなくてもルーク様の御父上が動きますよ?」
「!?…分かった、場所を変えよう」
ルークとマロンは会場を離れ町の裏通りへと移動した。
ルークの元迄はマロンの従者が付いて来ていたが、ルーク自身が剣の達人でもあるので従者は会場で別れた。
少しでも目立つのは避けたい。
人が多い事で逆に目立つことなくルークとマロンは移動する事が出来た。
途中マロンの容姿に目を向ける男もいたが、ルークと言う連れが居たこともあり声をかけてくる者は居なかった。
マロンが第3皇太子妃であると気づいた者も存在しない。
第1皇太子妃と第2皇太子妃はその特徴的な見た目で有名だが、マロンは元々庶民の出であるし一般的な髪と瞳の色だ。
容姿は可憐だが、これだけ人が多いと人の目を集めると言う事も無い。
何より皇太子妃が庶民のような恰好をしていると思う者などがいなかった。
「それでマロン、なにがあった?」
「はいルーク様、いえ殿下」
「気づいていたのか!?」
「今までの無礼講お許しください。どうしてもあの空間を壊したくなくて無礼を働きました」
「いや、気づいてくれて黙っていてくれたなら逆に感謝を述べる。あの幸せな空間を護ってくれたこと、礼を言う」
「勿体ないお言葉です殿下。それでは、お兄様に関する事を話させて貰います」
「あぁ頼む」
「今回の武道大会、皇室用閲覧席に賓客がいました。隣国のカカン国の王太子様とその婚約者の聖女様です。そして聖女様のお名前はマーガレット、髪は空色で瞳は翡翠色でした」
「今日のサイヒと同じ色か!?」
「その通りです。そしてお兄様に興味を持たれた陛下が聖女様にお兄様の素性を尋ねました。どう考えても花の名前である事も色合いも聖女様の関係者であることは間違い無かったですから。そして聖女様は仰られました。「あの者は私の双子の妹です」と」
「妹!?弟でなくてか!!」
「はい、妹です。そして聖女様の妹であるお兄様は先代聖女であり、王太子様の元婚約者であったそうです」
「こ、こここ婚約者…サイヒに婚約者………」
ルークは今にもふらり、と倒れそうだ。
性別云々よりサイヒに婚約者が居たことがショックらしい。
「しっかりなさって下さい殿下!お兄様が女なら殿下と正式に婚姻出来るのですよ!?そして陛下はソレを望んでいます。でもカカン国はお兄様を国から出すことを拒んでいます。お兄様の存在が国レベルで取り合いになっているんです!出来るだけ早くお兄様の存在を陛下からもカカン国からも隠さなければなりません!」
「そうか、確かにサイヒの存在を国が囲いたいのは理解できるな。だが父上がサイヒを欲しがるのも分かる。あの方は強い者が好きだからな……」
「すぐにでもお兄様に事態を知らせないと…」
「分かった、上手く取りはかろう」
「お願いいたします殿下。それでは私はあまり長く閲覧席を離れると不審がられますので一旦戻ります」
「あぁ助かったマロン。それと殿下ではなく今まで通りルークで呼んではくれぬか?私は其方に皇太子扱いされるより”お兄様の友人”扱いされる方を気に入っておるのだ」
マロンの顔が驚きを浮かべ、次にこれ以上無いくらい破顔した。
「はい、ルーク様!お兄様をよろしく頼みます!行きますわよ、モンラーン」
マロンが声をかけると、何処からともなくマロンの執事であるモンラーンが姿を現した。
モンラーンは女性でありながら執事であり、また護衛を兼ねている。
彼女が居るのならマロンを送らなくても安全に閲覧席まで帰れるだろうとルークは安心した。
「サイヒが女…では私が拡張しなくても、サイヒと1つになれる……それどころかサイヒとの間に子も設けられる!のか?……サイヒと婚姻、子供…絶対に誰にも邪魔はさせぬ!!」
うっとりとした顔でしばし夢見心地に浸った後、ルークはその瞳に強い光を宿した。
たとえ我が親相手でもルークはサイヒの自由を渡したりはしない。
ルークはサイヒを本当に愛しているから、婚姻を結びたくともサイヒが嫌なら今の関係でも良い。
いや、サイヒが女なのならもう1歩踏み込んだ関係にはなりたいが。
そして出来れば己の子を産んで欲しいとも思う。
「父上が相手でも、国1つが相手でも、絶対にサイヒはやらぬよ」
決心を固め、再びルークは会場へと向かった。
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