帝国の皇太子だが後宮の宦官に恋をしてしまった~皇太子は性別と身分の壁に苦悩する~※BLではありません

高井繭来

文字の大きさ
上 下
29 / 37

【28話】

しおりを挟む
「ん?ルーク、擽ったい」

「す、すまないサイヒ!うわっ!!」

 思わず後ずさる。
 しかしサイヒの部屋のベッドはルークの普段使っている寝台とは違い狭いのだ。
 後ろから落ちそうになるルークの腕を引っ張り上げ、サイヒがルークを胸に抱え込んだ。

 普段は見えない鎖骨が露になっているのを間近で見て、思わずルークはごくりと唾を飲む。

「サイヒ、普段そんな恰好で寝ているのか?肌を出し過ぎではないか?」

 先程はシーツの中にいたから、あまり見えなかった腕や脚が露になっている。
 サイヒの格好はタンクトップに短パンだ。
 しっかり晒は巻いているが。
 それでも男と信じていてもサイヒに恋心を抱いているルークにとっては目の毒でしかない。

「別にルークしか見ないのだから問題は無いだろう?」

「いや、私の心臓が持たないと言うか、目のやり場に困る……」

「そう言うものなのか?」

「そう言うものなんだ。せめて何か羽織ってくれないか?」

「では着替えるか」

「ちょ、私は後ろを向くから!少し待ってくれ!!」

「別に気にはせんが、まぁソコまで言うなら後ろを向いておいてくれ」

 シュルリ、と衣擦れの音がする。
 後ろでサイヒが無防備に着替えているかと思うとルークの心臓は飛び出しそうなくらいバクバクと忙しなく動く。
 
 ドクドクドクドク

(静まれ心臓!)

 心臓が激しく動くので頭まで血が巡り顔も真っ赤である。

「着替えたぞルーク。て、耳まで赤くしてどうした!?」

「いや、何でもない…気にしないでくれ……」

 何故がサイヒを起こしに来ただけで、ルークは異様にエネルギーを使ってしまった。

「しかしルークが起こしに来たと言う事はもう昼か。予定以上に寝たしまったな。待たせただろう?すまなかったな」

 サイヒの手がルークの頬を撫ぜる。
 その優しい感触と心地よい体温にルークは己からも手に頬を押し当てる。

「心配したのだぞ」

「すまなかった。許せルーク」

 長い睫毛に縁どられた青銀の瞳がルークの瞳を見つめる。
 その真剣な眼差しにルークの心臓は休む暇もない。

「心配してくれて有難うルーク」

 チュッ

 サイヒの唇がルークの額に触れる。

「ど、ど、どういたまして?」

「舌が回っていない。可愛いなルーク」

 起きて10分もしない内に、サイヒはとめどなくルークを翻弄する。
 全くもって心臓に悪い存在だ。

「それにしてもサイヒが寝坊するとは珍しいな。調子が悪いわけではなさそうだし、何かあったのか?」

「あぁ、まぁ私に何かがあった訳ではないのだがな。ちょっと明け方まで寝られなかっただけだ」

「何があったのだ?」

「うむ、まずはクオンに相談しようと思ったのだがな……」

 ピシッ!

 クオンの名が挙がった事に、ルークの体に電流が走った。

「何故クオンなのだ?」

「どうしたルーク?」

「何故私ではなくクオンなのだ!!」

 ルークが怒っている。
 本人は自覚が無いだろうが完全に怒っている。

「サイヒが何かを相談するなら!1番最初は私が良い!!」

「これは困ったな。うっかり口が滑った」

「何故に私ではなくクオンなのだ!?」

「あぁ、まぁルークの事だったからな」

「え?」

「ルークの相談をルークには出来ぬだろ?」

「私のこと?」

「そうルークの事だ。でなければ私が半身であるルークに1番に相談しない訳が無いだろう?」

 クスリ、とサイヒが笑う。
 この笑顔にルークが弱いのを知っていたら完全に確信犯なのだが、サイヒは自覚はしていない。

「それでも…私の知らないところで、サイヒが誰かと私の知らない事を話すのは嫌だ……」

「あんまり可愛い顔をするなルーク。私は意外とお前のその顔に弱いのだぞ?まぁでも最終的にはルークに話せば成らぬ事だからな。いっそここで話すか。出来るだけお前を傷つけたく無かったのだが…それでも聞くかルーク?」

 ルークはサイヒの青銀の瞳をジッ、と見つめ。
 そして首を縦に振った。 
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...