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【26話】

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「そう言えばお兄様は本名で武道大会にエントリーなされたのですか?」

「いや、それは問題があると思って偽名にしておいた。”リリー・オブ・ザ・ヴァリー”だ」

「あら可愛らしいお名前なのですね」

「本名から離れているといざと言うとき呼ばれても反応出来ないからな」

「本名からもじりましたの?」

「あぁ」

「そう言えば私、お兄様のフルネーム知りませんわ」

「まぁわざと隠しているからな。追手に居場所をバレる訳にはいかない」

「「「追手!?」」」

 ルークとクオンとマロンの声がはもる。

「サイヒ、お前どんな罪状を犯した!?女性の恨みは恐ろしいぞ!」

「お兄様!どこの女性たちを誑かしたのですか!?」

「サイヒがそんなに多数の女性に追われているなんて…私が絶対に無罪にしてみせるからな!!」

 クオンとマロンが身を乗り出してサイヒに迫る。
 ルークはふらりと倒れそうになりながらも職権乱用をしようとしている。
 何故か皆して”サイヒが女性を誘惑した”と言うのが決定事項になっているのは何故であろうか。

「別に悪い事はしていないがな…居場所がばれたら連れ戻されかねん程度には捜索されているであろうから身は隠しておきたい。それにルークの傍を離れんと誓ったしな」

「そう言えば誓いの柱が上がっていたな」

「やはりコーンには見えたか」

「あんな派手な誓いの柱は始めて見た」

「私とサイヒが互いが半身であると言う誓いだ」

 エメラルド色の瞳をウルウルとさせ、うっとりとルークが言う。
 うん、コレは乙女だ。
 クオンは出来るだけ視界に入れないよう心掛けた。
 真正面から見て胃が痛むのは避けたいのだ。

「あ、”リリー”で思い出しました。お兄様のと同じように花から名前を取る国がありましたよね?確か建国祭に招かれている隣国の王太子様とその伴侶の聖女様の名前も花の名前だった気がします」

「何?カカンから王太子と聖女が来るのか!?」

「どうした驚いて?サイヒが驚いてるのを見たのは初めて見るな。でもソレも格好良い……」

 ルークの最後のセリフは小声なので周りには聞こえていない。
 聞こえていたら又クオンの胃が痛くなっていた事だろう。

「あぁ、カカンはローズ王太子が婚姻を結んだら王位を譲り受けるからな。隣国同士ここいらで交友を深めようと陛下が建国祭に招いた。カカンはガフティラベルの大きさには負けるが大国だからな。しかも1000年もの間国が傾いたことも無い。力ある国とは友好関係を結んでおきたいと言ったところだろう」

「花と美の国カカン、平和でいたるところに花が咲き誇る国なんですよね。何時か行ってみたいものです」

 マロンが手を頬にあてて顔を綻ばせる。

(俺も1度行った事あるが確かに美しく、平和でありながら活気づいた国だったな。マロン妃を是非連れて行ってあげたいものだ。きっとお気にいるだろう)

「私もサイヒと行ってみたいな」

「カカンか…嫌でもそのうちに行く羽目になるだろうがな……」

 サイヒの小さな呟きは誰の耳にも入る事は無かった。
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