帝国の皇太子だが後宮の宦官に恋をしてしまった~皇太子は性別と身分の壁に苦悩する~※BLではありません

高井繭来

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【22話】

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 もう10日もサイヒに会っていない。
 サイヒに手渡されたハンカチにはもうサイヒの匂いの欠片もない。
 毒で体が苦しいわけでは無いのに眠ることが出来ない。
 ”安眠”のポーションも効果が出ない。
 自分がもう1人で寝ることも出来ない様に、ルークは自嘲した。

「結局私はサイヒが居なければ何も出来ない役立たずと言う事か…」

 泣きたくもないのに涙が流れる。
 もう自分の涙腺は決壊してしまったらしい。
 何と愚かな人間なのだろう。

 傷つけた相手に縋らなくては生きていけない、愚かな人間。

 国を治めるなどおこがましい。
 自分程に他者を護れぬ存在など、もうこの国には必要ないのではないか?
 最近その思考にルークは陥り、寝る事さえ出来なくなっていた。

 カーテン越しの月の光さえ自分を責めているように感じて、ルークは頭からシーツを被って眠りにつこうとした。

 :::

「ルーク、起きろ。朝だ」

 愛おしい声が聞こえる。
 甘く優しい声がルークの鼓膜を震わせる。
 何と甘美な声色か。

 ルークはとうとう自分の頭が可笑しくなったのだと思った。
 でなければ誰よりも愛おしいサイヒの声が聞こえる訳がない。

「ルーク、良い子だから出ておいで。私にお前の顔を見せてはくれないのか?」

 狂ってしまったのなら、もうどうでも良い。
 自分はこの甘美な妄想に耽ろうとルークは考えた。
 自分の頭の中での出来事なのだ。
 自分の思うようにして何が悪い?

「サイヒ…」

 シーツから顔を出すと、誰よりも見たかったサイヒの姿がそこにあった。
 ベッドに腰かけたサイヒがルークの額の髪を細い指先ではらってくれる。

「あぁ、そんなに瞼を腫らして…痛いだろう?すぐに直してやるからな」

 サイヒの顔が近づく。
 そしてサイヒはルークの目尻に唇を押し当てた。
 暖かく柔らかいその感触にルークは心が震える。
 10日間、欲してたまらなかったモノがココにある。

「ルーク、目を閉じて」

「ん」

 サイヒの言葉に従い瞳を伏せる。
 そうするとサイヒの柔らかな唇が何度も何度もルークの瞼に押し当てられるのだ。

「気持ち良い……」

「そうか」

 瞼に優しくキスを落としながら、サイヒは空いている手でルークの髪を梳く。
 それが気持ちよくて、10日間寝ていないルークの睡魔が一気に襲ってきた。

「眠いのなら寝て良いのだぞ?」

 誘惑するその声は甘い。
 だがようやくサイヒに会えたのだ。
 一瞬たりともその存在を失いたくない。

「私はお前の傍を離れないよ。ゆっくりお休み、私のルーク…」

 甘美な声と甘い匂いに包まれて、ルークの思考は深い深淵に落ちていった。
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