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【20話】

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「少年、君に私から提示出来る選択肢は3つだ。このまま全てを捨てて生きていくか、覚えていたくない記憶だけを消して生きていくか…復讐をするために我々に力を貸し生きていくかだ……」

「サイヒ、今の少年にはその言葉はあまりにも惨いのではないか?」

「ルーク、私たちは慈善活動をしているわけでは無いのだぞ?この少年に構っている暇はないし助けてやる義理も無い。冷たいだろうが、今はこの言葉しか私にはかけれぬよ…」

 サイヒの双眸が悲し気に揺れる。
 だが涙は流さない。
 ここでサイヒが泣いたところで何も意味を持たないのだから。

「っ!?すまないサイヒ、私が考え無しであった……」

 ルークは自分の言葉がサイヒを責めてしまった事に気づいた。
 ”サイヒなら何でも必ず解決してくれる”そう言った思いがルークにサイヒを責める言葉を吐かせた。
 いくら奇跡のような御業を何度も見せられていても、サイヒは人間なのだ。
 神でも悪魔でもない。
 ”奇跡”なんて言う都合の良いことは起こせない。

「……復讐を」

「何?」

 シュマロの言葉をルークは聞き取れなかった。

「復讐を!俺にチャンスを下さい!あの男に復讐できるチャンスを!!その為なら何だってします!!」

 シュマロの瞳の奥には憎しみの炎が宿っていた。
 何も知らなければシュマロは母の安穏を信じて生きていけたかも知れない。
 ルークの身を護るために、シュマロを絶望と憎しみに堕とした。
 1人の少年の生き方を、ルークたちは変えてしまったのだ。

「あぁ、我々は君を受け入れよう。今後の話をするためにも1度王宮へ帰ろう」

 帰りはサイヒの【式神】ではなく馬車を使った。
 馬車の中でサイヒの手によって再び魔石をシュマロに埋め込むためだ。
 ただし胸に入れるのは【解毒】、のどに入れるのは【痛覚麻痺】の術を込めたモノをだ。

「先程と同じところに魔石に埋めた。これで敵から魔石を抜かれた事には気が付かれないだろう。
痛みは抑えられるが、その為ケガや病気に疎くなる。気を付けるようにしろ。
熱は解熱剤を使って出来るだけ抑えるようにすると良い。君は今まで通りに生活を送れ。そして敵が接触を計ってきたらいつも通りに対応するんだ。
後で【伝達】の魔道具を作る。それで私に全てを教えてくれれば良い。
君は、憎かろうが殺したかろうが普段通りに過ごすんだ。分かったな?」

 コクリ、と少年は頷く。
 全ての指示はサイヒが出した。
 冷たい言葉は全てサイヒのものだ。
 そうすることでルークとクオンが罪悪感を抱かないよう振舞ってくれているのだ。
 それを分からないほどルークもクオンも愚鈍ではない。
 ただ何もかもがサイヒにおんぶに抱っこ状態で、2人はサイヒに対して何も言えない。

 ”すまない”も”有難う”も今かけるべき言葉ではないであろうから。

 只々静かに馬車は王宮へと向かって行った。
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