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【19話】

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※胸糞展開です。
 楽しい話だけが読みたい方は読まれないことを推奨いたします。

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 少年が落ち着くとサイヒは窓を開き、服の袖から鳥のような形の紙切れを出した。

「何だそれは?」

「これが【式神】だ」
 
 ヒラリ、とかみを窓の外に落とす。
 同時にぼふん、と煙を噴いて、馬車よりも大きな鳥が姿を現した。

「さて、コレで少年の家まで行こうではないか」

 窓枠を乗り出しサイヒは飛んでいる鳥の上に着地する。
 ルークもサイヒに続いて鳥に乗った。

「クオン、少年を連れてこちらへ」

「これは目立ち過ぎじゃないか?」

「ルークに”魔術師の手駒が居る”と思わすのが目的だから丁度良いアピールだ」

 そう言うものなのだろうか…。
 常識人のクオンの尺度ではサイヒの言い分は理解しかねる。
 確かにアピールにはなるだろうが、いやそれにしても目立ち過ぎではないかと。
 疑問に思っていても出してしまったものは仕方ない。
 クオンは少年を小脇に抱え鳥に飛び乗った。

「少年、君の家はどちらだ?」

「あ、あっちです…」

 少年が指をさす。

「では参ろうか」

 サイヒの言葉に答え鳥が大きく羽ばたいた。
 鳥は馬車を物ともしないスピードで空を駆ける。
 そのスピードにクオンは僅かに恐怖を覚えた。
 高い所に居る事にではない。
 その圧倒的な速さにではない。

「サイヒ、この鳥は同時に何体作り出せる?」

「まぁ100や200は軽いだろう。知恵も持たせられるから簡単な命令くらい聞くぞ」

 その答えにクオンは背筋に怖気が走るのを感じた。

(この鳥を200体!?こんなモノが存在したら他国を押しのけて圧倒的な軍事力を手に入れる事になるぞ…この高度で空から200の軍隊が突撃すれば並みの要塞などひとたまりもない。これはサイヒの存在は出来る限りアンドゥアイスには気づかれぬようにしなければ、奴がサイヒを狙いかねない)

「サイヒ、魔術師の手駒のアピールも良いがやり過ぎるなよ?」

「ん?あぁそう言う事か。簡単に手に入れられるとは思われたくないが、あまり力を誇示するのも強欲なモノには狙われかねんか…」

 サイヒはクオンの言葉をすぐさま理解した。
 自分の力が敵対するものにとっては、どれほどの脅威になるのかは理解していないだろうが。

 後でアンドゥアイスの事を話し、警戒をしなければならない必要性があるとクオンは思った。
 ルークには内密にだ。
 ルークはアンドゥアイスを尊敬している。
 もしもアンドゥアイスがクオンの想像通り黒幕なら、ルークが心に負う傷は小さくは無いだろう。
 だからサイヒにアンドゥアイスの事を話し、自分の身にも警戒して貰いながらもルークが心に傷を負わぬようサポートして欲しいと考えたのだ。

 信頼する”兄”を失った時、間違いなくサイヒの存在はルークの救いになるであろうから。

「あそこです」

 少年が指さす小屋へ鳥が下りていく。
 地面に着地すると鳥は霧の様に消えた。
 紙に戻った鳥はそのままボロボロと存在が無かったかのように消えていく。

 小屋の中からは誰の気配も感じられない。

 少年はほう、と安堵の溜息を吐いた。
 男は約束を守り母を療養の地へ連れて行ってくれたのだと。

「シュマロじゃないか、お前帰って来たのか~?」

 こんな時間だと言うのに酔いどれたガタイの良い男が少年に声をかける。

「……ケンダさん」

 男は少年―シュマロと知り合いらしい。
 だが良い関係性では無いようだ。
 何故なら男の視線から逃げるようにクオンの背に隠れ震えている。

「その兄ちゃんたちが今のお前の旦那様か?随分身なりの良さそう良い男ばかりじゃないか。へへへ、その旦那様達はちゃ~んとお前を満足させてくれてるのか~?」

 酒臭い息を吐きながら男はシュマロに近づこうとする。
 その行動を止めるためクオンは1歩前に出た。

「何の用だ?」

 クオンの気迫に男は僅かに退く。
 こう言ったスラムでは敵の能力を見極めれるものだけが生き残ることが出来るのだ。
 その意味では男はその能力に長けていたのであろう。
 後ろに下がると揉み手をするようにクオンに話し出す。

「へへへ、そこのシュマロとは知り合いでして。5年前シュマロが消えてから何があったか教えてやろうと思いまして…」

「ケンダさん!何があったんですか!?母さんは、母さんは療養地に連れて行って貰えたんですよね!?」

「あ~やっぱりお前都合のいいお話信じてたんだな。可哀想にな~お前の母親、お前が出て行ってから男どもの慰み者になったぜ~。
お前の母親だけあって痩せすぎとは言え綺麗な顔してたからな~。飲まず食わずだから3日もすれば息が止まったわ。
そう言うのが好きな奴らがしばらく遊んでたけどな~。流石に腐りだして臭いだしたから誰かがゴミ捨て場に捨てにいったけどな~」

「あ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 シュマロの双眸からボロボロと涙が零れる。
 瞳孔すら開いて絶望したシュマロは蹲り頭を抱えた。

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!母さんは療養場に行ったんだ…空気の綺麗な所で、温かい食事を食べて、医者に薬を飲ませて貰って……元気になって過ごしてるって!言ってたじゃないか!何で?何で母さんがそんな目に?俺たち親子が何したって言うんだよぉぉぉぉっ!!」

 断末魔の如き叫び声が響く。
 声をかけれる者は居なかった。

「これなら体を売ってた頃の方が良かったじゃないか!?男たちに股開いて汚いもの突っ込まれて、不味い体液飲まされて!それでも母さんと何とか生きていけた!母さんは笑顔で居てくれた!俺が、俺が高望みさえしなければ…母さんはそんな惨い死に方しなかったじゃないかぁ………」

 サイヒはクオンに押さえつけられてシュマロが怯えた表情をしたのは、そう言う理由だったのかと分かった。
 分かった所で少年にかけれる慰めの言葉も、激励の言葉も出てはこないのだが…。
 蹲り己の体を抱きしめ泣きながら震える少年にサイヒは声をかける。
 慰めるためではない。
 激励するためでもない。
 ただ選択肢を与えるためだけに。
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