11 / 37
【10話】
しおりを挟む
しなやかな腕が体に回されギュッ、と抱きしめられる。
暖かな体温が密着した体から伝わる。
「私の処に帰ってこい、ルーク」
大好きな声が聞こえて、その声の持ち主である親友の柔らかな唇が己の唇に押し当てられた。
:::
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
大声を叫んでルークは目を覚ました。
心臓がバクバクと大きな音を立てている。
顔どころか体中が熱くて真っ赤になる。
「殿下、大丈夫ですか!?」
「え、あ、クオンか」
自分は人魚に運河に沈められて、そこから記憶がない。
今居るのは自室のベッドの上だった。
「体が真っ赤です。熱があるのでしょうか?」
「いや、これは、違う…」
先程見た、夢を思い出して、更に赤くなる。
「やっぱり熱が!」
「だからこれは違うんだ……」
つい目が宙を動く。
ちょっと、いやかなり気まずい。
見てしまった夢が、あまりにも問題だと少しへこむ。
「私は運河に引き込まれたのでは?」
「それが【空間転移】で現れた謎の宦官が殿下をお助けされたと聞きました。殿下の危機に居合わせる事が出来なかったとは、俺とした者が何と言う不覚…」
「いや、それはクオンのせいでは無い。別の任務で隣国に行っていたのだろう?」
「それは、そうなのですが……」
「で、私を助けたのは宦官であったと?」
ルークの言葉にクオンの目が座る。
「そう宦官です。皇太子の後宮の宦官の衣装を纏った少年だったと伺っています。そう、皇・太・子・の・後・宮・の・宦・官ですよ、殿下!」
「うっ!」
クオンの目が怖い。
ルークの幼馴染であり現在では1番身近な側近で近衛兵でもある。
最近ではルークが昼間の一時、後宮に内密に入り浸っているために毎日撒かれているのでクオンは怒り心頭なのだ。
「その宦官に会いに後宮に行っていた訳ですね?」
「それは…その、」
「どんなに監視しても何時の間にか居なくなるのでおかしいと思っていましたが、その宦官はかなり魔術に長けているようですね?姿をくらます魔術でもかけて頂いているのですか?」
クオンがルークをジロジロと見る。
「魔術をかけられている様子はありませんね…となるとマジックアイテムですか?」
ルークが体をギクリと強張らす。
「そう言えばこのところ、ひどく大切そうに水晶のブレスレットを磨いていたとメイドが言っていましたね。後宮から帰ってきた日からと聞いていたので、皇太子妃の誰かからプレゼントされたのかと思っていましたが、その宦官に貰った訳ですね?」
有無を言わせぬ迫力がクオンにはある。
幼馴染で子供の頃から世話をされていたのでルークはクオンには頭が上がらない。
剣士としても優れており頭脳明晰で、唯一アンドュアイス以外でルークと対等に会話が出来た稀有な人物だ。
正直誤魔化せる気がしない。
「誰と会っていたんですか?と言うかその宦官は何者ですか?」
「サイヒは、新人の宦官だ。仕事は掃除を主にしていると言っていた。それ以外には好きな食べ物や魔術などが得意だと言う事しか知らない」
「…何で自分の部下を把握していないんですか。宦官とは言え皇太子の後宮で働いているなら殿下の部下でしょうが」
「いや、一緒に居るのが心地よくてつい聞き忘れた」
はぁ~、とクオンが大きなため息を吐く。
「殿下…ゲイだったのですか?」
「なっ、ちがっ!!」
「それなら全ての皇太子妃と白い結婚なのも理解できますね」
「だから違うと!」
「ではその宦官の事が好きなわけでは無いのですね?」
「………サイヒを、好き。私が?」
確かに一緒にいると居心地が良い。
とても好ましい性格だ。
食べてる姿を見るのが好きだ。
花が綻ぶ様な笑顔が好きだ。
落ち着いたアルトの声が好きだ。
香しい匂いが好きだ。
「私はサイヒを好きだったのか!?」
「無自覚だったのですか!?」」
驚くルークにクオンが驚いている。
「サイヒは男だぞ!?」
「だから殿下はゲイなのかと聞いたではないですか!!」
「私はゲイではない!」
「でもその宦官の事が好きなのでしょう!?」
「それは―――――…」
ルークが顔を真っ赤にさせて瞳を潤ませる。
「さすがに綺麗な顔をしていても、男が顔を赤らめるのを見て喜ぶ趣味は俺には無いですが?」
「私だってない!」
「その宦官が相手でも?」
赤くなって瞳を潤ませるサイヒ。
「それは…見てみたい……い、いや違う!本当に私はゲイではない!サイヒにしかこんな感情浮かんだ事はない!」
「ではその宦官に対してだけ好意を抱いていると」
「……そうかも知れない」
もうここまで来たら認めるしかなかった。
ルークはサイヒが好きである。
その心をルークは恋と名付けてしまった。
いや、気づいてしまった。
「私はサイヒが好きだったのか」
気づいてしまえば、何故サイヒに触れたくなるのか。
その唇に口付けたくなるのか理解できた。
だからと言ってサイヒにキスをされる夢を見てしまうとは。
「で、何処迄進んでいるのですかその宦官と?」
「変な聞き方をするな!サイヒとは友人として過ごしている。一緒に食堂で食事をしたり、手合わせをしたりするくらいだ」
「成程、宦官の名前はサイヒと言うのですか。それにしても殿下と友達として過ごすなど、下心を抱いていた可能性は無いんですか?
【空間転移】を使用できる魔術師が後宮で宦官をしているなんて意味が分かりません。それだけの力があったら何処の国の城でも雇って貰えるでしょうに。
何故宦官などしているのか?思惑があり殿下に近づこうとしたとしか考えられませんね」
「それは無い!」
「何故言い切れるのです?」
「サイヒは私を、皇太子とは知らないんだ」
「はぁ?」
「だから1個人として付き合っている」
「意味が分かりません!」
「意味が分からなくてもそうなのだから仕方ないだろう!」
「明日、俺も後宮に向かいます。紹介して下さいますよね、そのサイヒさんとやらを?」
剣呑な光を宿した目をしたクオンに脅されて、ルークは断れるだけの言葉を見つける事は出来なかった。
暖かな体温が密着した体から伝わる。
「私の処に帰ってこい、ルーク」
大好きな声が聞こえて、その声の持ち主である親友の柔らかな唇が己の唇に押し当てられた。
:::
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
大声を叫んでルークは目を覚ました。
心臓がバクバクと大きな音を立てている。
顔どころか体中が熱くて真っ赤になる。
「殿下、大丈夫ですか!?」
「え、あ、クオンか」
自分は人魚に運河に沈められて、そこから記憶がない。
今居るのは自室のベッドの上だった。
「体が真っ赤です。熱があるのでしょうか?」
「いや、これは、違う…」
先程見た、夢を思い出して、更に赤くなる。
「やっぱり熱が!」
「だからこれは違うんだ……」
つい目が宙を動く。
ちょっと、いやかなり気まずい。
見てしまった夢が、あまりにも問題だと少しへこむ。
「私は運河に引き込まれたのでは?」
「それが【空間転移】で現れた謎の宦官が殿下をお助けされたと聞きました。殿下の危機に居合わせる事が出来なかったとは、俺とした者が何と言う不覚…」
「いや、それはクオンのせいでは無い。別の任務で隣国に行っていたのだろう?」
「それは、そうなのですが……」
「で、私を助けたのは宦官であったと?」
ルークの言葉にクオンの目が座る。
「そう宦官です。皇太子の後宮の宦官の衣装を纏った少年だったと伺っています。そう、皇・太・子・の・後・宮・の・宦・官ですよ、殿下!」
「うっ!」
クオンの目が怖い。
ルークの幼馴染であり現在では1番身近な側近で近衛兵でもある。
最近ではルークが昼間の一時、後宮に内密に入り浸っているために毎日撒かれているのでクオンは怒り心頭なのだ。
「その宦官に会いに後宮に行っていた訳ですね?」
「それは…その、」
「どんなに監視しても何時の間にか居なくなるのでおかしいと思っていましたが、その宦官はかなり魔術に長けているようですね?姿をくらます魔術でもかけて頂いているのですか?」
クオンがルークをジロジロと見る。
「魔術をかけられている様子はありませんね…となるとマジックアイテムですか?」
ルークが体をギクリと強張らす。
「そう言えばこのところ、ひどく大切そうに水晶のブレスレットを磨いていたとメイドが言っていましたね。後宮から帰ってきた日からと聞いていたので、皇太子妃の誰かからプレゼントされたのかと思っていましたが、その宦官に貰った訳ですね?」
有無を言わせぬ迫力がクオンにはある。
幼馴染で子供の頃から世話をされていたのでルークはクオンには頭が上がらない。
剣士としても優れており頭脳明晰で、唯一アンドュアイス以外でルークと対等に会話が出来た稀有な人物だ。
正直誤魔化せる気がしない。
「誰と会っていたんですか?と言うかその宦官は何者ですか?」
「サイヒは、新人の宦官だ。仕事は掃除を主にしていると言っていた。それ以外には好きな食べ物や魔術などが得意だと言う事しか知らない」
「…何で自分の部下を把握していないんですか。宦官とは言え皇太子の後宮で働いているなら殿下の部下でしょうが」
「いや、一緒に居るのが心地よくてつい聞き忘れた」
はぁ~、とクオンが大きなため息を吐く。
「殿下…ゲイだったのですか?」
「なっ、ちがっ!!」
「それなら全ての皇太子妃と白い結婚なのも理解できますね」
「だから違うと!」
「ではその宦官の事が好きなわけでは無いのですね?」
「………サイヒを、好き。私が?」
確かに一緒にいると居心地が良い。
とても好ましい性格だ。
食べてる姿を見るのが好きだ。
花が綻ぶ様な笑顔が好きだ。
落ち着いたアルトの声が好きだ。
香しい匂いが好きだ。
「私はサイヒを好きだったのか!?」
「無自覚だったのですか!?」」
驚くルークにクオンが驚いている。
「サイヒは男だぞ!?」
「だから殿下はゲイなのかと聞いたではないですか!!」
「私はゲイではない!」
「でもその宦官の事が好きなのでしょう!?」
「それは―――――…」
ルークが顔を真っ赤にさせて瞳を潤ませる。
「さすがに綺麗な顔をしていても、男が顔を赤らめるのを見て喜ぶ趣味は俺には無いですが?」
「私だってない!」
「その宦官が相手でも?」
赤くなって瞳を潤ませるサイヒ。
「それは…見てみたい……い、いや違う!本当に私はゲイではない!サイヒにしかこんな感情浮かんだ事はない!」
「ではその宦官に対してだけ好意を抱いていると」
「……そうかも知れない」
もうここまで来たら認めるしかなかった。
ルークはサイヒが好きである。
その心をルークは恋と名付けてしまった。
いや、気づいてしまった。
「私はサイヒが好きだったのか」
気づいてしまえば、何故サイヒに触れたくなるのか。
その唇に口付けたくなるのか理解できた。
だからと言ってサイヒにキスをされる夢を見てしまうとは。
「で、何処迄進んでいるのですかその宦官と?」
「変な聞き方をするな!サイヒとは友人として過ごしている。一緒に食堂で食事をしたり、手合わせをしたりするくらいだ」
「成程、宦官の名前はサイヒと言うのですか。それにしても殿下と友達として過ごすなど、下心を抱いていた可能性は無いんですか?
【空間転移】を使用できる魔術師が後宮で宦官をしているなんて意味が分かりません。それだけの力があったら何処の国の城でも雇って貰えるでしょうに。
何故宦官などしているのか?思惑があり殿下に近づこうとしたとしか考えられませんね」
「それは無い!」
「何故言い切れるのです?」
「サイヒは私を、皇太子とは知らないんだ」
「はぁ?」
「だから1個人として付き合っている」
「意味が分かりません!」
「意味が分からなくてもそうなのだから仕方ないだろう!」
「明日、俺も後宮に向かいます。紹介して下さいますよね、そのサイヒさんとやらを?」
剣呑な光を宿した目をしたクオンに脅されて、ルークは断れるだけの言葉を見つける事は出来なかった。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説


蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる