上 下
43 / 107

41

しおりを挟む
「オラァッ!!」

 おおよそ淑女が発する事のない雄叫びがルーシュの口から発せられた。
 15年間男として育ったので勘弁いただきたい。

「30階でグリフォンが出てくるとか中々のダンジョンなんな!でもオグリとも手合わせしてる私に死角なーし!!」

「このような雑魚とオグリを一緒にしないで欲しいのじゃ」

 地下に潜るタイプのダンジョンと言っても1階辺りが物凄く広い。
 少なくとも飛ぶ魔物が根城にしている階層がある程度には。
 そして30階の主はグリフォンであった。
 まっこと、ルーシュとルインにとっては見慣れた姿である。

 身体強化で己の膂力を限界まで引き上げたルーシュが地を蹴る。
 
 空中のグリフォンにも届くその跳躍力にグリフォンも度肝を抜かれた。

「ルラァッ!!」

 空中で剣を振るう。
 足場がなくとも剣を自在に操れるほどにルーシュの体幹は鍛えられており、剣技は研ぎ澄まされていた。

 刃がグリフォンの翼を切る。

 根元ではなく今後支障のないように飛べなくする程度だ。
 ルーシュは魔物退治しに来た訳では無いのだ。
 グリフォンの命に係ることはしない。

 キィィィィィィッ

 グリフォンの1体が風の魔術を飛ばす。

 ゴウッ

 ルインのブレスが風を飲み込んで、そのまま風魔術を使ったグリフォンをも飲み込んだ。

「ルインさん、もちょっと加減出来んのか?」

「オグリに似ている癖に妾に殺気を向けてくるので腹が立つのじゃ」

「成程、でも殺さんといてね……」

「まぁオグリはこ奴等とは比べ物にならぬほど強く美しいがな。のう、主殿」

「うん、まぁそーね」

(あれ、私惚気られてないか?)

 使い魔に惚気られる。
 主としては如何なものであろうか…。

 だが確かに野生のグリフォンに比べるとオグリは格段に美しい、
 純白の羽にラベンダーの瞳。
 顔立ちももっと柔和で神が天から遣わした存在と言われても納得する。
 アンドュアイスの法力の性質が余程良かったのであろう。 
 法力で育ったからと言って誰もがオグリの様に美しくなる訳では無いのだ。

 なので、そんなオグリに求婚されているルインが気分よく惚気たくなるのも分かる。

(いや、私だってアンドュアイス様に求婚されてるし、こ、ここここ婚約者だしな)

 アンドゥアイスの事を思って1人で100面相するルーシュをルインが生暖かい目で見ていた。

「主殿、顔が溶けとるのじゃ…」

「はっ、そうだった!戦闘中戦闘中!!」

 ルーシュの目に闘気が戻る。

「殺されたくなかったら貯め込んだ宝全部持って来てちょーだいね!死にたくなかったらね!!」

 ギラギラとしたルーシュの双眸で睨みつけられた若いグリフォンは失禁している個体すら居た。
 高位の魔物に恐怖を与える。
 それ程にルーシュは戦闘においては優秀であり、またバトルジャンキーであった。

 しかし、強盗殺人の様な真似はしたくないと言っていたが、いま行っているのは殺人はしないが強盗そのものだ。
 勝手に他者のテリトリーに入って来て宝を強奪する。
 矛盾しているがルーシュ的には負けたモノは無条件降伏するのが闘いと言うモノだと思っているので、これは罪にはならないらしい。

(アンドゥアイス殿に求婚されてから雌らしくなってきたかと思ったが、やはり主殿は戦闘馬鹿なのじゃ)

 微妙にオグリに似ているグリフォンの群れにブレスを吹きながら、ルーシュと見事なコンビネーションでグリフォンを地に落としていきながらルインは思った。

 ルーシュが女子力でルインに負ける日も近いかもしれない………。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・

月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。 けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。 謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、 「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」 謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。 それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね―――― 昨日、式を挙げた。 なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。 初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、 「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」 という声が聞こえた。 やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・ 「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。 なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。 愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。 シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。 設定はふわっと。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...