男として育てられた公爵家の令嬢は聖女の侍女として第2の人生を歩み始めましたー友人経由で何故か帝国の王子にアプローチされておりますー

高井繭来

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「ルーシュ、左手かして」

 コテリ、と小首を傾げながらアンドュアイスが言った。
 非常に可愛らしい。

 現在2人が居るのは神殿の使われていない部屋だ。
 逢引きをしている訳ではない。
 はずだった…。

「手、ですか?」

「うん、手」

 アンドュアイスに言われるがまま左手をルーシュは差し出す。
 その手を握り込まれ、ルーシュの心臓が跳ねた。

(え、え、?何で手握る訳?つか私手汗酷くない?つーかアンドュアイス様の手って冷たくて気持ちいいな、子供体温じゃないんだな…て何を考えている私ぃ―――――っ!!)

 最近のルーシュは挙動不審である。
 主にアンドュアイスに対して。

「この指かな?」

 アンドュアイスが懐から小さなリングを取り出した。
 ルーシュの髪と同じ若葉色の小さな宝石の付いた指輪だ。

(ゆ、ゆびわぁぁぁあぁあぁっ!?)

 思わず心の中で叫ぶ。

 ルーシュが心臓をバクバクさせているのに気づきもせず、アンドュアイスがルーシュの左手の小指に指輪を嵌めた。

「うん、サイズぴったりだね」

「あ、アンドュアイス様、これは…?」

 耳まで真っ赤にさせたルーシュが尋ねる。

「サイヒがね、悪魔を相手するんならこれ位の用意はしておくように、て」

「サイヒェ…」

 ルーシュは肩をがっくりと落とした。
 先程までの緊張を返して欲しい。

「何の付与ですか?」

「え、全体強化」

「えらく大まかですね?」

「うん、何かね、魔力と身体能力と治癒能力と予知能力を上昇させるんだって」

「……確かに全体強化ですけど、何ですかその伝説級の魔道具…」

「なんかねー5分くらいで作ってた」

「歴史上の職人に謝れサイヒ!このレベルの付与が1つ5分とか!」

「あ、僕のもお揃いであるから2つで5分だよー」

「サイヒェ……」

 常識に囚われたはいけない相手だと分かってはいたが規格外過ぎる。

「え、お揃い?」

「ほら、僕のは碧ね」

 アンドュアイスの左手の小指に同じデザインの指輪が嵌められていた。
 違いは石の色だけだ。
 アンドュアイスの指輪の宝石は、その瞳の色と同じ碧だった。

「僕のは魔力じゃなくて法力の強化なんだってー、ね、お揃いで良いよね」

 ニコニコと嬉しそうなアンドュアイスに、ルーシュはどう反応したら正解なのか分からなくなった。
 アンドュアイスにそう言う気は全くないのだ。
 何せ5歳児並みのピュアさなのだから。

(何か私だけ変に意識して恥ずかしいんですけど!どうしてくれるんだサイヒ!!)

 今は帝国にいるだろう心友に心の中で文句を言う。

「ルーシュ、僕とお揃い嫌?」

「え?」

「だって眉間に皺よってたよ?」

 そう言うアンドュアイスの眉間にも皺が寄っている。
 眉根を寄せて、泣き出す寸前の様な顔だ。

「嫌じゃないです!お揃い、嬉しいですよ!!」

「ほんと?良かったー」

 泣いたカラスがもう笑う。
 アンドュアイスが無邪気な笑顔を浮かべた。

「折角のお揃いだから壊さないように気を付けよーね。で、ずっと一緒に付けてよーね」

(やっぱり次ぎ会った時覚えてろよサイヒ!)

 無垢なアンドュアイスの笑顔に心臓が激しいビートを刻むのを意識しない様にしながら、ルーシュは再び心の中でサイヒに向かって毒づいた。

 決戦迄あと数刻……。
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