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「あぁ相変わらず良い匂いがするなルーシュ。抱き心地も以前より柔らかくて気持ち良い事この上ない!若葉色の髪と稲穂色の瞳も美しい。私に会いに来たと言う事はようやく私のモノになる決意が付いたと思って良いのだな。ドレスは国1のデザイナーに仕立てさせよう。いや、その前に指輪の用意か?お前が望むものなら何でも用意してやる。結婚式は国を挙げて盛大にしようではないか!!」

「ちょ、ちょっとポラリス様!ノンブレスちょーこえーっすから!!」

 ルーシュとポラリスのやり取りを皆がポカンと口を開けて見ていた。
 固まっていた時が動き出したのは、聖騎士の1人がルーシュの姿に気づきを得たからだ。

「ルーシュ?って、ルーシュ・サウザント・ドラゴニア!?」

「なっ、あの最年少で聖騎士団に入ったルーシュ!?」

「でもルーシュは仕事中に殉職したって」

「それにあの子どうみても女の子だぞ!」

「でも髪も瞳の色も同じだし、背丈も同じぐらいだぞ?」

「いや、でもすね毛ねーぞ?」

「ちいさいけどおっぱいもあるし…」

「「「「「………おっぱい」」」」」

 皆の視線がルーシュの胸に集中した。
 この場に居る者はおっぱいに飢えているのだ。
 聖騎士なんて言われているが特訓と警備と執務で聖騎士に女と接する機会はない。
 紅一点のポラリスは上司であるし、なにより美形だが胸はまな板だ。
 存在を忘れられているが聖女もロリ体型である。
 そんな中、ちっぱいとはいえ、ちゃんと服の下から主張するおっぱいの持ち主が現れたのだ。
 見るなと言うものが無理だろう。

「貴様ら、私のルーシュを視姦するのは止めて貰おうか…」

「言い方ぁ―――っ!!」

 その場を凍てつかしそうな冷たい声を、ルーシュ悲鳴が遮った。
 危ない所であった。
 ポラリスは”冬の化身”と呼ばれるほどの氷魔術の使い手だ。
 その気になったら聖騎士全員が凍てついていたかもしれない…。

「そのノリ、その不憫なオーラ!」

「不憫なオーラは必要ないかんね!」

「皆に振り回される突っ込み役!」

「好きで突っ込んでいるんじゃねーから!!」

「「「「「ルーシュお前、女だったのかぁぁ――――――っ!!!!」」」」」

 聖騎士団の大声が訓練所に木霊した。

 :::

 そうしてルーシュの正体は無事にバレて、現在どうしてこうなったのかを吐かされていた。

「男装して聖騎士団って…」

「男性ホルモン増幅の魔術…」

「確かにあの頃は男よりの中性的だったが…」

「今はボーイッシュな女の子にしか見えないよね…」

「つーかコイツ、俺らと風呂入ってたよな…」

「あの頃は紛れもない雄っぱいだったのに…」

「今は小さいが見事なおっぱいだ…」

「じゃぁ頑なに腰のタオル外さなかったのって…」

 ブッ!!

 数名が鼻血を拭いた。
 何せ女性慣れしていないのだ。
 一緒に風呂に入っていたのが女だと言うだけで鼻血案件である。
 しかも相手はタオル1枚。
 男に見えようが、そのタオルの下には女の子の大事な所がちゃんと隠されていたのだ。

「タオル、剥ぎ取れば良かった…」

「こえー話し止めなさいって!!」

 聖騎士団はルーシュを中心に賑わう。
 逃げ出したいルーシュの腰はがっしりとポラリスに抱きかかえられている。
 四面楚歌と言う奴だ。

「ちょっと――――っ!!」

 金切り声が響いた。
 視線を下に落とせば聖女が怒りで顔を真っ赤にしていた。

「これはこれは聖女様、急に大声で怒鳴るなど淑女にあるまじき行いですよ」

 ポラリスが冷ややかなアメジストの瞳で聖女を見つめる。
 ルーシュを見つめる熱の籠った眼の対極だ。

「そっか、今日は聖女様に加護を授けて貰うんだったな」

「ルーシュの存在で忘れていたわ」

「つーか本当ルーシュ可愛くなったな」

「うんうん、ちゃんとおっぱいあるしな」

 皆の視線がルーシュを上から下を眺めた後、聖女を上から下まで眺める。
 真っ平だ。
 身長も低い。
 せめてポラリスくらいの美貌があれば真っ平でも女性として意識するのだろうが…。
 刺激されて微かに父性が、と言うところだろう。

 はぁ、誰かが溜息を吐いた。

「何よ!元聖騎士?男装?意味わからない!平民の癖に聖騎士だなんて!!」

「ルーシュは公爵位の将軍家の令嬢だ」

「へ?」

 ポラリスの言葉に聖女が間の抜けた声を出した。

「聖女殿は偉く自分の位に自信があるようだが、所詮は伯爵家。ルーシュは公爵位の将軍家、比べるのもおこがましいほどの爵位の差だな」

「う、嘘よ!そんな訳!!」

「さらには最年少で聖騎士団の試験に受かり、3年間”歴代最強の剣聖”とまで言われていた天才だ」

「それでも、私は聖女なの!そんな女より私の方が偉いんだからぁっ!!」

「五月蠅い」

「ひっ!」

「私のルーシュをそれ以上侮辱するなら、それなりの処置は取らせて貰う。聖女だから何でも許されると思わないで貰おうか。確かに聖女の破邪結界は必要かもしれないが、だからと言ってお前の身が王家より尊い立場だとでも勘違いしてないか?聖女はあくまで国民で私は王女だ。そしてお前は王女の宝に暴言を吐いた。不敬罪に取られても仕方ないかとは思わないか?」

「あ、ちがっ、私そんな、つもり、じゃ……」

 ノンブレスで攻め立てるポラリスに聖女は今にも泣きそうである。
 それでも救いの言葉をかける者は居なかった。
 同じ死線をくぐって来た元同僚を貶められて誰が好意を抱けようか?

「ポーラ様、聖女様の加護は後にしても良いでしょうか?体調が優れないようなので少しお休みを頂きたいです。構いませんか?」

「ぐっ、こんな時に愛称で呼ぶなんてズルいぞルーシュ。好きにしろ」

「有難うございます。そちらの使用人の方、聖女様を休憩できるところへ」

「其方が付いて行くのではないのかルーシュ?」

「私がいっては逆効果でしょうから…」

 使用人に肩を抱かれよろよろと聖女は広場を後にした。
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