男として育てられた公爵家の令嬢は聖女の侍女として第2の人生を歩み始めましたー友人経由で何故か帝国の王子にアプローチされておりますー

高井繭来

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 本日のルーシュは何度目かになる結界の修復作業をする聖女のお供していた。
 相変わらず「足が痛い」だの喚いている。

 五月蠅い事この上ない。

 大体、結界に綻びが出来るのは聖女の結界を張る能力が弱いからだ。
 事実、他の国の崇めたてられている聖女は結界に綻びなどそうそう起きない。
 数日おきに結界の修復をしなければならないのは、それだけ力が弱い証拠である。

 聖女は神の加護を受け子宮に法力を宿す。
 その法力は一般の法術師の数百倍だと言われている。
 だが数百倍と言っても、100倍と900倍では話が違う。
 聖女にもピンからキリまでがあるのだ。
 そしてフレイムアーチャの聖女はピンキリのキリの方であった。

 だが聖女たちの仲に交流は無い。

 なので自分以外の聖女がどれほどの力を宿しているかなど知りようが無いのだ。
 他国の聖女とも面識のあるサイヒの方が異例なのである。

 そのサイヒは子宮に神の加護を宿さず、己の法力だけでピンの方の聖女と同等の力があった。
 さらにその力は全力の0.5%程度。
 つまり一般の法術師の900倍の法力の聖女の200倍の法力量である。
 コレを化け物と呼ばずして誰を化け物扱いできようか?

「きゃぁぁぁぁぁっ!!」

 甲高い声が鼓膜を震わす。
 何時の間にか脆くなった結界を破って魔獣が入り込んでいたらしい。
 思考に浸っていたためルーシュも見逃していた。
 魔獣は敵だと認識して聖女を真っ先に襲おうとした訳だ。

 ザシュッ!

 一閃。
 ルーシュの剣が魔獣の首を狩った。

 ブシュッ、と動脈を切られた熊型の魔獣の首から血が噴き出す。
 その生暖かい血を、すぐ傍に居た聖女は頭から浴びる事になった。

「あっあっあっあっ……」

 両目からボロボロ涙が流れている。
 相当恐ろしかった様子だ。
 よく見ると腰を抜かした聖女の尻の辺りの地面が濡れていた。

「どうぞ、羽織っていて下さい」

 ルーシュは外套を外すと聖女の肩にかけた。
 これで背の低い聖女のお漏らしは隠せるだろう。

「な、何よ!憐れみをかけるつもり?平民の癖に、平民の癖にぃっ!!」

 キンキンと甲高い声が五月蠅い。
 ルーシュは視線でその意を聖女に伝える。

「平民の癖に伯爵令嬢で聖女の私を見下してるんじゃないわよ!ちょっと剣が使えるからっていい気にならないでよね!!」

「そんなつもりは無かったのですが…失礼をお許しください聖女様……」

 形だけの謝罪をする。
 命を助けて罵倒してくる相手に心から礼を尽くせるほど、ルーシュの器は大きく出来ていない。

「聖女様、こちらへどうぞ」

 付き添いの騎士が聖女を抱きかかえる。
 中々のイケメンの騎士で聖女はとたん機嫌を良くした。

「貴方は貴族出身だけあって礼が出来ているわね。確か子爵家の者でしたね。このまま神殿迄運んで頂戴」

「畏まりました」

 喜ぶ聖女を抱きかかえて騎士はルーシュの方を見る。
 そして嫌見たらしい笑みを浮かべた。

(平民の分際ででしゃばるな、か。父が私の新しい戸籍を平民で作ったから面倒臭い立ち位置になったじゃねーか。今度帰ったらありったけのポーション使って何十回も半殺しにしてやる、覚悟しろ父よ!)

 本来なら子爵家程度の貴族に無礼を働かれる立場では無いのだルーシュは。

「全く、貴族と言うのは煩わしい…」

「うむ、その気持ちはよく分かるぞ」

「身分がどーのこーのって!実力主義社会にするべきだ!!」

「そうだな、それならお前の腕なら国の上層部に再び伸し上がれるだろうな」

「だろ、お前やっぱりよく分かって――――っ!!」

「顔が酷いぞルーシュ」

「何でお前がココに居る訳サイヒ!?」

「クッキーの試食に飽きたので聖女の見物に来た」

「気配なかったけど【隠遁】の魔術使ってた?」

「いや、気配を消して自然に溶け込んでいただけだ。雄大な自然の前では人1人の気配などちっぽけなモノだ」

「ちっぽけじゃないから気配消してたんだろうが!どこから見てた?」

「お前が魔獣に気付く前だな」

「最初からかよ!」

「なかなか良い動きだったぞ。家賃の成果は出ているか?」

「そこ家賃じゃなくて訓練って言ってくれない?何か凄く惨めに感じるから」

「言葉を変えてもやっている事は同じだ。胸を張れルーシュ。ただでさえ小さいんだ。少しでも良く見えるよう胸は張っておけ」

「悪かったな小さくて!」

「気にするな、問題は大きさでなく形だ。それに小さいほうが良いという男もいる。堂々とその小さな胸を張るが良いぞ」

「ただでさえ体つき前と変わって傷ついてる私を虐めて楽しーか!?泣くぞ!!」

「虐めるとは心外な。私は親友を大切にしてる事にかんしては右に出る者は居ないと自称しているぞ」

「うん、自称ね!他称は違うから1度自分をどう思うか他人から聞いてみて!」

「人から自分の印象を聞けか…私は本命以外からプロポーズされるのは喜ばしいことでは無いのだが……」

「お前に言った私がバカだった…お前異常にモテるもんね……名産品になっちゃう魔性の紳士だもんね!」

「ルーシュ、ソレは違うぞ。私は淑女だ」

「そー言う問題じゃねーの私が言いたいのは!!」

「まぁクッキーでも食べて落ちつけ」

「そのクッキーどうした訳?嫌な予感するんだけど…」

「あぁ神殿のシスターやメイド達が「名産品を作る!」とやけに気合を入れてクッキーを作っていた。食べきれなかった残りだ、存分に食べてくれ」

「残り物あんがとね!んでこのクッキーがどうなるか分かってない天然どうにかしてね!!」

「ルインにも分けてやるとしよう」

「私の使い魔誑かさないでぇぇぇぇぇぇっ!!」

 泣きながら頬張ったクッキーは微かにしょっぱかったらしい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 急いでルーク!
 本当に『シスターハナクッキー』が出来ちゃうよ!!
 今回はちょっぴり格好の良い(当社比)ルーシュでした。
 最後に不憫な目にあってますが…。
 そしてウザ聖女たんはお漏らししてしまいました( ^ω^ )カワイソス
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