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 本日のお仕事は王宮でのお茶会のお供。
 コレは仕事なのだろうか…。
 聖騎士時代とあまりに労力の違う仕事内容にルーシュは頭を抱える。
 だが労力は少なくともストレスは今の方が満載だ。

 いっそサイヒの様に国を抜けて新たな人生でも送ろうかとも思う。
 自分の実力なら冒険者としてでも十分にやっていけるだろう。
 剣術にも魔術にも自信はある。
 流石に法術は使えないが。

 法術は魔道具で何とかなる。
 怪我は【回復】ポーションで直せばよいし、毒は【解毒】のポーションで治せばよい。
 流石に病気までは治せないが、これは聖女にだって治せないので問題点に上げるところではない。

 自分の規格外の友人なら病気も治せるのだが…。
 本当に規格外だと思う。

 そんな友人は国を出てガフティラベル帝国で過ごしているらしい。
 銀色の毛並みにエメラルドの瞳の美麗な猫を拾ったと、喜ばし気な文が届いた。
 猫と言っているが、どうせ又人を誑かしたい違いない。
 その辺りルーシュはサイヒの”誑し”としての性質に信頼を置いている。
 聖女時代も神殿の者を老若男女誑し込んでいた。

 そして恐ろしい事にサイヒに誑し込まれた者は皆”乙女化”するのだ。
 仕事でカカンに行った時の教主(80代の老人だ)の目を潤ませて頬を染めサイヒを見ていた光景は思い出したくもない。
 幸い自分は友情を育んでいるので、最悪の事態は免れている。

 それにしても誑し込みながらも特定の人間しか心を開かないサイヒがわざわざ”拾った”と言わしめる”猫”とは一体どんな人物なのか、大変興味深い。
 いっそ本当に冒険者にでもなって会いに行ってみようか?

 そんな事を思うがルーシュは家族大好きな良い子であるので、家族の迷惑になることを出来る性格ではない。

「いっそ勘当してくれたらマシだったのな。中途半端な慈悲で神殿に放り込んでくれた父上を恨む私は悪くない」

 本日のルーシュは不機嫌なのである。
 これくらいのボヤキは許して欲しい。
 それほど王宮のお茶会は憂鬱なのだ。

「前の職場の知り合いに会うとか嫌だぞ私は。まぁバレないと思うけど…女として扱われるのは気持ち悪い事この上ないぞ。まぁ昔の同僚はまだしも天敵と会うのは避けたい…」

「ほぅ、天敵と言うのは誰だ?」

「そりゃ勿論、聖騎士団長のポラリス様に決まってるだろ」

「それは悲しいな。私はこんなにルーシュの事を想っていると言うのに」

 ………。
 ……………。
 …………………。

「ポ、ポポポポポポラリス様!?」

 ルーシュが己の身を腕で抱きしめて壁に体が当たるまで後ずさった。

「哀しいな、お主にはポーラと愛称で呼んで欲しいとずっと言っておるであろう?」

「いや、それは流石に不敬罪に…って何で私がルーシュだと分かったんですか!?」

「愛の力だ。前から言っておるであろう、私はお主を好いておると。しかし騎士の格好も凛々しく良かったが、メイドの格好は可愛らしいのう。食べてしましたい」

 ペロリ、とポラリスが形のいい唇を舌で舐める。
 綺麗なアメジストの瞳が獲物を見つけた肉食動物のようにギラギラと輝いている。

「いい加減に私のモノになれルーシュ。私から求愛するなど其お主だけだぞ?」

「わ、私には同性愛の気はないですからっ!!」

 白金の髪にアメジストの瞳を持つ美麗な元上司にして、このフレイムアーチャの第1王女の男装の麗人”ポラリス・フォーチュン・フレイムアーチャ”に向かってルーシュは大声で拒否の言葉を発した。
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