顔を焼かれ妹に荒野に捨てられた公爵令嬢、その身を偽り皇太子の護衛として王国へと帰還する

【２４話】

　まさかこうも上手くいくとは思いませんでした。

　カレンは既に１６歳とは思えないほど老け込んでおります。

　肌理の粗いカサついた肌。
　浮き出て来たシミ。
　深く掘り込まれた皺。

　還暦近いと言われても信じるかも知れません。
　ちなみに義母も同じ症状です。
　義母は元々年がいって居たのでカレンほどダメージは少ないでしょうけど。

　化粧でも隠せない美貌の衰え。

　顔だけでなく肌の全てから水分は抜き取っています。

　夜会ではベールで顔を隠し、首まである露出をしないドレスを着て出席しています。
　そりゃそうでしょうね。
　もう体中しわしわですから。
　シミも浮かび上がって見せられるものではないでしょう。
　ご自慢のデコルテもこれでは出せませんね。
　唯一の私に勝てる武器だったのですのにね、大きなお胸。
　その胸も張りを失い垂れさがっています。

　もう娼館でも買い手が付かないでしょう。

　顔に麻袋を被せても賊にだって見向きもされません。

　でもまだマシでしょう？
　だって痛みがありません。
　私はそれはそれは痛い思いをしたんですよ？

　顔の皮膚が爛れて。
　眼球が熱を持って。
　首まで皮膚がめくれて。

　貴女はまだそんな痛みを知らないでしょうカレン？

　でもね、私は痛いのは嫌いなんですよ。
　ですからこのまま堕ちて行って下さい。
　貴女が全てを失えば私はそれで満足ですから。
　虫けらのように誰にも相手にされずに。
　蛇蝎の如く忌み嫌われる存在になって下さい。

　いえ、もうすでになりつつありますね。

　『カノン・ロゼ・フォーチュンの呪い』

　巷ではこの噂で持ちきりです。
　フォーチュン家の口の軽い使用人が思わず滑らしたカノンが受けていた仕打ち。
　カレンが行った残虐なる行為。
　それはこの国の、ほぼすべての人が知っています。

　カレン知っていましたか？
　人間は悪意のある話の方が好きなのですよ？
　貴女が私に打ち付けた悪意は、何倍にもなって貴女に還ります。

　今やフォーチュン家に関わるものは皆恐れています。

　次に『カノンの呪い』を受けるのは自分ではないかと。
　使用人は次々辞めていっています。
　働いているのはどうしてもお金が必要な訳アリのものばかり。
　ですがとてもあの大きな邸を賄えるだけの人数は集まりません。
　家が日に日に没落していく気分はどうでしょうかお父様？

　今や『呪い』を恐れてフォーチュン家と外交しようとする者は減ってきています。

　莫大な資産は何時まで続くでしょうかね？
　私の『呪い』はカレンと義母にしかかけていない訳ではないのですよ。
　フォーチュン家の所有する土地の水分を抜き取っています。
　もうこれからは広大な土地で取れていた産物は取れないでしょう。
　ですが広大な分、土地にかかる税金は少なくありません。
　実入りが無いのに取られるお金だけは同じ。
　それに何時まで耐えれますか？

「ポリフォニー、何だか楽しそうだな？」

「そうですね、皇太子様が美味しそうに私の作ってくれたシフォンケーキを食べてくれているからでしょうかね」

「お代わりもしようか！？」

「駄目です、夕食が入らなくないりますよ」

「もうずっとポリフォニーの料理だけ食べていたい」

「私が皇太子様の専属料理人にでもなれば可能ですよ？ただし厨房に籠るので会える時間は減ります」

「う”う”う”う”～～～～っ」

　ソレ、そんなに悩むことですかね？
　でも、毎日私の用意する食事だけをとって、体の細胞が全部私が作った物だけでDNAレベルで皇太子様を作り上げたい、と思うくらいには私は皇太子様の事が好きなのですよ。

　内緒ですけどね。