上 下
13 / 59

【12話】

しおりを挟む
 キラキラとシャンデリアが輝き会場を照らします。
 今日の夜会の主役は皇太子様とその婚約者でした。
 過去形なのは、今ここにカレンが居ないからです。

 どうやらカレンが食べたマドレーヌの隠し味が効き過ぎたみたいです。
 今頃トイレと仲良くしている所でしょう。

 流石に脱糞の恐れを考えたら出たくでも出れませんよね夜会に何て。
 何せ高位貴族方々が集まられた夜会ですからね。
 皆、皇太子様とその婚約者に興味津々です。
 1人目の婚約者が消えたので、代わりに婚約者になったその妹に興味が尽きないようです。
 前の婚約者が居なくなった理由が理由ですから、妹は大丈夫なのかと色々皆様思うところがあるようです。

 1人目の婚約者。
 カノン・ロゼ・フォーチュン。
 事故で顔を焼き爛れせ、そのまま姿を隠した少女。
 噂では何処かで生きているんではないかとも噂されます。
 ですが焼き爛れた顔をした女が今更何が出来るでしょうか?
 惨めにみすぼらしく生きていくしかありません。

 例えば気紛れな神様でも居ない限り……。

 ですが気紛れな神様は居ました。
 そしてカノンは姿と名前を変えて、戻ってきているのですよ。
 此処に居る誰も気付いていないでしょうけど。

 皇太子様の1番近くに何時も居ます。
 『ポリフォニー』と名前を変えて。
 神様に性別を変えて頂いて。
 
「皇太子様、ご機嫌が悪いのは治ったようですね?」

「こんな事を言ってはいけないのだろうが…カレンを婚約者だと紹介しなくて済んだことにホッとしている……」

「皇太子様はカレン様を愛していらっしゃらないのですか?」

「私が愛していたのはカノンだ。大切にしたいと、大切にしていくのだと思っていた。カノンが今も何処かで生きているかもしれないのに、カレンを婚約者だと紹介などしたくはない……」

 鼻の奥がツンとしました。
 瞳も涙で潤みます。
 仮面があって良かったです。
 今私の顔は酷い表情を浮かべているでしょうから。

 皇太子様が私を愛して下さっていた。
 大切にしたいと思って下さっていた。

 嬉しい、嬉しい、嬉しい……
 でも同時に酷く哀しい。
 だって皇太子様が仰ったじゃありませんか、『愛していた』『大切にしていくのだと思っていた』と。
 そう全ては過去形なのです。
 その言葉から読み取れるのは、カノンを愛していた事。
 そして今はその愛はカノンに無い事。

「カノン様はもうおられません…皇太子様も次の恋を知り、慈しむ相手を、将来を共にする相手を見つけるべきだと思いますが?」

「あぁ、そうだが…カレンは駄目だ。私はフォーチュン公爵家を信用していない。政治的な面でフォーチュン家の者と婚姻すべきなのだと言う事は分かっている。分かっているのだが…カノンを悪しきにしか言わないフォーチュン家に心開くことなど出来るはずがない………割り切るしかない事は分かっているのだがな、好意を持つ者と契りを結べないのは何時でも辛いものだ………」

 その言葉がもう1つの事を語っています。
 皇太子様は…今誰かに恋をしておられます………。
 何時か皇太子様が言っておりました。
 初恋はカノンであると。
 そして何時でも辛いものとは、今カノン以外が心の中にいると言う事です。

 誰、なのでしょうか………?

 私の知っている方?
 知らない方のはずがありません。
 だって私はポリフォニーとして皇太子様の1番傍に居るのですから。
 それとも、私が天界にいた間に誰かに恋をなされたのでしょうか?

 皇太子様誰をお慕いしているのですか?

 優しい方ですか?
 美しい方ですか?
 
 その方は皇太子様を愛しているのですか?

 私は今でも皇太子様を愛しております。
 でも復讐を誓いポリフォニーになった身で、貴方に気持ちを伝える事など出来るはずがありません。
 私の心は復讐心で穢れてしまったのですから。

 貴方が恋する姿は見たくありません。
 だから私は復讐を早めましょう。
 皇太子様に仕える時間が愛し過ぎて、復讐に乗り出せなかったですが、貴方が他者と結ばれる姿を見たくないから私は復讐をし、貴方の前から姿を消します。

 ポリフォニーも貴方の前からいなくなります。
 その時、責めて少しだけでもカノンを無くしたのと同じように悲しんでくれるでしょうか?

 もしポリフォニーが消えたのを皇太子様が悲しんでくれたら、それだけで私は貴方に近づいただけの価値がありました。
 それだけで十分私は幸せです。
 だからもう少しだけ、後ほんの少しだけ傍においてください。
 私が思い出だけで生きていられるようになる間だけ、御傍においてください皇太子様。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

処理中です...