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【10話】

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 王族の所持している馬車は揺れが少ないです。
 名工たちが腕を振るって作った馬車です。
 乗り心地が悪い訳がないですね。
 馬だって良馬ばかり集めています。
 皇太子様が通う学園に向かう馬車の中。
 そんな馬車の中で、何故か私は皇太子様を膝枕しております。

 昨日はよく寝れなかったようです。
 そんなに今日の夜会が嫌だったのでしょうか?

 くぅくぅと可愛い寝息を立てて眠る皇太子様の碧の髪を指で梳きます。
 サラサラで気持ちがいいです。
 皇太子様も気持ちが良いのか頬を緩めています。
 こんな警戒心の無い寝顔晒してて良いんですか?
 私はただの護衛ですよ?
 もしかしたら誰かが仕向けた刺客なのかも知れないのですよ?

「ん、…フォニー……」

 寝言。
 小さい声ですがちゃんと聞こえてしましました。
 私の事を呼びました。
 カノンではない今の私。
 ポリフォニーの名前をどうして呼んだのでしょう?
 また何かオヤツのおねだりを夢の中でしているのでしょうか?

 皇太子様は度々私の手作りの菓子を強請ります。

 専属のパティシエが作った菓子の方が美味しいと思うのですが…。
 まぁ私も菓子作りにはそれなりに自信がありますよ。
 何せ神様のお茶の用意を全てするお方に弟子入りしていたのですから。
 菓子作りも習いました。
 神様からも及第点を頂いております。

 子供の頃から慣れ親しんだ味、と言うのが1番美味しいんじゃないかと思うんですけどねぇ…。

 まぁ、嫌な気はしませんが。
 むしろ私の手作りの菓子を美味しいと食べてくれるのは嬉しいことです。

 でも本当に、もう少し私に警戒心を持ちましょうよ皇太子様!

 野盗から助けた親切な人物な私ですが、野党仕向けたのも私ですよ?
 自作自演です。
 王宮に入るにはこれが1番手っ取り早かったので。
 狙い通り王宮に入れましたが。
 皇太子様の護衛の立場も手に入れましたが。
 皇太子様の信頼も勝ち取っていますが。

 顔の上半分を仮面で隠した素性の知れない私にそんな無警戒で大丈夫なんですか!?

 何故こんなに警戒心が無いのでしょう……。
 私だから良いものの、よからぬ輩はこの世に腐るほど居るのですよ。
 もう少し警戒心を持ってくださいよ………。

「フフ…オヤツー………」

 オヤツー、じゃないですよ。
 本当に菓子の夢見てたんですね。
 想像が当たってしまい私の方が気が抜けます。
 護衛の気力削がないで下さいよ……。

 あ、涎がズボンに。
 汚いとは思いませんが、男の膝枕で寝ながら涎をその足に垂らすのはどうかと思いますよ。

 仕方が無いから皇太子様が授業を受けている間に、何か簡単な焼き菓子でも作っておきますよ。
 もうすっかり家庭科室は顔パス(仮面パス?)になってますから。

 さぁ、何を作りましょうかね?
 食堂から材料を適当に買って、出来合いの物しか作れないけど文句は言わないでしょう。
 1度も言われたことありませんからね。
 目が覚めたらお菓子を作ることを言いましょう。
 きっとキラキラとした目をして、満面の笑顔を浮かべてくれるんでしょうね。
 すっかり甘やかしていますけど、これ位の幸せを望んでも神様は怒らないでしょう。
 
 さぁそろそろ学園に着きます。
 寝坊助さんを起こしましょう。
 馬車から出る時には身なりをちゃんとして、皆が憧れる皇太子様に戻って下さいよね。

 貴方の可愛い所を知っているのは私だけで充分なのですから。
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