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御使い様が誑しに進化しました

【御使い様は学びたい39】

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 獣車の旅も2週間を過ぎようやくフレイムアーチャにやって来た。
 因みに本来は10日程の旅であったのだが、深海とフィルドが熱を出したので到着が遅れたのだ。
 その事に文句を言う者は居なかった。
 深海が乗客と御者にパウンドケーキと銀貨数枚を握らせたのだ。
 貧民にとって銀貨は1枚でも貴重だ。
 何せ町についても宿をとれないレベルの乗客たちも大勢いたのだ。
 その客たちは獣車で夜を明かした。
 ベッドで寝れる深海たちは規格外の乗客なのだ。

 だが銀貨数枚と、今まで食べたことも無い高級菓子を渡されて文句をいうものは無かった。
 この時代にまだパウンドケーキは無かったから皆が驚き、その美味しさに喜んだ。
 甘いものは貴重なこの時代にはパウンドケーキの甘さは貧民が味わえるものではない。
 機嫌も良くなろうものである。

 この獣車に乗った客たちは、後世までパウンドケーキの美味しさを伝えていったという。
 その村やスラム街では『ぱうんどけーき』と言う幻の菓子の存在がその後語られることになったらしい。

 そしてようやく着いたフレイムアーチャ。
 
 流石は軍事国家。
 街ごと囲む城砦が馬鹿高い。
 50メートルはあるだろう。
 それも3重になっているらしい。
 王宮が要塞と化しているし、街に入ろうとしている殆どの者が傭兵や冒険者である。
 クエストを求めてやってきたのだろう。

 城砦に入る審査もかなり厳しそうであるが、カグウから手形を持たされている深海たちには何の問題も無い。
 今や大国に並びつつある王国の国王が発光した手形なのである。

 手形と言ってもカグウが手にインクを付けて紙に手形を押したわけでは無い。
 往来手形と呼ばれるものだ。
 位の高いものでしか発行できないものである。

 往来手形とは江戸時代の旅行許可書で,通行手形ともいった。名主(なぬし)や所定の役人が発行し,旅行者の氏名・年齢・居住地のほか,旦那(だんな)寺や旅の目的などが記されていた。
 おもに旅先の旅籠(はたご)屋での宿改めに利用されたが,関所手形を兼ねるものもあったものである。

「やっと3分の2ですね」

「フレイムアーチャの次はクロイツだからね」

「ここでは何か必要なことはあるかしらフカミ君?」

 ルナトーの言葉に深海は考える。
 王都に入ったは良いが、見る店は飲食店か武器屋、道具屋、宿屋くらいだ。
 ガフティラベル帝国のように生活を潤すための物と言うのが売っていない。
 カカンに武器を取り入れる案は無いので参考にするものはないはずだ。
 そうフィルドとルナトーは思ったのだが。

「武器屋が見たいですね」

「「えっ!?」」

 意外な答えが深海から帰ってきた。

「カカンで武器売るのフカミ君?」

 ルナトーが首を傾げた。
 フィルドも後ろで同じように首を傾げている。
 
 ルナトーが可愛いのは分かる。
 だが何故身長190近い大男のフィルドにこの仕草が似合い、あまつ可愛いのであろうか?
 世の中不思議なものである。
 そして深海はルナトーよりフィルドが可愛く見えてしまうので、クロイツに着いたら眼科か精神科か脳外科にでも行った方が良いのかと思っていたり。

 可愛いと思われているフィルドは喜ぶべきか、病院が必要かと思われているのを憐れむべきか。
 難しい問題である。

「一応、ですね。あってはいけませんが戦争になった時なんかは相手の手持ちの武器を知っておくのは基本ですから」

 深海が答えた。
 理由が物凄い不穏である。
 平和な時代から来たのに何故にこうも戦闘に特化したメンタルをしているのであろうかこの存在は。

「まぁらしいっちゃらしいけどね~」

 それを、まぁフカミちゃんだからで受け入れるあたり、フィルドも深海至上主義が日に日に拍車をかけているのであった。
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