聖女として召喚されたのは双子の兄妹でしたー聖女である妹のオマケとされた片割れは国王の小姓となって王都復興を目指しますー

高井繭来

文字の大きさ
上 下
96 / 161
御使い様が誑しに進化しました

【御使い様餌付け禁止事案】

しおりを挟む
「良い匂いがする」

 メイドの1人とすれ違った時、深海はぽつりと呟いた。
 その言葉にメイドが歩みを止める。

「どうかなされましたか御使い様?」

「貴女からとてもイイ匂いがする。甘い、美味しそうな匂いだ」

 深海がメイドの目を覗き込む。
 そこに微かに熱が宿っている。
 まるで瞳の奥から心の中まで覗かれそうな視線だ。
 メイドは胸を高鳴らせた。

「え、と…厨房でお菓子を作っておりました。その香りでは………?」

 メイドは顔を赤くして答える。
 仕方ない。
 深海は距離を詰め、メイドの近距離で匂いを嗅いでいた。
 お菓子の匂いしかしていないとは思うが、自分の匂いも嗅がれそうで恥ずかしい。
 まだピュアなメイドは体を硬直させた。

「お菓子?…きっと美味しいのだろうな、とても良い匂いだ」

 フワリ、と深海が笑みを浮かべる。
 普段は気の強そうに見える深海の双眸が優しく細められ、メイドの心拍数はかつてない以上に上がった。
 周りで見ている使用人たちも顔を赤くしている。
 最近の深海はやたらと色っぽいのだ。
 主に女性をときめかす色気だ。
 乙男もときめいている。
 何ならノーマルなはずの男すらその色香にくらりと来る。

 ”もう好きにしてください!つーか抱いてください!”

 そう言いたくなる怪しげな色香だ。
 メイドもその色香にもうくらくらしてきている。

「俺も頂きたかったな、お菓子……」

「ちゅ、厨房に作り置きしています!良かったら食べて下さい!!」

「良いのか?」

「何なら御使い様のために食べたいだけお菓子作らせて貰います!」

「それは、楽しみだな」

 うっとりとした表情で深海は笑みを濃くした。
 発情期(1部しか知らない)時の深海の色香は質が悪い。
 こうして大勢のメイドが菓子を作りに厨房に押し寄せたのだと言う。

 :::

「ふーちゃん、甘いもの食べすぎだよ?ご飯食べないと!」

「今は食事よりも甘いものが食べたい」

 両手いっぱいに菓子を入れた包みを抱きかかえて、深海は鳴海に返事した。

「ん~そう言う時期だってわかっているけど…やっぱりご飯しっかり食べないと貧血で倒れちゃうよ?」

「甘味しか今は受け付けない」

 鳴海とて分かっている。
 深海はホルモンバランスが悪いのか、月の物の前には発情期に入るし、来たら来たで甘未しか摂取しなくなる。
 それ自体はずっと変わっていない。
 変わっていないのだが…今の深海は悪質なのだ。
 少し前まで深海に色気など無かった。
 それがフィルドとお泊りデートに行ってから、深海はすっかり色気を纏うようになってしまった。
 男としての色気だが……。

 一回フィルドに本当に何も無かったのか問い詰めなくてはいけない。
 鳴海は心の中で誓った。
 もし内緒で一線を越えていたら地面とお友達になって貰おう。
 そう思うくらいに深海は変わってしまった。

 そして1日中、食べきれないほどの甘味を腹に摂取するのである。

 厨房の定員割れと、風紀事情。
 食材を使いつくされんとする危機的厨房。
 特に水飴の減りが速い。
 砂糖は高価なのでそう簡単に使えないからだ。

 だが深海があまり砂糖を使わなくても、水飴で代用して菓子をいくつか作っていたのだ、そのレシピを参考にメイドたちが甘味を作りまくっている。

 そして甘味を渡したメイドたちは深海の嬉しそうな笑顔と、お礼を継げるため握られた手の感触に味を占めて再び甘味を作るのだ。

 ちょっとした問題になりつつある。
 水飴は確かに量はあるが、ソレにしたってここ数日の無くなりが酷い。

 そして料理長はラキザに泣きついた。

 ラキザはある意味厨房の主であるので仕方ない。
 こうして問題に頭を痛めたラキザは、深海に甘味を渡すのを禁止する命を下した。
 勿論カグウの許可は取ってある。

「……最近菓子が貰えなくなった」

「だからって水飴をダイレクトに舐めだすとは思わなかったよふーちゃん…my水飴まで作成して………」

 無ければ自分で作ればよい。
 もともと深海が残したレシピなのだ。
 だが気怠いこの時期に料理をする気にはなれなかったのだろう、深海は今ダイレクトに水飴を匙で掬って舐めている。

「水飴以外も食べたい……」

「じゃぁフィルドちゃんが美味しい甘いものを食べに連れて行ってあげよーか?」

「イチゴと練乳!!」

「んじゃジャクタル王国だね~♪」

 目を輝かせた深海にフィルドの胸が高鳴る。
 
(フカミちゃんが可愛い!!)

「フィルド様、まだ情緒が安定していないふーちゃんを通れ出す気ですか?」

 鳴海の笑顔が怖い。
 一泊したことをまだ鳴海は許していない。

「鳴海ちゃん、無言の圧が怖い…じゃぁせめて王都のカフェに連れて行くのは?」

「誰かほかの方も連れて行くのなら許可出します」

「鳴海ちゃんが冷たい」

「えぇ、わたしシスコンですから。フィルド様もご存じですよね?」

「鳴海ちゃんが牽制かけてくる…情緒安定してないフカミちゃんに変な事しないよ俺?」

「ふーちゃん、ラキザ様とフィルド様とお外でデザート食べてきて良いよ。絶対ラキザ様も一緒して貰うんだよ?」

「ん~何か知らないが了解した」

 こうして深海が落ち着くまで城の外で甘味巡りをする許可が出た。
 もともと人気のあった親衛隊のラキザとフィルド、そして今やファンクラブもある(7割が女である)深海がカフェ巡りをするため、一目姿を拝見しようと甘味屋が以上に繁盛するようになったと言う。
しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

処理中です...