上 下
79 / 161
オマケは御使い様になりました

【魔術師長様の恋煩い事情6】

しおりを挟む
「う、わぁぁぁぁぁぁ♡」

 深海が歓声を上げた。
 目の前に広がる緑と赤。
 草の間から覗く果実はルビーのように真っ赤だ。
 ツヤツヤと輝くその果実は深海の大好物の。

「イチゴッ!!!」

「食べ放題だよ~♬フカミちゃんイチゴ好きだと言ってたから連れて来てあげたかったんだ~♩」

 イチゴ畑に夢中になっていた深海がぐるん、と半回りしてフィルドの方に目を合わせる。

「愛してますフィルド様ぁっ!!」

 ガバッ
 チュッ

 深海がフィルドにダイブして、首に腕を廻すとフィルドの頬にキスをした。
 可愛らしいリップ音をたてる子供のキス。
 フィルドが得意とするキスはこんな幼稚なキスじゃない。
 どんな女でも腰を砕けさせる、ディープなキスがお好みだ。
 だけど…。

(ほっぺにちゅう!ほっぺにちゅう!やべ、俺今超嬉しいかも……)

 既に深海の意識はイチゴに向かっている。
 若干寂しい気がするが、今のフィルドには助かる流れだ。
 何せ顔が上気するのが鏡を見なくても分かる。
 これはもう耳まで赤いに違いない。
 そしてにやける口元。
 大きな手で隠しているが頬の筋肉の動きで、見る者が見ればフィルドが笑顔全開なのが分かっただろう。
 幸いこの場にソレが分かる者は居なかったが。

「フィルド様、これ食べて良いんですか!本当に良いんですか!?」

「勿論食べ放題だから幾つ食べても、畑中の全部食べても良いんだよ~♩もう料金は払ってあるから急いで食べないと制限時間くるよ?」

 パン!

 深海が手を合わせる。

「いただきますっ!!」

 元気よく深海は畑の中に入って行った。
 大粒のイチゴを取る度に目を輝かせて、口に放り込む。
 イチゴにも負けない赤さの舌が見えるのがちょっとエッチだなんてフィルドは思った。

 それにしても幸せそうに食べる。

 顔面の筋肉が崩壊している。
 始終ニッコニコだ。
 こんなに嬉しそうな深海は珍しい。

(イチゴごときでこんなに悦んでくれるならカカンにもイチゴ畑作ろうかな?あ、でもそうしたらデートが出来ないかぁ、他の奴らにフカミちゃんの為のイチゴ食べられるのも腹が立つし。うん、カカンではイチゴを栽培は止めよう)

 フィルドが決心した瞬間だった。
 本人は気付いていないが、深海の蕩ける様な笑顔を他の者に見られたくないと言うのもある。
 それくらい可愛い。
 普段は男にしか見えないのに、可愛い笑顔を浮かべている深海は女にしか見えない。
 制服の効果も凄いのだろう。
 何せスカート。
 あの深海がスカートを履いているのだ。
 下にスパッツをん履いているのは知っていても、普段見れない生足はやはり女らしい肉のつきかただ。

 深海は自分は筋肉の塊だから触れても気持ち良くないと思っているようだが、やはり男と女では筋肉の質が違うらしい。
 確かに筋肉の少ない女より深海は重いだろう。
 だがしなやかな筋肉は程よい弾力を持ち、手を押し返すその感触が気持ち良い。

 そして胸。
 制服を突き上げる胸のボリュームは年の割にかなり大きい。
 本人はコンプレックスの様だが、これは最早武器だ。
 おっぱいが嫌いな男は少ない。
 ちっぱい好きも居るが、男は大抵大きな胸が好きなのだ。

 証拠に深海とここまでくる間に何人の男が深海の胸元に視線を向けていた事か。

 ちなみにその輩には3日間下痢が止まらない呪いをコソッ、と掛けたおいた。
 器の小さい男と言うなかれ。
 成人男性だって好きな少女を舐めまわすような視線で見られて、何も思わない程器は大きく出来ていない。

(デートだったらフカミちゃんの服はナルミちゃんが繕ってくれるから、もれなく可愛いスカート姿が拝めるんだよね♪うん、定期的にジャクタル王国にはデートに来よう!)

「フィルド様は食べないんですかー?」

 随分と離れた位置から深海から声をかけられた。
 かなりのハイペースでイチゴを食べているらしい。
 深海は女の子にしては食べる方だが大食感と言うほどでもない。
 好きなものは別腹に入るのだろうか? 
 いや、深海の場合胸に行ってる気がする。

(て、事はイチゴ食べてフカミちゃんの胸が大きくなったら俺が育てたのと同義だよね~♩年頃の女の子の胸を育てるなんて男のロマンだよね~♬)

「俺も食べるから美味しそうなの選んで~♪」

 深海の元に行き、自然に抱きつく。
 そうすると深海は条件反射でフィルドの頭をポンポンと撫でるのだ。
 首筋に顔を埋めて深海の匂いを堪能する。
 少々オヤジが入っている気がするが、これでもフィルドは大陸で1・2を争う魔術師なのである。
 だが深海にはそんなことは関係ないらしい。

(だから好き、なんだろなぁ…)

 自分を恐れない少女。
 この子ならいつか自分の瞳を見せても良いかも知れない、とフィルドは思うのだった。
しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

処理中です...