聖女として召喚されたのは双子の兄妹でしたー聖女である妹のオマケとされた片割れは国王の小姓となって王都復興を目指しますー

高井繭来

文字の大きさ
上 下
53 / 161
オマケは御使い様になりました

【野営と気温と清潔問題】

しおりを挟む
 令和の日本はキャンプが流行っていた。
 ユーチュー〇ではソロキャンの動画がバズったり。
 消えた芸人が焚火の映像で何万回も再生数を上げていたり。
 まぁ何となくキャンプ=楽しい物と言うのが深海の頭にはあった。
 
 知識はあれど所詮は現代っ子。
 道具と環境が揃っての楽しいキャンプ。
 深海は格闘技こそ嗜んでいるが所詮はオタクだ。
 外で焚火をするより、クーラーの利いた家の中で本を読む方が良い。

 格闘技とパルクールは趣味で始めたが性に合っていたので続いたが。
 お陰で身体能力だけは半端ない。

 この世界の一般兵士なら1対3でも負けないくらいには。
 1対4になると互角。
 1体5で負けるレベルだ。
 令和っ子にしては破格の運動能力だろう。
 ちなみに鳴海のブーストがかけられると1対1個軍隊を相手取れるようになる。

 鳴海の【ブースト】の魔術も、深海の【戦略能力】も普通ではない。
 深海は頭が回る分戦闘における立ち回りも上手い。
 その為体力が許すなら1対多数になっても崩すべきところから崩していき、最終的には大将首を取れるだけの戦略が練れる。
 戦闘は肉体だけが優れていれば良いと言う訳では無いのだ。

 まぁ世の中にはチートと呼ばれる連中も居るが。

 そのチートの1人が現在深海と行動を共にしているネオレである。
 宮廷魔術師副団長の1人。
 4人いる副団長の中でも主にリーダーシップを取ることが多い。
 周りに恵まれていないとも言う。

 天然いぬ科猫目のライジュ…騒がしい事この上ない。
 褐色の肌と鍛え抜かれた筋肉のビルダー…筋トレフェチが半端ない。
 影薄オタク錬金術師マヒロ…薄い本さえ与えておけば優秀な協力者に早変わり(深海にしか使えない裏技だ)。

 扱いに困る他3人の副魔術師長を纏めるのは消去法でネオレしかいない。
 ましてや上司も快楽主義者の愉快犯なので仕事をろくにしてくれない。
 上司…フィルドは魔術だけは大陸でも5本の指には入ろう天才であるのだが。
 そんな濃い面子に囲まれているのでネオレが宮廷魔術師団を纏める役目が多い。

 端から見たら美形のオネェのネオレも十分色物であるのだが。
 本人的には無個性らしい。

 自称と他称が違うのはよくある事なのである。

 そんなネオレと深海は一緒に馬車の中に2人きりである。
 本日は野営でカグウとコキョウ。
 深海とネオレが馬車での野営組だ。
 その他の兵士は野宿である。

 カカンからスティルグマ迄は道路が舗装されてある。
 コレは晩餐会でスティルグマ女王がカカンを”同等の同盟国”とみなし、国から国へ道路が作られることになった。
 舗装された道路と言ってもアスファルトが道路の世代の深海には十分荒い道だが。
 そのせいで馬車酔いもしたりした。
 
 道路の舗装のお陰でかなりの大きさの馬車も通れるようになった。
 王族が中で泊まれるくらいの大きさの馬車の通れる道になったのだ。
 それ故の馬車での野営である。

 だが馬車の中は。

「暑い…気分悪い……」

「大丈夫フカミちゃん?はいお水」

 ネオレが氷の入ったコップにレモン水を注いでくれた。
 ソレを一気に飲み干す。
 良く冷えたクエン酸とビタミンCとミネラルが身に染みる。

「ん~美味しいです」

「良かったわ。上着脱いだら?暑いでしょう?」

 確かにネオレの言う通り上着を脱いだら涼しいだろう。
 しかし性別がバレる可能性も高くなる。

「カグウ様も同じくらい着込んでいるのに…」

「そりゃあっちの馬車にはウチの上司が張った【適温】の結界が張ってあるから」

「え、何ですかソレ!ズルいです!!」

「あー見えてウチの上司優秀だからね~」

 部下から酷い言われようであるフィルド宮廷魔術師長。
 きっと何時も執務から逃げている普段の行いが悪いからであろう。

「じゃぁカグウ様汗もかいてないんじゃ?羨ましい…汗気持ち悪い……」

「着替えちゃう?」

「え、いや、その…」

(ネオレさんにはまだ性別言ってなかったよな…素直に言った方が良いのか、隠した方が良いのか……?)

 カグウに聞きに行くタイミングを逃してしまった。
 親衛隊とルナト―とクロナとミラーは深海の性別を知っているが、その他は誰が知っているのか深海も認知できていない。

「フカミちゃんは恥ずかしがり屋さん?じゃぁコレ貸してあげる♡」

 ネオレからピンポン玉ほどの青みがかった水晶を握らされた。

「で、オドを込めて…」

 ふわぁ

 水晶から発せられた心地良い蒸気が深海を包んだ。
 瞬間、風呂上がりの様な爽快さを深海は感じた。

「気持ちイイでしょ?」

「服まで洗い立てみたいです…」

「ウチの上司が作った『シャボンミストボール』ですって。お手軽に清潔が手に入れられます♡」

 ネオレの言い方に思わず「でもお高いんでしょう?」と深海は続けそうになった。

「コレは、良いですね。あとは暑ささえ何とかなれば…」

「じゃぁこの馬車も結界張っちゃいましょうか。【適温調整】と」

 キン、と糸が張るような音がして馬車の中が冷えた空気に包まれた。
 
「汗が引いたら温度もう少し上げるわね。寝る時も寒いままだと風邪ひいちゃうから」

「気持ちイイ、ですが…コレ昼間も張っていてくれたら馬車酔いも少なくて済んだんじゃ……?」

「エヘッ、うっかり思いつかなかったの♡フカミちゃんが魘されているとこ見てムラムラなんてして無いから安心してね♡」

「今の言葉で一気に安心出来なくなりましたよ!」

「はいはい、怒らない怒らない。お水のおかわりどーぞー♡」

「ぐぅ、餌付けされている気がする」

 冷えたレモン水を口に含み、その美味しさに何だかんだとネオレに絆されて深海は初めての野営を体験するのであった。
しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~

銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。 少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。 ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。 陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。 その結果――?

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

処理中です...