聖女として召喚されたのは双子の兄妹でしたー聖女である妹のオマケとされた片割れは国王の小姓となって王都復興を目指しますー

高井繭来

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【オマケと兵士の王都探索4】

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「次は学校だな」

 歩く深海の後ろをしょんぼりとしたミラーが付いてくる。

「この棒なんだろ?」

 道の端にある細長い棒に気付いたミラーがぽつりと漏らした。
 その声に聞こえた深海が足を止める。

「街灯だ。夜でも町が真っ暗にならないように暗くなると自動的に上に取り付けられた水晶に光が付く。
エネルギーは昼間の太陽の光で溜めて夜にそのエネルギーを使って水晶が光を放つ。
水晶には太陽エネルギーをため込む術式と暗くなったら光る術式をフィルド様に付与して貰った。
光魔石でなく水晶に石を変えることで値段は100分の1程度に抑えられてチノシス様がほくほくしていたな」

「夜の街に灯りがつくのか…道も分からないくらい前まで真っ暗だったのに……」

「夜の街に灯りが付いたことで市民が出かけられる時間が伸びたから飲食店なんかが店の営業時間を延長して稼いでるみたいだな。稼いでる労働者がメインの客として多いが市民にも外食文化もその内根付くだろうな」

 ミラーがぽけーと口が開いている。
 開いた口が塞がらないと言うのはこう言うことを言うのだろうと深海は思った。

「ほら行くぞ。学校見学した後は食堂にも連れて行ってやる」

「食堂って、またコロッケみたいな珍しい食べ物が置いてあるんですか!?」

「それは後でのお楽しみだ」

 ニヤリと深海が悪戯っ子の様に笑った。
 そうすると普段は綺麗なイメージが強い顔が愛嬌があって可愛らしくも見えた。

「何で赤くなってんだお前」

「い、いいいいいいや何でもない、です!」

 ミラーが挙動不審になった事を不思議に思いながらも深海は学校へと歩みを進めた。

「ここが学校だ。5歳から15歳までの子供なら無料で通える。
簡単な読み書きと計算の仕方を教えている。無料で給食が付いてくる。
手に職を付けたいものには装飾品の細工を細工師に教わったり建築が学びたいものはボランティアの大工なんかが基礎を教えたりしている。
他にも刺繍や服のデザイン、料理の作り方、皆現役は退いているが皆1流の技術の持ち主がそれぞれ子供たちに技術を教えている。
授業中に作ったものは出来が良ければそれぞれの店先に委託で置かせて貰えて取り分は5:5で賃金も得ることが出来る」

「そこまでして国の金足りるのかよ?」

「かよ?」

「ですか?」

「先行投資だ」

「先行投資って、なんすか?」

 ミラーの言葉に深海が肩を落とした。

「お前先行投資も知らないのかよ。先行投資とは経営学用語の1つだ。
これは企業が経営を行っていく上での投資で、行った場合の現在の直接的な価値はマイナスであるものの、このことから新たな展開が開け結果としてはプラスとしての効果が期待できるようなもののことを言う。
これからのカカンでは子供が将来職に就けるようにすることで国益が伸びると見通し、一般庶民だけでなくスラム街の子供も学校へ来るよう給食制度などを使い先行投資が積極的に行っている。
政府にとっては教育というのは未来への先行投資である訳だ。
実際この学校を作ってからスラムの孤児は窃盗を行わなくなったし字の読めない庶民の子供は字が読めるようになったため自分の名前を書けるようになった。
自分の名前が書けるメリットがいかに大きいか分かるか?
自分の名前が書けないと重要な書類にサインもできない。耳が聞こえない者とコミュニケーションも取れない。字が書けるだけで広がる可能性は多々ある。
そして簡単な計算が出来るようになれば買い物をするときに金額を誤魔化されずに買い物をすることが出来る。馬車に乗る時なんかもぼったくられにくくなるだろうな」

「そんな先のことまで考えてんのかカグウ王は!?」

「純血でないからと貴族はカグウ様を見下しているみたいだがあの人は凄いぞ。何せ10歳を少し過ぎたくらいの年齢でこの国の飢饉を救ったんだからな。
外交はおそらく他国の文化レベルを見極めて今カカンに必要なものは何か考えている。今のスピードならあと数カ月もすれば他国からの観光名所になるだろうな」

「でもそれじゃぁ潤うのは国民だけで国は潤わないじゃねーですか!」

「阿呆、国民が潤えば国が潤う。今までは税は物資ばかりだったが国民が金銭を稼げば金銭での税の調達が出来る。金銭で税を得られれば他国との交易も遣り易くなる。そうすれば更に国は潤うことになる。誰も傷つかないいい方法だろう?」

「でも、クロナは国を潤すには他国の領土を支配するしかないって言ってた。領土が広がればそれだけ税が取れる。聖女様の能力があれば誰も傷つかず領土を得ることが出来るって。
誰に傷つかず領土が増えるならそれに越したことないだろ?
聖女様の能力がブーストだったのはこの国の兵士が傷つかずに他国を倒すためだろ?」

「なぁ、その誰も傷つかないっていう誰はどいつだ?この国の兵士が傷つかない?じゃぁ他国の人間は傷ついて良いのか?その国の国民が傷つくのは良いのか?支配する国の人間なら死んでも良いのか?
領土を広げる、とは綺麗な言葉だな。お前が言ってるそれは侵略戦争って言うんだよ」

 ミラーが蒼褪めて体を震わせる。

「違う!俺は戦争なんて!誰も傷つけたくないだけで!誰にも死んでほしくなんかない!聖女様の力があれば圧倒的な力の差を見せつければ敵国は闘う気も無くすってクロナが言ってたんだ!だから俺は誰も傷つかないと思ってる!!」

「じゃぁ敵国が闘う気を無くさなかったらどうする!?反抗する者をブーストで戦闘能力を上げたカカンの兵士が皆殺しにするのか!?
結局お前はクロナ姫に言われたことしか頭にないんだな。その頭は飾りか?自分で考えることが出来ないのか?頭には脳味噌じゃないもんが詰まってんのか?
お前の言葉はクロナ姫の言葉を借りているだけだ。お前の思想はクロナ姫の言葉の上にしかない。自分と言う基盤がないお前が誰も傷つけたくないなんて大層なもん語るなっ!!」

「うっうぅぅぅぅぅ……」

 反抗すらする気力もなく、ミラーは子供の様に泣き続けた。
 泣き止む様子のないミラーに興味が薄れた深海はミラーを放置して踵を返し王宮へと帰って行った。
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