聖女として召喚されたのは双子の兄妹でしたー聖女である妹のオマケとされた片割れは国王の小姓となって王都復興を目指しますー

高井繭来

文字の大きさ
上 下
37 / 161

【オマケと兵士の王都探索】

しおりを挟む
 日付が変わり正午、庭の裏門前。
 深海の言いつけを守った平民の服を着たミラーが待って居た。
 傷はすっかり治っている。

「ちゃんと来たな」

 深海の登場にミラーの体がビクリと震えた。
 深海に対して恐怖心があるらしい。
 躾は最初にしては上々の出来のようだ。
 深海の服装は相変わらずの制服だ。
 ただ身元がばれないようにフード付きのマントを羽織っている。
 この世界に来てから深海は制服が3年通して着る為に丈夫に作られていたことに心底感謝をした。
 まぁ後1ヵ月もしたらクリーニングに出したい気持ちになるのだろうが其処は持ってきた除菌スプレーで乗り切るつもりだ。

「お前何してるんだ?」

 さて門を開けようかと思えばミラーが顔に布を巻いて鼻から口を隠していた。

「だって門の外に出たら消臭の魔法範囲から出るから臭いが酷いだろ?」

「あーお前らにとってはまだそう言う認識だった訳だ。本当何も見てないんだな」

「?」

「出れば分かる」

 深海はミラーの腕を掴むとぐいぐいとその巨体を引っ張って門の外に出た。
 ミラーが反抗した時のために鳴海に朝からブーストをかけて貰っているので力負けすることはない。

「な、なんだこれ!?」

 賑わう町の姿が目に入りミラーは驚愕の声を上げた。
 王宮には召集のほかに防音の魔法が張られていたため、王都が賑やかになっている音が中で過ごす人間には分からなかったのだ。

「カグウ様と親衛隊の人たちを中心とした王派閥の部下たちの努力の結果だよ」

「すげぇ…全然臭い臭いしないし、人が笑ってる……俺たちの凱旋の時でもこんなに賑やかにならないのに」

「当たり前だ。生きていくだけで必死の民になんのメリットもない凱旋にわざわざはしゃげるか馬鹿が」

「ば、馬鹿はないだろ!つーか何か良い匂いする。この前まで悪臭しかしなかったのに」

「フィルド様がスライム下水作ってから汚物は全部下水に行くシステムだからな。今はどの建物にも1つはトイレが設置されてるぞ。スラム街にも公衆トイレがあるしな」

 キョロキョロと街中を眺めながらお上りさんの様にミラーが町を興味津々の顔で観察していた。

「すげー活気ある」

「農業以外の仕事も増えてきたしな。そりゃ活気も付く」

「あ、あれ!あの屋台から良い匂いする!!」

 はしゃぐミラーは深海の話しもちゃんと聞けていないようだ。
 おそらく今は深海への恐怖心よりも町に対する好奇心の方が勝っている。

「食べるか?」

「良いのか!!」

 完全に目が輝いている。
 口の端から涎も垂れていて流石に深海も毒気を抜かれる。

「待ってろ」

 深海は屋台でコロッケを2つ購入する。
 ミラーの方を向けば尻尾があれば千切れるくらい振っているのが分かる位期待の眼差しで深海の方を見つめていた。

(取り合えず”待て”は出来るみたいだな)

「ほれ、コロッケだ」

「コロッケ」

 ミラーがごくりと唾を飲む。
 そして一気に齧ろうとしたので深海は下段蹴りでミラーの脛を蹴った。

「いてーっ!何するんだよ!落としそうになったじゃねーか!!」

「だよ?ねーか?」

「蹴られたので痛かったです。何で蹴ったんですか?落としそうになりました」

 ギクリと体を強張らせたミラーが敬語で言いなおした。

「食べる前に言うことあるだろう。それともクロナ姫はそんなことも教えてくれないのか」

「クロナは関係な―――いです。すみません」

 言い返そうとして深海の冷たい目つきに気付いて速攻で謝った。
 躾は上手く行われていっている。

「人と食べ物に対する感謝の気持ちを言葉で表せ。出来ないならそれを返せ」

「あっ!?ありがとうございます。いただきます」

「良いだろう。食べろ」

「はいっ!」

 ガブリ、とミラーがコロッケに齧り付いた。

「あふっあふっ!!」

「言い忘れてた。それ結構熱いからな」

「うぅ~言うのが遅いですぅ」

 涙目になって下を出して空気で冷やしている。

「で、味は?」

「滅茶苦茶美味いです!これ、いもゴロゴロ入ってて食べがいある!んでいもが甘い!味付けも出来てるしザクザクしてて食べ応えもいい!!」

 嬉しそうな顔で口の周りをべとべとにさせてミラーがコロッケを頬張る。
 また尻尾が見える気がする。

「お前が馬鹿にした家畜の餌がメインで出来てるんだぞ。ちなみに1つ銅貨1枚だ」

「こんなに美味いのに銅貨1枚!?ジャガイモがこんな上手くなるなんて…家畜の餌とか言ってすみません」

「何だ随分素直だな?」

「だって、だってすげー町が変わってる!皆が何か楽しそうだ!これ愚王…じゃなくてカグウ王がやったのか、ですか?」

「まぁ俺も異世界の意見をちょこちょこ出したけど、全ての計画を纏めたのはカグウ様だ。
薪では揚げ物を出来るだけの油の温度を出せないから炎魔石コンロを使っている。
ジャガイモを作っているのも城の料理人だ。
しばらくは城から出張と言う形でコロッケを作ることになるな。
油の温度を何とか出来る様になったら、この仕事も市民に卸す予定だ。
カカンは着実に復興してきているぞ?その間お前たちは何をしていた?」

「うぅ~~~~~」

 再びしょぼんと垂れ下がった犬の尻尾とぺたんと倒れた犬耳が見えた気がしたが、深海は何だかミラーに絆されそうな気がして出来るだけ高圧的に振舞って懐かれない様にする決意を固めた。
しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~

銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。 少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。 ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。 陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。 その結果――?

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

処理中です...