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【オマケが作る白いアレ・前編】

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「4つ目の胃袋が欲しい」

 そうポツリと呟いた深海の言葉にその場にいる全員が固まった。
 ちなみに今は昼食の後片付けをしている厨房である。
 ゲンドウポーズで黙りこくった深海を厨房の居た者たちの視線が集まる。

(何で胃袋!?)

(つーか4つ目ってどういう意味だよ!?!?)

(え、え?じゃぁフカミ様って胃袋すでに3つあるの!?)

 次第に小声でザワザワと騒めく。
 しかしココに深海の思考をある程度読め、先ほどの呟きに問いかける勇者いた。
 そう厨房の聖騎士、ラキザである。

「4つ目って事は牛か羊か?」

「どっちでも良いんですよ。ようは4つ目である事が重要です」

「何で4つ目に拘るんだ?」

「4つ目じゃないとチーズが作れないんですよ」

「「「「「チーズ?」」」」」

 深海以外の厨房の声が揃った。

「はいチーズです。この国チーズが無いんですよね。と言うか、この世界にチーズが存在しないみたいなんですよね。俺筋肉付けるために高タンパク低糖質のチーズを毎日食べていたので流石にそろそろ食べたくなりまして。牛の乳からカッテージチーズは古くなった牛乳で作っておやつ時にパンのお供に食べていたんですが、こう、そろそろガツンと味を主張してくれるチーズが食べたくなりまして」

 ちなみにカカンには牛の乳を飲むと言う文化は無かったのだが、そこは先輩に乳牛と卵を入手するための鶏をテストケースで王宮の離れで育てさせていた。
 先輩様々である。

「つまりフカミの世界にはチーズと言う食いもんがあって、それを造るために牛か羊の4つ目の胃袋が必要だと」

「4つ目の胃袋がないと作れないんですよ」

「旨いのか?」

「カッテージチーズで良ければ丁度古くなった牛乳ありますし作りましょうか?」

「おう、興味あるから頼むわ」

 深海とラキザが話しているうちにカッテージチーズが作られることとなった。

 :::

 材料(100g程度の出来上がり)
 牛乳
 500ml
 レモン汁
 大さじ2
 作り方
 1.鍋に牛乳を入れ、人肌程度に中火で温める。
 2.1を火からおろし、レモン汁を加えて軽く混ぜ分離させる。
 3.ザルにキッチンペーパーを敷いてボウルを置き、2を濾して出来上がり。

 :::

「はい、コレがカッテージチーズです。そのまま食べても良いですけど野菜にディップしたりパンに乗せたりしたら美味しいですよ」

 白いカスの塊に皆躊躇する。
 しかし食に対しては誰よりも勇者であるラキザはソレをスプーンで掬って口に入れた。

「ん!!」

「「「「「ん?」」」」」

「んまっ!柔らかいけれど適度な弾力がありコクあって乳の味がして牛乳を濃縮したような味だ!わずかに感じる酸味も旨いな!」

「「「「「俺/私も食べますっ!!」」」」」

 皆野菜を取り出したりパンを手に持ったりしてカッテージチーズに群がる。

「美味しい~!」

「野菜ウマッ!」

「これなら古くて硬くなったパンでも美味しく食べれる!!」

 チーズを初めて食べた者たちにも大好評であった。

「蜂蜜掛けたりするとデザート代りにもなりますよ。
カッテージチーズのカロリーは100gあたり105kcalです。
同じフレッシュチーズの仲間のクリームチーズのカロリーは100gあたり346kcal、モッツェレラチーズは100gあたり252kcalという数字と比べると、たいへん低カロリーであるチーズです。
その上塩分や脂肪分も少ないのが特徴です。
固形分中の乳脂肪分は20%と低く、これがダイエット食として向いていると言われています。女性に嬉しい食べ物ですね。」

 深海の言葉に女性陣の目がキラキラと輝く。

「ちなみにカッテージチーズはチーズの中じゃクセのない淡白な味ですよ」

「これで淡泊なのか!?」

「他のチーズはもっと濃厚です。で、他のチーズ作るためには牛か羊の第4の胃袋が必要なんですよ」

「料理長!」

「はっ、ラキザ様!すぐに調達してまいります。皆行け!!」

「「「「「了解です!!!」」」」」

 厨房から蜘蛛の子を散らすように使用人たちが4つ目の胃袋を入手せんと早足で出て行った。

「楽しみだな他のチーズ」

 ラキザがキラキラした目で第4の胃袋が届くのを待ち遠しくしているのを見て、深海はかなりハードルを上げ過ぎたと背中に汗が伝った。

「「「「「牛(羊)の胃袋手に入れられませんでした( ;∀;)」」」」」

「そうなるだろうな、とは思っていましたが全滅ですか」

「何だフカミは胃袋が手に入らないの予想していたのか?」

「チーズ作りに必要なのは供の第四胃に含まれている酵素です。
反芻動物の子供、例えば子牛は、生まれてからしばらくの間は母親の乳を飲んで大きくなります。
母親の乳の栄養を効果的に消化吸収するために、子牛の胃の中には乳の栄養分と水分を分離させる酵素が存在するのです。
その証拠に子牛が大きくなって草を食べ始めると、その酵素は必要なくなるので分泌されなくなります。
ですが、子牛の胃袋からレンネットを得るには大量に子牛を殺さねばなりません。
それは酪農家にとって大変な負担で現実的ではないことですから、誰も自分の処の家畜の胃袋を差し出すとは思っていませんでしたから」

「うおっ!意外と残酷だなチーズ作り」

 深海の言葉にラキザが冷汗を流す。

「本来なら第4の胃袋にだけあるレンネットは必要不可欠ですが俺の時代ではレンネットの代わりに応用していたものがあるのでチーズ造りにはそちらの手法が適しているでしょうね。
植物性レンネットと言うのがあり、イチジクのフィシン、パパイヤのパパイン、パイナップルのブロメラィンなどのたんぱく質分解酵素には凝乳作用があります。
これを動物性レンネットの代わりとします。そしてココにあるものが既に用意していたものです」

「言われていたの持って来たぞ」

「「「「「キャーーーー!!!」」」」」

 突如何者かに声をかけられ皆が悲鳴を上げた。
 大の男迄絹を裂くような悲鳴と言うのはどうかと思うのだが。
 突然現れたのはマヒロだ。
 深海にズイッ、と籠を渡す。

「有難うございますマヒロさん。流石に細かい作業をさせたら国随一ですね」

「報酬は薄い本3冊で良い」

「3日後には届けますので」

「では俺はもう行く」

 籠を渡してマヒロは再び気配を殺し去っていった。

「お前アイツ飼いならしているな……」

「微々たる報酬で動いてくれるとっておきのアシスタントです」

「で、最初から用意出来てるなら初めの胃袋の当たりの茶番は何だったんだ?」

「いや、皆の反応が見てみたいの半分、キュー〇ー3分クッキングのノリをしてみたかったのが半分です。そう言う事なので額の血管しまいましょラキザ様」

「さっきより美味いの食わせなかったら拳骨な」

「ありゃ、自分でハードル上げてしまいました。まぁそんな感じなのでチーズ造り見たい方は邪魔にならない距離で見ていてくださいね」

 そうして深海のチーズ造り教室が開始された。
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