16 / 17
【15話】
しおりを挟む
エヴァが塔に来てから1年が経った。
もう魔術でも剣でもエヴァに勝てる存在はアンヘルだけであろう。
2人はその事に気付いていないが。
2人とも箱入りなのである。
外で他者と触れ合う回数が少なかった分、2人の常識の範囲は通常とは違う。
でもエヴァにとってはアンヘルが常識で。
アンヘルにとってはエヴァが常識であった。
果ての塔にも世界情勢は届く。
多くの従魔が世界中を旅しているからだ。
その従魔たちに定期的に世界情勢を報告させている。
そしてドラマツルギー国が他国に攻められているのだと言う情報が塔に届いた。
「アンヘル、私は行くよ」
「そうか」
「アンヘル、私はお前が好きだよ。醜くて良い。力が無くても良い。子をなせ案くても良い。私の隣に何時も居るのはアンヘルが良い。
私はアンヘル以外の人間の体温を感じるのが嫌だ。私に触れるのはアンヘルだけが良い。アンヘルに触れれるのは私だけが良い。
きっとアンヘルと別れて塔を出たとして、私は伴侶を見つける事は出来ないだろう。もうアンヘルに全ての心を注いでしまったから。欠片程にも他者を想う感情を残していないから。
帝国を統一させて、王家の血筋から適当に優秀な跡取りを育てて、そして王座を退いたらこの塔に帰って来るよ。アンヘルのペットで私は良い。
アンヘル、私はお前に恋している。
もう他の誰も私の心の隅にも入る隙間は無い。
だからその時まで、アンヘルに待ってていて欲しい。私の代わりになる存在を傍に置かないで欲しい。十数年だけ、待っていて欲しい。
悠久の時を生きた魔術師になら十数年は短いだろう?
私には途方もない時間に感じても、アンヘルには閃光が駆け抜けるだけの瞬きの様な一瞬だろうから。
私が帰って来るのを待ってて欲しい。もう私は己の帰る場所はアンヘルの隣と決めてしまった」
アンヘルの仮面越しに瞳を見つめ、エヴァは一息で言った。
いう事を決めていたのだろう。
その言葉はよどみなく発せられた。
「嫌だ」
「そうか、なら私は去るよ。アンヘル、どうか幸せに………」
「お前が傍に居ないなんて嫌だ!十数年待ってて欲しい?ふざけるな!そんな長い時を待てるか!悠久の時を生きた私には十数年が短い?何も知らないのにそんな言葉を吐くな!
私にはお前が必要だ。
お前無しの生活なんてもう耐えられない。
私を育てた私の前の魔術師が死んでから、私は3年1人で生きて来た。1人で生きられた。でもお前が来て変わってしまった。
私は人の体温が心地よい事を知ってしまった。私は誰かと食べる食事が美味しい事を知ってしまった。私は愛する者と話すことがこれ程楽しいのだと知ってしまった。
悠久の時?
そんなもの私は知らない。
十数年が経った瞬きの様な閃光のような時間だと、ふざけるな!
私はたった11年前に死にかけの魔術師が拾った人間の餓鬼にすぎないのだからっ!!
そんな長い時をお前無しで生きていくなど、もう今の私には出来る訳がないではないか…………」
そう言ってアンヘルは仮面を取った。
揺れる2つの瞳は蜂蜜色。
外套のフードから出てきたのは月の光を紡いだような金糸。
その顔立ちは幼くも愛らしい少女のもの。
仮面を取るとその声まで変わり、金属をシャラシャラと鳴らすような快い声色になった。
「アン、ヘル…お前は少女であったのか………?」
「お前が十数年塔に帰れないと言うなら私も一緒に行く。塔に戻る時は2人でだ。私を捨てるなエヴァ………」
大きな瞳からポロポロ涙が零れる。
水晶玉みたいで綺麗だとエヴァはその涙ん見惚れた。
アンヘルは子供なのに声を殺して泣く。
それが悲しいとエヴァは思った。
チュ、と涙を唇で吸い上げる。
「エヴァ?」
「こんなに綺麗なものが地面に落ちて消えるのは勿体ない」
「私の涙は綺麗なのか?」
「アンヘルは何もかも綺麗だよ」
「エヴァも何もかもが綺麗だ。一生閉じ込めておきたいくらいに」
「本当なら私もそうしたい」
「でも行かなければいけないのだな?」
「国民を見捨てる訳にはいかない。でもアンヘルを離すことも出来ない。アンヘルは馬鹿だ。頭が良いのに馬鹿だ。こんなに愛らしい姿を見せて、もう私は片時も放してやる事が出来なくなった。
生涯、私に付いて来てくれないかアンヘル?嫌と言うならその足の腱を切ってでも連れて行く。もう、離してなんかやらない」
「足の腱位いくらでも治せるが、エヴァがしたいのなら良い。私を攫えエヴァ」
「アンヘル………」
もう言葉はいらなかった。
2人は言葉を飲み込んで、相手の吐息を飲み込むように唇を重ね合わせたのであった。
もう魔術でも剣でもエヴァに勝てる存在はアンヘルだけであろう。
2人はその事に気付いていないが。
2人とも箱入りなのである。
外で他者と触れ合う回数が少なかった分、2人の常識の範囲は通常とは違う。
でもエヴァにとってはアンヘルが常識で。
アンヘルにとってはエヴァが常識であった。
果ての塔にも世界情勢は届く。
多くの従魔が世界中を旅しているからだ。
その従魔たちに定期的に世界情勢を報告させている。
そしてドラマツルギー国が他国に攻められているのだと言う情報が塔に届いた。
「アンヘル、私は行くよ」
「そうか」
「アンヘル、私はお前が好きだよ。醜くて良い。力が無くても良い。子をなせ案くても良い。私の隣に何時も居るのはアンヘルが良い。
私はアンヘル以外の人間の体温を感じるのが嫌だ。私に触れるのはアンヘルだけが良い。アンヘルに触れれるのは私だけが良い。
きっとアンヘルと別れて塔を出たとして、私は伴侶を見つける事は出来ないだろう。もうアンヘルに全ての心を注いでしまったから。欠片程にも他者を想う感情を残していないから。
帝国を統一させて、王家の血筋から適当に優秀な跡取りを育てて、そして王座を退いたらこの塔に帰って来るよ。アンヘルのペットで私は良い。
アンヘル、私はお前に恋している。
もう他の誰も私の心の隅にも入る隙間は無い。
だからその時まで、アンヘルに待ってていて欲しい。私の代わりになる存在を傍に置かないで欲しい。十数年だけ、待っていて欲しい。
悠久の時を生きた魔術師になら十数年は短いだろう?
私には途方もない時間に感じても、アンヘルには閃光が駆け抜けるだけの瞬きの様な一瞬だろうから。
私が帰って来るのを待ってて欲しい。もう私は己の帰る場所はアンヘルの隣と決めてしまった」
アンヘルの仮面越しに瞳を見つめ、エヴァは一息で言った。
いう事を決めていたのだろう。
その言葉はよどみなく発せられた。
「嫌だ」
「そうか、なら私は去るよ。アンヘル、どうか幸せに………」
「お前が傍に居ないなんて嫌だ!十数年待ってて欲しい?ふざけるな!そんな長い時を待てるか!悠久の時を生きた私には十数年が短い?何も知らないのにそんな言葉を吐くな!
私にはお前が必要だ。
お前無しの生活なんてもう耐えられない。
私を育てた私の前の魔術師が死んでから、私は3年1人で生きて来た。1人で生きられた。でもお前が来て変わってしまった。
私は人の体温が心地よい事を知ってしまった。私は誰かと食べる食事が美味しい事を知ってしまった。私は愛する者と話すことがこれ程楽しいのだと知ってしまった。
悠久の時?
そんなもの私は知らない。
十数年が経った瞬きの様な閃光のような時間だと、ふざけるな!
私はたった11年前に死にかけの魔術師が拾った人間の餓鬼にすぎないのだからっ!!
そんな長い時をお前無しで生きていくなど、もう今の私には出来る訳がないではないか…………」
そう言ってアンヘルは仮面を取った。
揺れる2つの瞳は蜂蜜色。
外套のフードから出てきたのは月の光を紡いだような金糸。
その顔立ちは幼くも愛らしい少女のもの。
仮面を取るとその声まで変わり、金属をシャラシャラと鳴らすような快い声色になった。
「アン、ヘル…お前は少女であったのか………?」
「お前が十数年塔に帰れないと言うなら私も一緒に行く。塔に戻る時は2人でだ。私を捨てるなエヴァ………」
大きな瞳からポロポロ涙が零れる。
水晶玉みたいで綺麗だとエヴァはその涙ん見惚れた。
アンヘルは子供なのに声を殺して泣く。
それが悲しいとエヴァは思った。
チュ、と涙を唇で吸い上げる。
「エヴァ?」
「こんなに綺麗なものが地面に落ちて消えるのは勿体ない」
「私の涙は綺麗なのか?」
「アンヘルは何もかも綺麗だよ」
「エヴァも何もかもが綺麗だ。一生閉じ込めておきたいくらいに」
「本当なら私もそうしたい」
「でも行かなければいけないのだな?」
「国民を見捨てる訳にはいかない。でもアンヘルを離すことも出来ない。アンヘルは馬鹿だ。頭が良いのに馬鹿だ。こんなに愛らしい姿を見せて、もう私は片時も放してやる事が出来なくなった。
生涯、私に付いて来てくれないかアンヘル?嫌と言うならその足の腱を切ってでも連れて行く。もう、離してなんかやらない」
「足の腱位いくらでも治せるが、エヴァがしたいのなら良い。私を攫えエヴァ」
「アンヘル………」
もう言葉はいらなかった。
2人は言葉を飲み込んで、相手の吐息を飲み込むように唇を重ね合わせたのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
140
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる