聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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そして全能神は愉快犯となった

【179話】

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「運命共同体、か………」

「どうかしたかルーク?」

「いや、伴侶を見つけたらそれも解消なのかと思ったのだ」

「私は解消する気はないぞ?」

「ほ、本当かサイヒッ!?」

「私はルークが伴侶を得ても、ルークが望むなら何時でも隣にいる。まぁ伴侶さんは良い顔をせんだろうけどな」

「サイヒに伴侶が見つかった時はどうなるのだ?」

(嘘だ…サイヒに伴侶が見つかるなんて、望んでもいないくせに………私は何を言っているのだろうな………?)

 ルークは瞳を伏せて手元のグラスの中身を煽った。
 中身は上質なワインである。
 そんなにアルコールに強くないルークだが、今は酔いたい気分だった。
 なのにそんな時に限ってアルコールは全然仕事をしてくれない。

「私に伴侶か、考えていなかったな」

「私たち2人の伴侶を探しているのではなかったのか!?」

「ルークが伴侶を見つけてからにしようと思っていた。でなければ男装で酒場には来んよ」

 クスクスとサイヒが笑う。
 そしてその綺麗な指でカウンターの隣に座るルークの銀糸を梳く。
 その心地良さにルークは目を細めた。

「猫のようだなルーク」

「サイヒは猫が好きであろう?」

「あぁ、お前のその猫みたいなところが愛おしいよルーク」

(私に伴侶が現れる事を望んでいるくせに、そんな風に甘い言葉と仕草で私の心を揺らさないで欲しい……)

 今日サイヒとルークが居るのは酒場と言っても、貴族たちが好んで使う上質なバーのような店だ。
 大衆居酒屋とは出される飲食物の味も値段もけたが0が2つは違う。
 そして貴族向けだけあって客としてきている女も上品な者が多かった。
 その女たちの視線の先にはサイヒとルークだ。
 2人して見た事ないような絶世の美貌。
 これほどの美貌の持ち主を生きている間に見ることが出来た事を、女たちにとっては生涯の喜びに出来るほどの美貌の持ち主たちだった。

 声をかけようかかけまいか、皆2の足を踏んでいる。

 余程の自信家でなければ声をかける者は居ないだろう。
 だがその自信家が居たようだ。

「私も一緒に飲ませていただいて良いですか?」

 愛らしい声である。
 質の良いドレスを着ている。
 上質だが決して豪奢でないドレスは男に好感度を与える。
 サイヒも上品そうな女を見て、これなら良いかと当たりを付けた。

「あぁ、良ければ隣に座ってくれ。貴女のような美しい方と飲めるとは光栄だ。何か奢ろう」

「有難うございます」

 女はニコリと微笑んでルークの隣に腰かけた。

(ふむ、ルーク狙いか。ルークを狙うだけあって見目は抜群だな、ルークには全然劣るが、まぁ合格ラインだろう)

 サイヒがそんな事を考えているなんて知らず、女はルークに話しかける。
 まるでサイヒが居る事を忘れているかのようだ。

(性格も強そうだ。ルークは内気だから精神力が強い女の方が良い、この点も合格だな。何より私とルークどちらでも良いから近づきになりたいと思う節操のない女よりずっと良い)

「綺麗な銀髪ですね、地毛ですか?」

 女がルークの髪を触ろうと手を伸ばした。

 パンッ!

「えっ!?」

 女が驚愕の声を上げる。
 己の手が振り払われたことに呆然としている。

「私は髪を触られるのは好きではない」

「で、でも、お隣の方は触っていたでありませんか!?」

「サイヒは特別だ」

 女の顔が怒気で真っ赤になる。
 握られた拳が震えている。
 侮辱されたのなんか初めてなのかもしれない。
 握った拳をどうすればよいか、思考が回ら無い様だ。

(ルークの趣味では無かったか、残念だな)

 サイヒは自分にそう思い聞かせた。
 本当はルークが女より自分を取ってくれたことが嬉しい事を心の奥にしまって無視をして。

「男色家でしたの?」

「いや、そなたに触られたくなかっただけだ。サイヒでなくとも気を許したものなら髪ぐらいなら触らせても良い。出来れば髪を触るのはサイヒだけにして欲しいがな」

「つまらない男っ!!」

 ガタン、と椅子を倒して立ち上がった女は会計をして外へと出て行った。

「好みから外れていたか?」

「あぁ、私の好みでない」

「ルークはどのような女なら受け入れるのだ?」

(サイヒのような、と言いたい…でもどんなにサイヒに似ていても、サイヒより大切に思える気がしない。このまま運命共同体で良いから、伴侶など作りたくない。サイヒにも作って欲しくない………)

「まぁ我々は長命だからな、その内お前に見合う女が現れるよ」

「………そうだな」

 空になったグラスを見て、ルークは店に居る女などではなく、肩が触れるほど近い距離に居るサイヒの体温に意識を傾け、己の心を律しようとするのであった。
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