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そして全能神は愉快犯となった

【146話】

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「えいっ!」

 可愛い声があがる。

「ぐえっ!!」

 と同時に帰るがつぶされたような声もあがる。

「何あの子…凄い強い……」

「この調子なら本当に逃げれるかも!」

「大人よりずっと強いぞ!」

「パパとママのところに私帰れるの!?」

 セツナが廊下で兵士をぶっ飛ばす度に子供たちから嬉しい悲鳴が上がる。
 小さな子供は親から引き離されて怯えていた。
 ある程度年齢がいった子供は、自分が誘拐されたのだと分かった。
 頭の回転が速い子は、自分たちが商品として売り出されるのだと門番の会話で気づいていた。

 皆絶望していた。
 そこに刺した光。

 セツナの存在。

 「絶対に帰る」と言い切る強い瞳。
 その青緑の瞳は住んでいて新緑の色にも海の色にも見えた。
 まだ肩までしか伸びていない栗色の髪は艶々していて、良いところの子供なのだろうと思わせた。
 どちらかと言うとおっとりしてそうな顔立ちなのに、中身の熱意は凄かった。

「サイヒさまとおちゃするんだもん!じゃましないでぇっ!!」

 ドガッ

 大人の頭の高さまで飛び上がったセツナが、また兵士の延髄に蹴りを入れたのだ。
 勿論その兵士はその場で崩れ落ちた。
 一流の傭兵にも負けない強さ。
 戦闘センスだけでは片づけられない。

 だがセツナには法力も魔力もなかった。
 両親が2人ともどちらも持っていないからだ。
 その代わり、父親のクオンは闘気を使いこなした。
 魔王の副官たるため、サイヒに土下座して身に着けた能力である。
 今では魔王に次ぐ剣の使い手として天界でも名が知れ渡っている。
 長男のトワも闘気を使う。
 だが戦闘より闘気に生気を混ぜて、人の怪我を回復させるなどと言う技巧派な使い方をする。
 周囲が戦闘能力に偏らないように、サポートの能力を高めることにした結果だ。

 しかしセツナはまだその域に達していない。

 持ち前のセンスと天界で2番手の闘気の使い手のドラジュに教えられた戦い方。
 それと”サイヒとお茶をする”と言う気合だけで大の大人を倒していっているのだ。
 恋の凄さは凄まじい。

 そうセツナはサイヒに恋をしている。
 5歳児でも女は女なのだ。
 誰より美しく強く優しいサイヒの隣にありたい。
 それがセツナの将来の夢だ。

 伴侶の魔王なんか知ったことではない。

 サイヒの隣は自分のモノ。
 その思いがセツナを強くする。
 心も体も。
 今セツナの身体と心はこの建物に居る誰よりも強いだろう。

「サイヒさま、まっててくださいねーーーーーっ!!」

 叫びと同時にセツナの体が再び飛び上がり、曲がり角から現れた兵士の後頭部に踵落としを喰らわすのだった。
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