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【75話】

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 ルーク一行は3カ月の旅路を経て、天界の門へ辿り着いた。
 3ヵ月、短いようで長い旅だった。

 巨人族の国を渡ったし…そこで争い合っている巨人族の国の戦争を止めたり(ルークの魔王としてのカリスマが爆破した瞬間だった)。
 
 妖精の国で枯れかけた世界樹を蘇らせる調合液を開発したり(マロンが最も目を生き生きさせた瞬間であった)。

 精霊の国で盗まれた精霊女王の宝を取り返したり(精霊眼を持つクオンが居たので最初から友好的に迎え入れてくれた)。

 皆が皆己の力を振り絞り、国を跨ぎ世界を跨ぎ。
 そうして3ヵ月かけて3人+3匹(ちゃんとついて来ていた)は天界に辿り着いたのだ。

 そして天界の何と美しい事か……。

 純白の雲の大地。
 太陽と月が寄り添うように浮かぶ空。
 青空にかかる虹の無数のアーチ。

「素敵ですわ…」

 マロンが天界の美しさにうっとりと声を出した。
 その意見にはルークもクオンも賛成だ。
 だがサイヒはここに神殺しをしにきた。
 戦闘があった痕跡など微塵も感じさせない。

 本当にサイヒは天界に来たのか?

 3人はその疑問が頭にかすめた。

「お兄様は、本当にここにいらっしゃったのでしょうか?」

「探すにしても広すぎます。まずは誰かに聞き込みをしましょう」

 心配そうな顔をするマロンをクオンが元気づける様に言葉をかける。

「いや、サイヒは此処に居る」

「「本当ですか!?」」

「あぁ、サイヒの匂いがする…間違いなくサイヒはココに居る……」

「ルーク様が言うなら間違いありませんね」

「相変わらず匂いフェチですね……」

 サイヒが間違いなく居るのだとマロンは嬉しそうな表情を浮かべたが、クオンは言葉の内容に絶望した表情を浮かべた。
 クオンの方にぽん、とカラスと蝙蝠の手が乗せられる。
 悪魔…不憫なモノには意外に優しいらしい……。
 クロタンのみが不機嫌そうな表情をしていた。
 だがそんな不機嫌そうな表情も猫好きからしたらご褒美ですっ!!

 雲の上を歩いて行くと白い城壁が見えてくる。
 大きな銀の扉を護るのは見目麗しい白銀の甲冑を身に着けた2人の騎士だ。
 2人共同じ顔をしている。
 おそらく双子なのだろう。

「失礼、ここにサイヒと言う者は訪ねて来なかったであろうか?」

 ルークが騎士に尋ねる。

「「我々は全能神様の命なく質問に答える事は許されていない。全能神様は客が来る旨を我らに伝えられなかった。よって流れ者であろう其方らを入れる事も、質問に事得る事も出来ぬ」」

 双子の騎士は声まで同じで、同じ言葉を同じタイミングで言い放つ。

「全能神は死んだのではないのか?」

「「全能神様は健在だ。天界は常に全能神様に守護されている。全能神様が消えることなどありえない」」

「なら何故、地上の聖女は神の加護を失った?全能神が死んだからでは無いのか?」

 そう、ルークは大陸中の聖女が同時に神の加護を子宮から失ったことで、サイヒが神殺しを達成したのだと確信したのだ。
 だが全能神は死んでいないのだと門番は言う。
 その言葉にルークは納得できなかった。

「「その質問に答える事は許されていない」」

「では何故に神は聖女の加護を切った?」

「「その質問に答える事は許されていない」」

「サイヒが来たはずだ!黒髪に青銀の瞳の人間の娘が!サイヒの匂いがする!ここにサイヒが居る事は分かっている!サイヒの元へ案内しろ!」

「「黒髪に青銀の瞳……」」

「そうだ、黒髪に青銀の瞳。男とも女ともつかない美しさを持った人間の娘だ。男装をしている可能性もあるから娘ではなく少年と間違えられているかもしれないが…」

「「男とも女ともつかぬ美しい人間……其方はその方の何だ?答えよ」」

 門番から逆に質問が返って来た。
 初めてのパターンである。

「私はサイヒの半身だ。サイヒの隣に在る為に来た。サイヒの所まで案内願おう」

 冷たい双眸でルークが門番を見る。
 魔王としての圧が双子の門番を襲う。
 だが、全能神に仕える双子の門番はソレに怯むことは無かった。

「「貴公、事務作業は得意か?」」

 何故か門番から不可思議な質問をされる。
 これにはルークも虚を突かれた。

「皇太子としていたから公務は得意だ。付き人のクオンも苦手な部類で無い」

「「な、何と!公務が得意なものが!すぐさま全能神の処へお連れせねば!!」」

「「は?」」

 ルークとクオンは門番たちの突如の興奮ぶりに唖然と声をあげた。

 ギィィィィィィ

 大きな銀の扉が開く。
 門の前に銀色の馬が引く緑の馬車が待っていた。

「「早く御乗りくだされい。この馬が全能神様の所まで案内いたします」」

「私は全能神に会いたいのではなくサイヒを探しに来たのだ!」

「待ってくださいルーク様、サイヒはむやみやたらと探すよりトップと話をつける方が早いです!」

「くっ、分かった。クオンの言い分に一理ある。全能神の処へ向かおう」

「「感謝いたします!頑張って下さいませ!!」」

 双子の門番が敬礼をして馬車に乗ったルークたちを見送った。

 :::

 馬車が止まる。
 降りると、白亜の神殿が建っていた。

「ここが全能神の住処か……」

「話は聞いております。私が案内いたします、後をついて来て下さいませ」

 何時の間にかルークたちの目の前に立っていた執事のような男が、ルークたちが馬車を降りると踵を返し、ツカツカと大理石の廊下を歩いて行く。
 それに引き離されないよう早足で付いて行く。
 やたらと歩くスピードが速い。
 早足で歩いても無いのにだ。
 途中から付いていけなくなったマロンをクオンが背負う。
 2人して顔を赤くする。
 こんな場面だが、初々しくも微笑ましい光景だった。

「この扉の向こうに全能神様はおられます」

 ノックを3回し、執事は扉を開けた。
 扉が開くと同時に、部屋の中の喧騒がルークたちの耳を襲った。

「主様!ここに印を!」

「北区の資料は何処に行った!?」

「あ~サインの間違えミスがあるぞ!!」

「コチラの書類目を通して下さい!!」

 まるで漫画家の修羅場の様だった。
 全員が目の下にクマを作って、額に謎の白い札(実は冷え〇タだ)を張り、なにやら怪しげな色のドリンクを飲みながら忙しくなく声や書類が飛び交っていた。

「全能神様!助っ人を連れてきました!!」

 執事が声をあげる。
 一瞬部屋の中が静寂に包まれた。

「助っ人?誰でも良いから仕事が出来るなら手伝ってくれ!このままでは引き継ぎ作業が終わらん!」

 男とも女ともとれないアルトの声。
 ルークがこの世で一番好きな音が部屋の奥から聞こえた。

「サ、イ…ヒ……?」

「その声、ルークか!?」

 一番奥に座っていた存在が立ち上がる。
 やはり謎の白い札を額に張ってるし、目の下はクマが出来ていたが、その美貌は衰えない。

 無造作に結ばれた黒髪。
 光を反射する海の水面のような青銀の瞳。
 男でも女でもなく、そのどちらでも在るかのような性別を感じさせない美貌。
 其処に居たのは、まさしくルークが求めていた人物で……。

「全能神サイヒ様!助っ人3名投下いたします!!」

 とんでもない言葉が執事の口から発せられ、部屋に大きく響いた。
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