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【68話】R-18

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 カカンからガフティラベル帝国への旅は本当に半日で終わった。
 アンドュアイスはフレイムアーチャに行っているので久しぶりの4人での食事だ。
 サイヒの言伝通り、マロンは腕によりをかけて夕食を作っていてくれた。

「うん、やはりマロンの手料理が1番だな。自宅に帰って来たと言う気になる」

 舌鼓を打つサイヒにマロンは嬉しそうに微笑む。
 自分が言いたいことをサイヒに言われて少し不貞腐れるクオン。
 本人に自覚は無い。

「クオン様、お口に合いませんでしたか?」

「そ、そんな事ありえません!マロン様の料理はこの世で1番美味しいです!!」

「まぁ、褒め過ぎですわクオン様…」

 初々しくも微笑ましい2人である。
 つい半刻前にあれ程の事があったのにもう日常に戻っている。
 サイヒが普段と変わらないからだろう。
 大事が起こっている筈が、何も変化のない平和な日常だと錯覚させる。
 サイヒもそれを狙って振舞っているのか違うのか…。

「兄さんも無事そうで良かった」

 ルークが呟く。

「アンドュとルーシュなら大丈夫だろう。魔道具と法術具も持てるだけ持たせたし、オグリとルインも居るからな。相手に後れを取ることは無いはずだ」

 サイヒの答えにルークは微笑む。
 心配していた兄が無事である事をサイヒの口から改めて言われると安心感が違う。

 アンドゥアイスはフレイムアーチャへの旅だが、オグリに乗っていった事で半日で国をまたいだようだ。
 ルーシュとも合流したと連絡があった。
 ちなみに連絡方法はスニャートホンだ。

 アンドュアイスとルーシュにも今日あった事を説明し、サイヒが最後に「頼んだぞ心友」と声をかけると、ルーシュが「心の友になった覚え無いんですけどね!!」と返って来た。
 流石は不憫2号である。
 1号ととても反応が似ている。
 何はともあれ、あちらのコンビネーションもモチベーションも良さそうだ。
 このままサクッと悪魔たちを倒したいものである。

 腹の内から沸々と沸いてくる感情を抑え、サイヒは何食わぬ顔で食事をすすめた。

 :::

 窓から風が入る。
 カーテンがたなびく。
 夜の冷たい風がルークの頬を撫ぜた。
 そしてこうやってルークの元を訪れる者が誰なのかルークは知っている。

「サイヒ……」

 バルコニーから人影が歩み寄る。
 室内に入って来たのは白い寝着を着たサイヒであった。
 珍しく女物の衣装を着ている。
 さらには晒を巻いていないため、サイヒの整った体型が露になっていた。

 ゴクリ、とルークが唾をのむ。

 風でサイヒの長い黒髪がたなびく。
 月光に照らされたサイヒはこの世のものと思えないくらい美しい。
 だがルークは知っている。
 その体に灯る熱の熱さを。

「ルーク、お願いを聞いて欲しい」

「願い?」

 それはサイヒからの初めての発言であった。
 サイヒは基本なんでも1人でこなしてしまうので、指令を下すことがあっても乞う事はしない。
 そのサイヒが言ったのだ。
 ”願いを聞いて欲しい”と。

「私が出来る事なら何でもするぞ、サイヒ」

 ルークはベッドから降りると、ガウンを持ってサイヒの元へ行く。
 何時からバルコニーに居たのだろうか?
 サイヒの体は随分と冷えていた。
 その体にガウンを羽織わせる。

「私と逃げてくれないか?」

「え………?」

「私では魔王は倒せないんだ。だから、私と2人で逃げて欲しいんだルーク……」

 それは信じられない言葉だった。
 サイヒが逃げると言うなど。
 何時だってサイヒは強大な力で周囲を守って来た。
 そのサイヒが魔王は倒せないと言うのだ。

「だが、それでは皆は……」

「世界には被害が出ないよう精一杯尽力を尽くそう。だが、魔王の討伐は私には無理だ…だから、私と逃げて欲しい。王座を捨て、国を捨て、世を捨て、私と2人きりでこれからの人生を2人だけで共に生きて欲しい、駄目か、ルーク?」

 サイヒの青銀の瞳がゆらゆら揺れる。
 泣くのかとルークは思った。
 いや、自分の返答次第では本当に泣いてしまうだろう。
 それは想像ではなく確信だった。

「サイヒは、ソレで良いのか?」

「お前が手に入るなら、他の何もいらない。私の天秤は世界よりお前に傾いたんだルーク、どうか…私の手を取ってくれ、そしてその手を離さないでくれ、その手で私を抱きしめてくれ!」

 ルークは力いっぱいサイヒを抱きしめる。
 細い体に腕を廻して力いっぱい体を抱き寄せた。
 想像通りサイヒの体は冷えていた。
 この言葉を言うのに、どれだけバルコニーで考え込んでいたのだろう。

「サイヒ、私の天秤だってサイヒと世界をかけたら其方に傾く…私はサイヒの手を取る。だから、サイヒも私を離さないでくれ…ともに、生涯ともに居てくれ、愛しているんだサイヒ!」

「ルーク、私も、私もお前を愛しているよ。今ここで、私をお前の物にしてくれ、ルーク」

 サイヒの眦から涙が零れた。
 その涙に唇を這わす。
 涙を流すサイヒは、初めてルークにとって17歳の少女なのだと感じさせた。
 どんなに巨大な力を持っていても、サイヒは17歳の少女だったのだ。
 何故こんなに若い少女にこの世界を守らせなければいけない?

 サイヒが世界を守護せねばならない理由なんて無い。
 あるとしたらソレこそ”神様の気紛れ”のせいだ。

 サイヒに、普通の少女の幸せを与えたいと思った。
 何時もの神秘的ですらあるサイヒは憧れだった。
 だが年相応のこのサイヒと言う少女を、ルークはこの腕の中に閉じ込めたいと思った。
 それはルークが初めてサイヒに”恋”の感情を抱いた瞬間だったかもしれない。

 17歳の、無力に泣く少女に恋をした。

 唇を合わせる。
 サイヒのリードではない。
 今のサイヒを自分の物にしたいと言うルークの雄の本能が、サイヒのリードを許さない。
 貪るように口内を舌で蹂躙した。
 
 ガクリ、とサイヒの腰から力が抜ける。
 
 それをルークは難なく片手で支える。
 今のルークは出会った頃のルークとは違う。
 病に侵されていない、健康な体を持った成人男性の体だ。
 アンドュアイスやクオンほどではないが、サイヒの手ほどきによってその体には細いが必要な筋肉はしなやかに付いていた。

 体をかき抱いた事でサイヒの体が想像以上に細かったことをルークは知る。
 何時もサイヒはルークを攻める側だった。
 こうして体を抱きしめて、力の籠めれれていないサイヒの体は少女の華奢な体だと感じられる。

 薄い寝着とガウン越しにその体の存在を感じる。
 
 ルークの腰にズクンと甘い痺れが走った。
 下半身が熱を持つ。
 この雌が欲しいと本能が訴えているのだ。

「サイヒ、良いか?」

「ルーク、お前の全てを私にくれ……」

 弱弱しい泣き笑いを浮かべたサイヒを腕で横抱きに持ち上げる。
 そのままベッドへ移動する。
 口づけが再開される。
 そしてルークの手がサイヒの体を、その肉の感触を確かめるように這っていく。

「ふっあ…」

「サイヒ、声を聴かせてくれ」

「無理だ、恥ずか、しい……」

 恥じらうサイヒに愛おしさがこみ上げる。
 何と愛らしい少女なのかと。
 その感情が愛撫となりサイヒに返される。
 愛撫1つ1つにサイヒは反応した。
 何時もの壮絶な色香とは違う、まだ男を知らない少女だけが持つ清らかな色香がルークの脳を痺れさせる。

「ルーク、ルーク!愛しているよ、神様の悪戯なんかじゃない。これは私だけの感情だ、私のモノだ、私が出会ったのも、恋に落ちたのも、ずっと一緒に居たいのも私の感情だ。愛しているんだルーク、忘れないでくれ。私がお前を愛していることを、お前が私を愛してくれたことを、私の体に刻んでくれ」

 それは承諾の言葉だった。
 ルークを胎内へ受け入れる、と言う。

「良いのだな、サイヒ」

「お前以外なら拒否するがな」

 クスリとルークが笑った。
 そしてすぐに獰猛な色を湛えた瞳をサイヒに落とす。

「愛している、サイヒ」

 ズッ

 誰にも明け渡した事のない未開拓な体を男の肉が侵入する。
 戦闘で傷を負うのとは違うベクトルの痛みがサイヒを襲った。

「いった……!!」

「私の背に爪を立て、肩に歯を立てておけばよい」

 サイヒの腕がルークの背に回される。
 爪で傷つけるのを躊躇いながらも、痛みでそんな相手を気遣う余裕はサイヒには無かった。
 肩に歯を立てる。
 犬歯がプツリとルークの皮膚を貫いて血を流させたが、その痛みすらルークは快感を覚える。

「サイヒ、ずっとこうしていたい」

「私もだルーク」

「痛くても?」

「それでもお前が与えてくれる物なら何でも感受するよ…」

「私の腕の中に、ずっと囚われていてくれ…サイヒ……」

「ソレは、ソレは素晴らし提案だルーク…私もずっとお前と繋がっていたい……」

 腰の律動が激しくなる。
 ルークの限界が近づいているのだ。
 サイヒの足がルークの腰に絡みつく。

「サイヒ、これでは中に…」

「言ったろう、ルークの全てが欲しい。お前の全てを注ぎ込んでくれ……」

「はぁっ、必ず、私の手を離すな!お前も、お前との子も私が守る!お前の全てをこれからは私が守るよサイヒ!」

「あぁっルーク!」

 体がビクリとベッドの上で跳ねる。
 サイヒの体内でルークが果てた。
 ドクリ、とその精はサイヒの最奥へ注ぎ込まれる。

「子供が宿ったかもしれないな。そうなればサイヒの腹が膨らまないうちに式を挙げないとな。サイヒのウェディングドレスは綺麗だろうな……」

「結婚、か…そう言えば私は恋愛結婚を目指して国を出たのであったな……願いは叶ったと思って良いのだろうか……?」

「叶っただろう?私はお前を離す気はないぞ、サイヒ」

「ルーク、有難う、愛しているよ。一生忘れられない夜だ……」

 サイヒがルークの背中に再び腕を廻して抱き締める。
 ルークもサイヒを抱きしめ返す。
 繋がり合ったまま、2人の意識は深い眠りの底へ沈んでいった。

 :::

 ルークがベッドに腕を這わせた。
 何の感触も無い。
 ガバリとルークはその身を起こす。

「サイヒ?サイヒ、何処だ!?」

 シーツには血の跡があった。
 ルークの体にも甘美な気だるさが残っている。
 それが昨夜の事が夢では無いのだと物語る。

 消えたサイヒを探して部屋を見回す。
 寝る前には無かったメモがサイドテーブルに置かれているのが目に入った。
 腰にシーツを巻き付け、そのメモを読む。

===============================

 親愛なるルークへ

 愛している。
 私の存在が神によって創られたと言っても、私のこの半年は、私だけの物で、私だけの宝物だ。
 ソコには誰の思惑もないし、無かったと言い切って見せる。
 だが、私はお前を愛するならその愛が本物であることを証明したい。
 神によってお前と惹かれ合ように自分が作られたなど、そんな事を認める訳にはいかない。
 だからけじめを付けに行く。
 きっと、お前の元へ帰ってくる。
 それまでお前の心が変わっていないことを祈りたい。
 それではまた会える時まで、お前の幸せを願っているよ。

 私の親愛なるルーク…何も知らない、私の愛した最愛の無垢なる魔王へ

 サイヒ・レイラン・フワーラより

===============================

「ああああああああああああああああ!!!!」

 ルークのエメラルドの瞳から涙が流れる。

「何で、そんな、嘘だ!私が守ると言ったではないか!一生を共にすると言ったではないか!なのに何故、お前は今この腕の中に居ない?お前の匂いがまだ残っている、体温を、皮膚の感触をまだ指先が、体が覚えている、なのに何故…何故お前は行ってしまったのだサイヒ……たとえお前が私を愛するため作られたのでも、私はお前を愛している事に変わりは無いのに……」

 サイヒは言った。
 自分に魔王は倒せないと。
 サイヒは魔王がルークであったから倒すことが出来なかった。
 サイヒは世界とルークを天秤にかけて、まさしくルークを取ったのだ。
 そしてルークへの愛が本物であると証明するために、神と対峙しに行ったのであろう。
 サイヒはルークの手の届かない所へ行ってしまった。

 そして、サイヒがルークの元へ帰ってくることは無かった……。
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