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【62話】

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 それはまるで神殿に描かれている絵画の様な光景だった。
 純白のグリフォンに乗った、銀髪にエメレルドの瞳の美貌の青年が1人のシスターに向かって降りてくる。
 シスターはそれが自分を迎えに来たのだと知っていたのだろう。
 グリフォンを恐れもせず、己からも近づいた。

「サイヒ!」

 青年がシスターの名を呼ぶ。
 シスターは神殿で他の名で呼ばれていたが、青年が呼ぶ名が本来の名なのだろう。

「ルーク…」

 シスターが甘いアルトの声で青年を呼ぶ。
 青年が蕩ける様な笑顔を浮かべた。
 グリフォンから降りた青年はシスターを抱きしめる。

「サイヒ!私が弱いばかりに其方に嫌な思いをさせた…私はコレから強くなる。其方の横に立てるように…だから、だから私の元に帰って来てくれサイヒ……」

「ルーク、前にも言っただろう?お前が嫌だと言っても離さないと」

「では戻ってきてくれるのか?」

「私が戻る場所はお前の元だけだ」

 青年ールークの腕が、シスターに伸びる。
 そして腰を抱き寄せ、もう離すまいと言うように目一杯抱きしめた。
 その必死さに、温もりに、シスターハナ…いや、サイヒはクスクスと笑った。

「ただいまルーク」

「おかえりサイヒ」

 2人の顔が近づき、触れるだけのキスを交わす。
 ルークはエメラルドの瞳を細めて、宝物を見る子供のようにサイヒを見つめた。

「まさかシスターになっているとは思わなかった。オグリが居なければ折角兄さんが手形を発行してくれたのに、サイヒに出会えない所だった」

「オグリ?この子の名か?」

「兄さんの家族だ」

「あぁ、使い魔でもペットでもなく家族か、アンドュらしいな。毛が白いのは法力で育ったせいか?」

「そんなことまで分かるのか?」

「野生のグリフォンには居ない色だ。それに魔力ではなく法力を感じるからな。アンドュの法力で育っただけあって、素直そうな良い子だな。初めましてオグリ、私がサイヒだ」

『オグはオグリなの。サイヒに会えて嬉しいなの』

「あぁ、私も会えて嬉しいぞ」

「サイヒはオグリの言葉がわかるのか?」

「さすがに虫と喋ったことはないが大抵の生き物とは会話は出来るな。後、植物との大雑把な意思疎通は可能だぞ」

「やはりサイヒは凄いな。ところでローズ王子からサイヒはフレイムアーチャの聖騎士の友人の所にいると聞いていたのだが、何故神殿でシスターをしているのだ?」

「あぁ、紹介しよう。ルーシュ、来てくれ」

 サイヒが呼びかけると小走りで背の高いメイドが近づいてきた。

「ルーシュ、これが私の半身だ。ガフティラベル帝国の皇太子のルークだ。そしてルーク、こちらが私の親友の元聖騎士現聖女付のメイドのルーシュだ」

 ルークとルーシュが目を見開き互いを観察する。

「……おん、な?」

「……皇太子?」

「2人共仲良くやってくれ」

 にこやかなサイヒの肩を各々が力いっぱい掴む。

「サイヒ、フレイムアーチャの騎士団は女も入れるのか!?」

「サイヒ、恋人は宦官じゃなかったのか!?」

 2人の勢いにサイヒが少し後ずさる。

「何を2人して興奮しているのだ?説明には答えるから1人ずつにしてくれ」

「あ、じゃぁ皇太子様からどーぞ」

「あ、あぁ済まない。で、聖騎士と聞いていたから、てっきり私はサイヒの友人は男だと思っていたのだが…?」

「ルーシュは将軍家の生まれの第8息女だ。男が生まれなかったので男として育てられて騎士になった。もっともここ最近、弟が生まれたので死んだことにして平民として聖女の傍仕えをしている訳だが」

「それは、大変だな…そんな事がまかり通るものなのだな……」

「無理を通せば道理も通ってしまうものなのだよ」

 ルークが哀れんだ視線をルーシュに向ける。
 ルーシュは非常に居心地が悪そうである。

「で、ルーシュ。聞きたいことは?」

「そうだ、宦官が恋人じゃなかったのか?職場で相手を見つけたと言ってただろう!何で宦官していて皇太子と恋愛する事になったんだよ!?」

「職場は皇太子の後宮だからな。後宮の主である皇太子と出会ってもおかしく無かろう?毒で倒れている所を助けてたのが馴れ初めだ」

「まさかあの時は余命が後1年だとは思わなかったな」

「皇太子さま天然なんね…サイヒと付き合えるわけだわ……」

「こちらもサイヒに同性の親友が居たことに驚いている。女性はたいていサイヒに篭絡されるからな」

「まぁ男として育ったのもあるかもしれないけど、相性が良いのやら悪いのやら。私はサイヒのフェロモンに当てられない質らしいです」

「あぁクオンみたいなものか」

「うむ、血を吐かないクオンだと思えばよい」

「一気に親近感が湧いた」

「不憫な所がそっくりだぞ」

「ちょっと待って!そのクオンさんてよく知らないけど何か凄い苦労している気がするんだけど!!」

「概ね突っ込み役に回ることが多い。あんなに一々気にしていては疲れるだろうに…だから胃をやられるのだ」

「会ったことも無いのに何故かクオンさんに親近感を感じる…」

「多分仲良くなれるぞ。帝国に遊びに来た折には紹介しよう」

『オグも!オグもルーシュ紹介してなの!』

 サイヒの襟をグイ、とオグリが嘴で引っ張った。

「グリフォンのオグリがお前を紹介して欲しいそうだ。自己紹介してやれ」

「自己紹介って…ん~サイヒの友人のルーシュだ。仲良くしてくれ」

『オグもヨロシクなの!仲良くしてなの!ルーシュ、他の匂いもするなの。すっごく良い匂いだけどオグとにーちゃみたいに家族居るなの?』

「あぁそれはルインの匂いだろうな」

「『ルイン?』」

 サイヒの言葉にルークとオグリの声がハモった(オグリは鳴き声だが)。

「ルーシュの使い魔のドラゴンだ。愛らしく賢く主に似ていない」

「お前ルイン褒めると同時に私の事落とすのやめてくれる!?」

「本当にクオンが居る様だ」

「皇太子様、感慨深げに頷かないでね!クオンさん居ても居なくても不憫だな!」

「ルーク、ルーシュはクオンより手数が多いし血も吐かない」

「クオンの上位互換か」

「血ぃ吐くまで弄るの止めたげて!!」

 何故かこの場に居ないクオンにルーシュは友情を感じた。

『ルイン?匂い、オグとっても好きなの』

「ほう、ルインの匂いが好きと…ほうほう成程、そう言う事もあるのだろうか?実に興味深い」

「さっきらか1人で納得するのやめてくれない!?」

「考えるな、感じろ。理性でなく本能で理解しろ」

「無茶ぶり止めて!普通の人はお前の感性についていけない事自覚して!!」

「サイヒの感性はズレているのか?私はしっくりくるが?」

「うん、皇太子様も感性多分ズレてる!不敬罪にしないでね!!」

「サイヒ、其方の友人は愉快な人物だな」

「そうだろう、私の世界に2人しかいない親友の1人だからな」

「親友発言あんがとね!大切に思ってくれてるのは分かってるけど着いてく方が大変なのも自覚して!んでどうせもう1人の親友はクオンさんなんだろ!?」

「よく分かったな、流石親友だ」

「会ったこと無いけどクオンさん頑張って!!」

 何故かルーシュがクオンへの友情を感じると言うカオスな展開が繰り広げられた。
 最後には天然×2に突っ込むのは1人では分が悪いとルーシュは諦めたのだが。

 そうしてサイヒのフレイムアーチャへの家出は終わった。
 土産に持たされたまだ試作段階の”シスターハナクッキー”を受け取り、サイヒとルークはオグリに乗って空高く飛んで帝国へと帰って行った。

 騒がしいのも今日で終わりかと、少しばかりルーシュはしんみりしたが、これからどんどん帝国に関わっていく事はこの時想像もしていなかった。


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 ルーク、サイヒの奪還おめでとう!
 そしてサイヒの友人が男じゃなくて良かったね(*´▽`*)
 サイヒの家出は終わりましたが、「聖女が今日もウザいです~」とはこれで完全に話がリンクしたのでルーシュの出番は減るどころか増えます。
 宜しければルーシュとルインも愛でてやって下さい(*- -)(*_ _)ペコリ
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