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【49話】

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 ルークの朝は早い。
 皇太子としての業務を午前中に片付けなくてはならないからだ。
 
 本来、一般の王宮仕えが1日で片付ける仕事の3倍を3時間ほどで終わらせる。
 朝食はクオンが作るサンドイッチを摘まみながらだ。

 朝の時間が勿体ないため王宮の料理人に一々朝食を作らせるのは面倒臭いのだ。

 毒見も無駄な時間でしかない。
 朝に食べ足りない分は昼食で補えばよい。
 それに満腹になると頭の回転が遅くなるので、少し脳を覚醒させるために軽く摘まむ程度の朝食がルークにとって都合が良いのだ。

 何よりサンドイッチなら業務をしながらでも食べられる。
 サンドイッチ伯爵に大感謝だ。
 伯爵自体は仕事の合間ではなく、カードゲームをしながら食べれる物を追求した結果生まれた料理らしいが。

 ちなみにサンドイッチ伯爵ことエドワード・モンタギューは神話時代の人物だ。
 ルークたちの生きる現代では食の神の1柱として崇められている。
 数億年前のレシピが残っているのだ。
 神にもなろうものである。

 仕事を片付けると【認識阻害】のブレスレットを付けて後宮に赴く。

 時間は10時ほど。
 目的の場所は第3皇太子妃マロン・スクワラルの宮だ。
 愛を深めるためにルークはマロンの元に向かう。

 しかし愛を深めるのはマロンとでは無い。
 
 神に認められし半身にして伴侶、サイヒとの愛を深めるためだ。

 今日もルークは妻であるマロンに菓子作りを習う。
 男の心を掴むにはまず胃袋から掴むのが定石だ。
 いや、サイヒは男では無いのだが。
 だがサイヒは食に対して貪欲だ。
 胃袋を掴んでおいて無駄にはならないだろう。

 そうしてルークは1時間ほど、本日の茶会に出す菓子を一緒に作る。

 マロン先生は意外に厳しいが、飴と鞭の使い方をよく熟知している。
 ルークもマロンの手腕のお陰で菓子作りの腕はメキメキと上がっている。
 有難い事このうえない。

 とうのマロン先生はルークが業務をしている間、宮殿でパティシエから製菓作りを学んでいる。
 なのでマロンの朝も早いが全てはサイヒへの愛の為である。

 ルークとマロン。
 関係としては夫婦の2人はサイヒへの愛を中心として関係性が築かれている。
 サイヒ推しの2人にとっては、サイヒの為に時間を割くことに面倒臭いなどと思うはずもない。
 ちなみにこの2人、お互い以外では同担拒否だ。
 あくまでマロンのサイヒへの愛情がブラコン的なものだから、成り立っている関係である。

 推しのいる生活…尊い……。

 午後の茶会用の菓子を作り終えたらルークはサイヒの部屋へと向かう。
 今は後宮の裏の広場ではなくサイヒの部屋で密会だ。
 もふもふ達に会えないのは寂しいが、クオンが血を口から垂らしながら笑顔で密会はサイヒの部屋でするようにと意見を譲らなかったので仕方ない。

 それにサイヒの寝ているベッドで睦会うのは悪くない。
 サイヒの部屋はほんのり当人の匂いがする。
 ルークはサイヒの匂いが好きなのだ。
 言っておくが変態ではない。
 遺伝子の不思議である。

 サイヒの部屋に付いたらすぐにベッドに押し倒される。

 そして口付け。

 今までは体の表面から流していた【解毒】の法術を、直接口から流し込まれているのだ。
 サイヒ曰く効率が良いらしい。
 毎日サイヒの口付けを貰えるなら、時間が長くなるよう”もう少し毒が強くても良いのにな”と思ったルークは悪くない。

 悪いのは無駄に色気を垂れ流して、ルークに乙女の様な思考をさせるサイヒが悪い。

 そして解毒が終えたらマーキングの時間だ。
 サイヒの手によってルークの上半身の衣類は剥ぎ取られる。
 やけに手つきが慣れている様な気がするのは何故だろう?

 聖女をしていたサイヒは間違いなく純潔であるはずなのだが…。
 もうサイヒの誑しスキルが本能とだからとしか言いようがない。

 解毒が終われば次はマーキングだ。
 これに関してはルークは未だに羞恥心を無くすことが出来ない。
 サイヒと関わってからルークの痩せすぎの体系はそれなりに肉がついたが、それでも神様に丁寧に作り込まれたかのようなサイヒの裸体に比べてルークの体はまだまだ芸術的とは言えない。
 そんなルークの体をサイヒはそれなりに気に入ってくれているみたいだが…。

 乙女心は複雑なのである。

 サイヒによってマーキングが行われれる。
 最初は首にだけ付けられていた所有印は何時の間にか上半身いっぱいに付けられるようになった。
 腹の奥がムズムズして変な声が出そうなので、ルークにとっては幸せであり拷問にも等しい時間だ。
 最近のサイヒは背中へのマーキングに執着している。
 鬱血とは違うサイヒだけの所有印がルークの背に刻まれる。

 この背中のマーキングに関してはルーク自身も見た事がないので、どういった形でサイヒが所有印を刻んでいるのかは分からない。
 ただ酷く快楽に近い熱に浮かされるのでルークは背中へのマーキングが苦手であった。
 だからと言って拒否するなんて思考はルークには浮かばない。
 サイヒから与えられるものなら苦痛でも喜んで受け入れる。

 サイヒに対してだけルークの許容量は海のように深い。

 サイヒもそれを分かっていてやっている節がある。
 ちょっとばかり”サイヒは意地悪だ”と思いながらルークはサイヒのしたい様に身を任せる。
 世の中惚れた方が負けなのである。

 散々マーキングをされたら衣服を整え宦官用の食堂へ向かう。
 ルークは少し熱に浮かされてフラフラしているが、この食事時間を大切にしている為着いて行かないと言う選択肢はない。

 宦官用の食堂の食事は美味しい。
 ルークがサイヒの為に職権乱用しまくった結果だ。

 そして食に貪欲なサイヒはそれはそれは幸せそうに昼食を食べる。
 この笑顔の為なら何でも出来るとルークは思う。

 でもこの笑顔は自分の手で引き出したいとも思う。
 嫉妬心この上ない。
 しばらくはマロン先生のお料理教室に通わなくてはいけないだろう。
 食事はまだ作れないが、せめて菓子で位サイヒの胃袋を掴みたいのだ。
 何時かはサイヒの食全てを自分が担当したいとルークは思っている。

 皇太子としてその思考は如何なものかと思うが、何せ仕事は出来るので時間の融通をきかせる手段はいくらでもある。
 最悪睡眠時間を削ってでもルークは野望をやり遂げるだろう。
 その時はサイヒの子守歌付きお昼寝タイムが付いてくることは想像に難くない。

 食事を終えて、少しばかりサイヒから法力の使い方を学んで小腹が空いたらマロンの部屋へ。
 そして一見和やかな茶会が開かれる。

 会話の内容が”国盗り”なので実際には和やかに程遠いのだが…。

 敵はガフティラベル帝国とカカン王国。
 説得(物理)を持ってサイヒは何とかしようと思っているらしいが、話を聞けば聞くほどスケールの大きさに本当に実行できるのかと皆は思ってしまう。

 クオンなど茶会中にハンカチ3枚は深紅に染める。
 その後ティーポーションをのんで平気そうな顔をしているが。
 慣れとは怖いものである。

 どれだけ困難でも何としてもサイヒを”元聖女”の座から遠ざける。

 ルークは凛々しいサイヒの横顔に見とれながらも、そう決心をするのだった。
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