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【39話】

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『決勝戦!!閃光の貴公子《コーン・ポンタージュ選手》VS類まれなる膂力をもつ美貌の冒険者《リリー・オブ・ザ・ヴァリー選手》!!速さ対力!!華麗な2名が決勝戦に残りました!勝利の女神はどちらに微笑むのかぁーーーーっ!!!』

「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」」」

「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」」」」

 会場に声援が響く。
 この戦いで群を抜いて実力を見せた両者だ。
 目が肥えた観客の男たちの興奮も凄まじい。
 見目麗しい2名の決勝者。
 会場の女性観客の心まで鷲掴みにしてる。

『それでは決勝始め!!』

 ゴーーーーン

 決勝の銅鑼が鳴った。

「本気で行かせて貰うぞサイヒ!」

「今はリリーだコーン・ポンタージュ」

 地を蹴ったクオンをサイヒが迎え撃つ。

 ガガガガガガガガガガガッ!!

 クオンがサイヒに切りかかる。
 サイヒは唯一身に着けたコテでその斬撃を全て受け流す。

『何というスピード《コーン・ポンタージュ選手》!!そして全てを受ける凄まじい回避力だ《リリー・オブ・ザ・ヴァリー選手》!!』

「行けーーーコーン・ポンタージューーーー!!」

「コンポタ氏!今回もやってくれると信じてますわ!ハァハァ」

「筋肉が!筋肉が足りませんわっ!!!」

「リリー君頑張れーーーーっ♡」

「リリポタ?ポタリリ?どっちにしても薄い本が厚くなりますわね!!」^o^)┐チラッ

 謎の声援も飛び交う。

「本気を出せリリー」

「本気を出して欲しければ、私の本気を引き出してみろ」

 ニヤリ、とサイヒが挑発的に笑う。
 その笑みにつられクオンも口角を上げた。

「セイッ!」

 クオンの蹴りが見えない角度からサイヒを襲う。
 ふっ、と消えるようにサイヒの姿が消えた。

「遅いな」

 クオンの背後にサイヒが移動している。
 その手をクオンの背にそ、と置き。

「発勁」
 
 ドンッ!!

 ゼロの距離から凄まじい威力の力が体に流れ込み、クオンの体が跳ね飛ばされた。

「何だ今の!?」

「魔術じゃねぇのか!?」

 観客は見た事のない攻撃に戦いている。

『今のは魔術ではありません!魔素計に反応は見られませんでした!いったい今の技は何なのかぁっ!!』

「あれは伝説で語られている【発勁】だ!神話時代の技だぞ!?神話時代の大国”チュウゴク”の拳法の秘伝だ!武術における「気」とは、体の「伸筋の力」「張る力」!「重心移動の力」などを指し、超常のものではない。勁を鍛えるため、様々な鍛錬を行う。また「力む」と屈筋に力が入ってしまい、「張る力」を阻害するため逆効果であるともされる。その為ゼロ距離でも凄まじい威力の力を相手に叩き込むことが出来る!!なんて餓鬼だ《リリー・オブ・ザ・ヴァリー》!!」

「そんな神話時代の武術を再現しているのか!?」

「いや、だがギルマスが言うなら間違いねぇ!」

 為になるギルドマスターの解説である。
 その言葉が伝言ゲームのように客席に伝わる。

「おい、あれ神話時代の武術らしいぞ!」

「神話時代!マジか!?」

「うおっ俺コンポタに賭けたぜ?」

「いや、でもポンタージュも立ち上がった!!」

 クオンは3メートルほど吹っ飛ばされたが木剣を杖のようにして立ち上がる。

「この化け物が」

「友人に向かって化け物とは酷いじゃないか。こんなプリティーな私に向かって」

「お前の何処がプリティーだ…百歩譲ってクールビューティーだろうが」

 まさか上司の未来の伴侶にこのような無礼な口を聞いたと知られると不敬罪になりかねない。
 クオンは何も知らないの仕方のない話だが。
 まずクオンはサイヒの性別を勘違いしたままなのも問題なのだ。
 サイヒが女だと分かっていれば、絶対に木製であろうと剣を女性に向けるなどしなかった。
 それが自分より実力者であってもだ。
 クオンはフェミニストなのだ。

「まぁもう少し盛り上げるとするか」

 サイヒの姿が消えた。
 現れたのは再びクオンの背後。
 その背に手を当てられたクオンは「発勁」を避ける。
 それを追撃するようにサイヒがクオンを追いかける。

 クオンを追い詰めながら見栄えする足技でクオンに攻撃を仕掛ける。
 その蹴りをクオンは木剣で受け止める。
 受け止める事しか出来ない。

『何という攻防!両選手目まぐるしく攻守が入れ替わるーーーーーっ!!』

 司会も興奮している。
 司会業をやって20年、これ程の試合に恵まれたことは無い。
 遠い未来でこの司会者は孫たちにいかに凄まじい試合があった事を語るのだが、それはまた別の話だ。

 サイヒが剣を弾き、クオンがサイヒの蹴りを躱す。

(この化け物が!汗1つかいてないだと!?)

 距離を取るためクオンは木剣を一閃薙いだ。
 それはサイヒから距離を取るためのものだったのだが。
 サイヒの体が後ろに吹き飛ばされた。
 いや、サイヒが自ら後ろに飛んで会場の外に飛ばされたのだ。

『鮮やかな一閃!勝者は《コーン・ポンタージュ選手》ですっ!!』

「「「「「「「わぁぁぁぁぁっぁあっぁぁっ!!!」」」」」」」

 会場の空気が観客たちの声援で揺れた。

『《コーン・ポンタージュ選手》にはこの後、陛下から褒美が渡されます!《コーン・ポンタージュ選手》は果たして陛下に何を願うのか!?最後まで観客の皆様もお楽しみ下さい!!』

(何故己から負けに行った?先程の誓いの柱と関連があるのか!?)

 確実にサイヒの方がクオンより強かった。
 ソレが分からないほどクオンは愚鈍でない。
 それ故にサイヒが己で負けを選んだことを気付くことが出来た。

(まぁ殿下にも関係ある事だから仕方ないだろう。わざと負けられるのは悔しいが、勝利は勝利だ。この勝利、マロン妃に捧げよう)

 クオンは皇室用閲覧席に綺麗な礼をした。

「やっぱりあの選手私に気があるのよ!」

「優勝者は晩餐会にも招待されますもんねぇ。近くで見てまな板に気付いて逃げられなかったらよいですねぇ。カスタット様ぁ」

 ぽってりとした唇に指で紅を挿しながらマカロがカスタットを挑発する。
 近く出会えば自分の方にクオンの興味が惹かれると思っている事がありありと伺える。
 1人マロンだけがその礼を自分に向けられているのを知っていて、その頬を赤く上気させていた。

  :::

 さて日が落ちると、晩餐会の始まりだ。
 
 それまではようやく胃痛止めポーションを飲めた事で、一息ついたクオンを労わってやるべきだろう。
 だが労わってやるべきルークの姿が何処にもなかった。
 サイヒの姿もだ。
  
 せめて晩餐会が平和に終わるよう、クオンには祈ることしか出来なかった。
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