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【12話】
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ルークには年上の従兄弟が居る。
王弟の息子にあたるアンドュアイスと言う今年で25歳になる男だ。
皇帝は中々子供が出来なかった。
それゆえ王弟の息子が新たなる皇帝になるだろうと思われていた。
アンドュアイスは神童と呼ばれ次期皇帝に相応しいと誰もがそれを納得していた。
だが5年後、皇帝に息子が生まれた。
王妃が別の男の種で宿した子供ではないかと噂されたが、生まれて来た皇子を【鑑定】の魔術で調べたところ間違いなく皇帝の子供であった。
政権が2つに割れると思われたがアンドュアイスが優れた子供だっため、次期皇帝はアンドュアイスであろうと誰もが思っていた。
しかしルークが5歳になる頃にはアンドュアイスを凌ぐ才を見せ始めた。
真の神童とはルークのためにある様な言葉であると皆が思った。
アンドュアイスが1年かかった事をルークは2ヵ月で習得する。
アンドュアイスは秀才であり、ルークは天才だと誰もが認識した。
そしてアンドュアイスを皇帝にと支持する者はいなくなった。
剣術も。
勉学も。
容姿迄も。
ルークは全てにおいてアンドュアイスの上をいった。
自分に向けられていた好意的な視線がルークに移ったのを理解し、10歳と言う幼さでアンドュアイスは年下の従兄弟を疎み始めた。
ずっと父の言われてきたのだ。
”お前が次の皇帝だ”、と。
だが今はどうだ。
5歳と言う年の差がありながらルークはアンドュアイスと同等に剣を打ち合う。
勉学も同じ教師をつけられ、同じことを学習する。
輝くような金髪に美しい碧眼を持った男らしいアンドュアイスの容貌は誰が見ても美しいと言うだろう。
だが銀髪にエメラルドの瞳を持つ端整なルークの美貌は見る者の心を一瞬で奪うほどに整っていた。
生まれた頃は弟のように可愛がってきたルークが今は忌まわしくて仕方がない。
それでも、まだアンドュアイスはルークを疎むだけで危害を加えようとは思っていなかった。
”疎ましい”が”消えて欲しい”に変わったのは何時頃からか。
きっとアンドュアイス自身にも分からない。
父にルークに決して負ける事は許さないと何年も言われ続けたゆえか?
病弱だった母の最期の言葉が”必ず皇帝になって私の未練をはらして”と言われた時か?
どれかがトリガーだったかもしれないし、全ての物が塵が積もるようにアンドュアイスの心の器をジワリジワリと埋め尽くしていったのかもしれない。
アンドゥアイスが15歳になったとき、宰相であった父が死んだ。
味方が1人も居なくなったと感じた。
だが父と親しかった新たなる宰相が言ったのだ。
”貴方が皇帝となり父と母の無念をはらすのです”、と。
ほんの数分産まれる時間が違っただけで双子の兄に皇帝の座を譲らなければなかった父親。
病弱である為、後継者を生むのに向いていないと皇帝の正妻候補から外された母親。
”貴方は負け犬になってはいけません”宰相をはじめ、宰相と繋がりを持つ貴族たちが誰もがアンドュアイスにそう囁いた。
”皇太子が居なくなれば貴方が次の皇帝です”とは誰が言った言葉だったか?
いや、誰が言ったなんてどうでも良い。
”あの才覚ある従兄弟を殺せば次の皇帝は己である”
その考えはストンとアンドュアイスの心に収まった。
「そうだ、あいつが死ねばよい。父上や母上の無念をはらすためにジワジワと嬲り殺しにしよう。誰にも気づかれないよう内側からだ。少しずつ毒を盛ろう。大丈夫、毒見役を付けてもアイツに毒を盛り続ける事は難しいことでは無い」
実際、毒を盛るのは簡単だった。
給仕係は簡単に金で買収できた。
ルークの死後、爵位を与える事を約束することで簡単にアンドュアイスの命に従った。
ただし毒はあくまでルークの皿だけに盛るよう指示した。
毒を仕込んだのが給仕であると気づかれた時のために、呪術師にアンドュアイスが首謀者であることを言えぬ呪いをかけさせた。
勿論、給仕はそんな事は知らない。
あくまでバレた時はアンドュアイスの名を出せば良いと思っている。
いや、思い込まされた。
アンドュアイスはそう思うよう巧みに話を持ち掛けたのだから。
毒見役もアンドュアイスの言うことを聞かすことが出来た。
毒見役をやりたがる者は少ない。
当然だ、己の命がかかっている。
それでも毒見役をせざるをえない者を探した。
スラムで生きる少年。
病気を患っている母親と2人暮らしで薬代に困っていた。
母親の薬代を持ち掛けるだけで少年は簡単にアンドュアイスに従った。
そしてアンドュアイスは少年に【解毒】の魔術を封じた魔石を体の中に埋め込んだ。
これで少年は毒を食べても死ぬことは無い。
ただ魔石を体に埋め込むのは途轍もない激痛を伴うので上流階級のものがコレをすることは無い。
そのための毒見役であるのだから。
完全に魔石を外から見えない深い位置に埋め込むのは更に痛みを伴う。
魔石を入れた部位は常に熱を持ち痛みがあるはずだ。
それでも毒見役はもう5年も毒見を続けている。
母を保護して貰うがために。
その母がすでに居ない事は少年は知らない。
勿論、毒見役にも真実が話せない呪いをかけてある。
後はルークが死ぬまでアンドュアイスは良き兄貴分でいれば良いだけだ。
もう5年ルークは毒を摂取している。
後1年ももたないだろう。
アンドュアイスは細く笑む。
ルークを侵していた毒が、既に解毒されているなどはアンドュアイスは思いもしてなかった。
王弟の息子にあたるアンドュアイスと言う今年で25歳になる男だ。
皇帝は中々子供が出来なかった。
それゆえ王弟の息子が新たなる皇帝になるだろうと思われていた。
アンドュアイスは神童と呼ばれ次期皇帝に相応しいと誰もがそれを納得していた。
だが5年後、皇帝に息子が生まれた。
王妃が別の男の種で宿した子供ではないかと噂されたが、生まれて来た皇子を【鑑定】の魔術で調べたところ間違いなく皇帝の子供であった。
政権が2つに割れると思われたがアンドュアイスが優れた子供だっため、次期皇帝はアンドュアイスであろうと誰もが思っていた。
しかしルークが5歳になる頃にはアンドュアイスを凌ぐ才を見せ始めた。
真の神童とはルークのためにある様な言葉であると皆が思った。
アンドュアイスが1年かかった事をルークは2ヵ月で習得する。
アンドュアイスは秀才であり、ルークは天才だと誰もが認識した。
そしてアンドュアイスを皇帝にと支持する者はいなくなった。
剣術も。
勉学も。
容姿迄も。
ルークは全てにおいてアンドュアイスの上をいった。
自分に向けられていた好意的な視線がルークに移ったのを理解し、10歳と言う幼さでアンドュアイスは年下の従兄弟を疎み始めた。
ずっと父の言われてきたのだ。
”お前が次の皇帝だ”、と。
だが今はどうだ。
5歳と言う年の差がありながらルークはアンドュアイスと同等に剣を打ち合う。
勉学も同じ教師をつけられ、同じことを学習する。
輝くような金髪に美しい碧眼を持った男らしいアンドュアイスの容貌は誰が見ても美しいと言うだろう。
だが銀髪にエメラルドの瞳を持つ端整なルークの美貌は見る者の心を一瞬で奪うほどに整っていた。
生まれた頃は弟のように可愛がってきたルークが今は忌まわしくて仕方がない。
それでも、まだアンドュアイスはルークを疎むだけで危害を加えようとは思っていなかった。
”疎ましい”が”消えて欲しい”に変わったのは何時頃からか。
きっとアンドュアイス自身にも分からない。
父にルークに決して負ける事は許さないと何年も言われ続けたゆえか?
病弱だった母の最期の言葉が”必ず皇帝になって私の未練をはらして”と言われた時か?
どれかがトリガーだったかもしれないし、全ての物が塵が積もるようにアンドュアイスの心の器をジワリジワリと埋め尽くしていったのかもしれない。
アンドゥアイスが15歳になったとき、宰相であった父が死んだ。
味方が1人も居なくなったと感じた。
だが父と親しかった新たなる宰相が言ったのだ。
”貴方が皇帝となり父と母の無念をはらすのです”、と。
ほんの数分産まれる時間が違っただけで双子の兄に皇帝の座を譲らなければなかった父親。
病弱である為、後継者を生むのに向いていないと皇帝の正妻候補から外された母親。
”貴方は負け犬になってはいけません”宰相をはじめ、宰相と繋がりを持つ貴族たちが誰もがアンドュアイスにそう囁いた。
”皇太子が居なくなれば貴方が次の皇帝です”とは誰が言った言葉だったか?
いや、誰が言ったなんてどうでも良い。
”あの才覚ある従兄弟を殺せば次の皇帝は己である”
その考えはストンとアンドュアイスの心に収まった。
「そうだ、あいつが死ねばよい。父上や母上の無念をはらすためにジワジワと嬲り殺しにしよう。誰にも気づかれないよう内側からだ。少しずつ毒を盛ろう。大丈夫、毒見役を付けてもアイツに毒を盛り続ける事は難しいことでは無い」
実際、毒を盛るのは簡単だった。
給仕係は簡単に金で買収できた。
ルークの死後、爵位を与える事を約束することで簡単にアンドュアイスの命に従った。
ただし毒はあくまでルークの皿だけに盛るよう指示した。
毒を仕込んだのが給仕であると気づかれた時のために、呪術師にアンドュアイスが首謀者であることを言えぬ呪いをかけさせた。
勿論、給仕はそんな事は知らない。
あくまでバレた時はアンドュアイスの名を出せば良いと思っている。
いや、思い込まされた。
アンドュアイスはそう思うよう巧みに話を持ち掛けたのだから。
毒見役もアンドュアイスの言うことを聞かすことが出来た。
毒見役をやりたがる者は少ない。
当然だ、己の命がかかっている。
それでも毒見役をせざるをえない者を探した。
スラムで生きる少年。
病気を患っている母親と2人暮らしで薬代に困っていた。
母親の薬代を持ち掛けるだけで少年は簡単にアンドュアイスに従った。
そしてアンドュアイスは少年に【解毒】の魔術を封じた魔石を体の中に埋め込んだ。
これで少年は毒を食べても死ぬことは無い。
ただ魔石を体に埋め込むのは途轍もない激痛を伴うので上流階級のものがコレをすることは無い。
そのための毒見役であるのだから。
完全に魔石を外から見えない深い位置に埋め込むのは更に痛みを伴う。
魔石を入れた部位は常に熱を持ち痛みがあるはずだ。
それでも毒見役はもう5年も毒見を続けている。
母を保護して貰うがために。
その母がすでに居ない事は少年は知らない。
勿論、毒見役にも真実が話せない呪いをかけてある。
後はルークが死ぬまでアンドュアイスは良き兄貴分でいれば良いだけだ。
もう5年ルークは毒を摂取している。
後1年ももたないだろう。
アンドュアイスは細く笑む。
ルークを侵していた毒が、既に解毒されているなどはアンドュアイスは思いもしてなかった。
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