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《195話》

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 ♡マロンちゃんのお料理教室2日目♡

「お兄様…この看板は1週間続くのでしょうか?」

「何だ?私は可愛いマロンを自慢したくて仕方が無いんだ。この看板位許せ」

「はい♡」

 全く持ってチョロい物である。
 マロンのお兄様至上主義は年月が経つほどに強くなって行っている気がする。
 チョロさも酷くなっている気がする。
 遠目で見ていたクオンは口の中に錆びた味を感じたが、ソレを飲み込んだ。
 鉄臭い液体である。
 望んで飲みたいものでは無いが、己の吐血のハンカチを洗う係を侍女たちが争っていると知って以来、出来るだけハンカチやバスタオルは汚さない様にしている。

 吐血ハンカチを持って帰って保存している侍女迄居るらしい。
 そして同じデザインのハンカチをクオンの下に帰しているのだとか。
 どの時代もストーk…もとい、恋する女子は怖いものである。

 だが本当に怖い思いをしているのはクオンだろう。
 己の吐血した血が付いたハンカチを何に使っているのか?
 考えるだけでも恐ろしい!!

 クオンの持ち物がこうして度々新品に変わっている事実に気付いたのはサイヒである。

 そしてニャップロックなる商品をリリィ・オブ・ザ・ヴァリーが王都で売り始めてクオンファンの中で激売れしたらしい。
 夫の部下のストレスと血液ですら商売に結び付ける全能神。
 良いのだろうか?
 いや、良くない。
 だが止める者が居なかった。
 止める前に商売は終わったのだ。
 実は密林と言うシステムで同じ商品が買える事を男たちは知らない。
 恋する乙女は何処までも貪欲なのである。

 頑張れクオン。
 君を応援してくれる人は結構多いいぞ。

 :::

 そして11:30に昨日来た30人が全員集まった。
 どうやら皆期待以上の成果を上げたらしい。
 サラの班の恋する女子も好きな男に遠征前にクッキーを届けることが出来たようである。
 その話題でサラの班は盛り上がっている。

「クッキー、喜んで、貰えた、です、か?」

「はい、もう顔から血を吹きそうなくらいイケメンな笑顔で受け取って下さいました」

 顔から血を吹くとは又可愛らしいのか恐ろしいのか、何とも言えない表現である。
 まぁサラも喜んでいるから良いだろう。
 隣で聞いている全能神はうんうん、と頷いた。
 この全能神、今日も【認識阻害・特級】を使って料理教室に忍び込んでいるのである。
 過保護にも程がある。
 セブンの事を言えたものではない。
 こんな所がセブンの心配を買っているのだが…。

 セブンから見たらサイヒはそれはそれはサラに甘いのだ。
 しかもサラの初恋はサイヒである。
 まぁ初恋と言うか、それに似た深い敬愛の精神なのだがセブンにとってはどちらも同じである。
 因みにサイヒはセブンのそんな心情に気が付いているが、サラとの接し方をセーブする気はない。
 自分と言う壁を越えられない男にサラを渡すつもりはない。
 つまりセブンはサイヒにとってサラの恋人に相応しいか試されている所なのである。

 サイヒのセブンへの態度を見ていればその結果はバレバレだが。

「じゃぁ今日は【初心者さん向け!】私も作れるようになりたい“定番料理”レシピです」

 マロンの言葉に教室がざわつく。
 ”定番レシピ”と言った。
 初心者に実験に近いお菓子作りとは違う、普通のお料理も作れるものなのだろうか?
 まぁ1班あたり4~6人なので分担したら作れないことは無いだろう。
 それに”定番レシピ”だ。
 たまに差し入れするお菓子とは違う、メインの食事として用意する料理。
 結婚を視野に入れている者なら是非学びたい。

「今回は、初心者さんにおすすめ、簡単に作れる定番料理レシピをご紹介します。誰もが知っている「生姜焼き」「オムライス」などのメニューが、とっても簡単にお作りいただけます。
初心者さんはもちろんのこと、簡単定番レシピを覚えたい!という方にも必見のレシピをピックアップしました。ぜひ最後までご覧くださいね」

 優しい笑顔と包容力でそう言ったマロンにぱちぱちと拍手が起こる。
 本当に人の内側に入り込むのが上手い物である。
 マロンの優しい気質がそうさせるのだろう。
 これは流石にサイヒには真似できない。
 だからこそかサイヒはマロンが気に入っているのである。

「では今日は5選の中から簡単甘辛しょうが焼きの説明を始めますね」

 そしてマロンはホワイトボードにマーカーで絵や説明を書いていき、ソレを生徒たちはメモを取るのであった。
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