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《187話》

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 サラがお茶の用意をしてリビングに向かうと、テーブルの上に焼き菓子が並べられていた。
 多種多様の焼き菓子に、普段のサラなら心躍っただろう。
 だが今日のサラは”お漏らし”をしてしまったのだ。
 落ち込む心はこの程度では浮上しない。

 それにサラはセブンの作るお菓子に慣れ切っている。
 並の菓子では舌が満足しない。
 セブンの作る菓子は見た目も味も最高なのだ。
 市販で売られていただろう菓子ではサラを満足させる事は出来ないだろう。

 何より”お漏らし”の事実がサラの心を重く沈める。

 それでも笑顔でマーガレットに対応できるくらいにはサラは大人になった。
 敬愛するサイヒの姉だ。
 無碍に出来ない。
 それにマーガレットはサイヒに頼まれて来たと言っていた。
 サイヒが自分のために寄こした人物を丁重に持て成すのは当然のこととサラの脳裏にはインプットされている。
 何処までもサイヒフリークなサラなのだ。

「お茶、どう、そ」

「有難う、いただきますね」

 そう言ってふんわり笑顔を浮かべる。
 非常に女性らしい。
 少女ではなく、女性と言う単語が似合う。
 サラと年はそう変わらない筈なのに。

 マーガレットは優し気な美貌と雰囲気の大人の女性だ。

 年齢が変わらなくても19歳で”お漏らし”をしてしまう自分とは住んでる階層が違う。
 これが上流階級と下々の者の差であろうか?
 マーガレットは優雅な仕草でお茶を口に含み嚥下する。
 鮮麗された仕草だ。
 思わずサラも見惚れる。

「美味しいですサラさん」

「あ、はい、良かった、です」

「サラさんどうぞお菓子を召し上がって下さいな。我が国の有名店のお菓子ですわ」

「はいぃ、ありがた、く、頂戴しま、す」

 サラは勧められるままにマドレーヌに食いついた。
 美味しい。
 美味しいのは分かるのだが、何だか味が脳に伝わらない。
 相当”お漏らし”引きずっているのである。

 もそもそとサラは茶菓子とお茶を交互に口に含む。
 菓子を流し込んでいると言うのが正しいかも知れない。
 マーガレットには悪いが、サラは菓子を楽しめる余裕が無いのだ。

「お口に合いませんでしたか?」

「いいえ、美味しい、です…ただ、今日は、その………」

「今朝の出来事で落ち込んでらっしゃる?」

「はいぃぃっ!?」

 まるでマーガレットはサラが”お漏らし”をした事を知っている口ぶりだ。
 いや、知っているのだろう。
 正確にはサイヒが。
 流石は全能神様である。
 知らないことは無いのだろう。
 そしてサラのメンタルケアに姉であるマーガレットを寄こしてくれたに違いない。

 サラはサイヒにも”お漏らし”の事実が知られている事が分かってしまって、全身を真っ赤に染め上げた。

「緊張しないでサラさん。朝の出来事は女性なら誰でもあることなのですわ」

「はい?」

「下着が濡れていたのはサラさんが大人の女性になった印なんですの。サイヒから説明を頼まれたので私がこうして来させて貰いました。サイヒはこう言うのは私が向いているからと」

 成程、確かにサイヒには向いていない。
 と言うかそう言うのを説明するサイヒが想像がつかない。
 サイヒの判断は正しかったと言えよう。 
 サラはそう思った。

「大人、に、なった証拠、です、か?」

「ええ、ゆっくり説明するから肩の力を抜いて下さいな」

 そう言ってマーガレットはサラが見惚れる様な優しい笑顔を浮かべたのであった。
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