上 下
208 / 257

《179話》

しおりを挟む
「うむ、旨い酒だ」

「お口にあって良かったです」

「セブン氏の手作りか?」

「手前味噌ですが」

「自分の女が口にするものは全部手を加えたい派か」

「反論の余地もありません」

 セブン手作りの蜂蜜酒を飲みながらサイヒがナッツを頬張っている。
 それだけで芸術的に美しいのだから罪なものである。
 童貞を拗らせた上にサラに執着しているセブンは悩殺されたりしないが。
 普通の人間なら魂を捧げかねない。

 そしてこの全能神、ちゃんと地上に降りるときは変装している。
 身内の家でもソレはするらしい。
 特に人に会う予定も無いが、空色の髪に翡翠色の瞳のリリィ・オブ・ザ・ヴァリーである。

 ニヤニヤ笑う顔は大変楽しそうである。

「随分入れ込んでるではないか。愛玩動物ではなかったのか?」

「愛玩動物ですよ、今は。将来的には私の伴侶ですけどね」

「フフフ、酒が甘く感じるな」

「幾らでも甘い話しならして差し上げますよ」

 セブンは余裕をもって笑みを浮かべる。
 サイヒの存在に振り回された前回と違い余裕があるようだ。
 恋は全くもって人を変えてしまうものである。
 セブンは男として数段階高みに登ったらしい。
 まぁサイヒはその高みをまだまだ見下ろす位置に居るが。
 これは全人類に対して共通なので卑下する必要性は無い。
 他人の家に酒をただ吞みしにくるが、ちゃんと世界を治める全能神様様なのである。

「サラは手に入りそうか?」

「今のところ順調、ですかね?」

「疑問形か」

「サラにとっては私はまだご主人様みたいなものですよ。己から愛玩動物になってくる。私は自分の女になって欲しいんですけどね」

「その割には長期戦に持ち込むつもりのようではないか。手を出そうと思えばすぐにでも手が届く位置にサラは居ると思うが?体から自覚するのも恋の1つの在りようだぞ?サラはそれでセブン氏を避けたりはせんだろう」

「私は、サラに自分で気付いて欲しいんですよ。それに、徐々に私に惹かれていくサラを見ているのは楽しいものです。自分如きに染めるのもね」

「まだ真っ新だからな。色に染めがいがあろう」

「私の色に染め切ります。他人の色なんかに染めさせしないです…それが、貴方でも」

「ふふ、私は恋敵か。それはそれで愉快だが、食事と酒は提供してくれると嬉しいぞ」

「恋敵でも敬う神様ですよ。ちゃんと食事と酒は提供します。今までのように何時来ていただいても構いません。ただサラをその場に居させることはさせないですけどね」

「随分と敵意を向けられたものだ。それも久しくて楽しいがな」

 クスクスとサイヒが笑う。
 魅了されはしないが、この全能神の魅力がとんでもないことはセブンでも理解できる。
 男も女も虜にする全能神。
 こんな相手の傍に恋する少女を近づけさせる訳にはいかない。
 ただでさえサラはサイヒ相手に淡い初恋に近い感情を抱いているのだから。

「まぁ座れセブン氏、惚気を聞いてやろう。夜はまだまだ長いのだからな。旨い酒を楽しもうじゃないか」

 クイ、とグラスを傾けながら、上機嫌の全能神はそう言った。
しおりを挟む
感想 945

あなたにおすすめの小説

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

王子様は王妃の出産後すぐ離縁するつもりです~貴方が欲しいのは私の魔力を受け継ぐ世継ぎだけですよね?~

五月ふう
恋愛
ここはロマリア国の大神殿。ロマリア歴417年。雪が降りしきる冬の夜。 「最初から……子供を奪って……離縁するつもりだったのでしょう?」  ロマリア国王子エドワーズの妃、セラ・スチュワートは無表情で言った。セラは両手両足を拘束され、王子エドワーズの前に跪いている。 「……子供をどこに隠した?!」  質問には答えず、エドワーズはセラを怒鳴りつけた。背が高く黒い髪を持つ美しい王子エドワードの顔が、醜く歪んでいる。  「教えてあげない。」  その目には何の感情も浮かんでいない。セラは魔導士達が作る魔法陣の中央に座っていた。魔法陣は少しずつセラから魔力を奪っていく。 (もう……限界ね)  セラは生まれたときから誰よりも強い魔力を持っていた。その強い魔力は彼女から大切なものを奪い、不幸をもたらすものだった。魔力が人並み外れて強くなければ、セラはエドワーズの妃に望まれることも、大切な人と引き離されることもなかったはずだ。  「ちくしょう!もういいっ!セラの魔力を奪え!」    「良いのかしら?魔力がすべて失われたら、私は死んでしまうわよ?貴方の探し物は、きっと見つからないままになるでしょう。」    「魔力を失い、死にたくなかったら、子供の居場所を教えろ!」  「嫌よ。貴方には……絶対見つけられない場所に……隠しておいたから……。」  セラの体は白く光っている。魔力は彼女の生命力を維持するものだ。魔力がなくなれば、セラは空っぽの動かない人形になってしまう。  「もういいっ!母親がいなくなれば、赤子はすぐに見つかるっ。さあ、この死にぞこないから全ての魔力を奪え!」  広い神殿にエドワーズのわめき声が響いた。耳を澄ませば、ゴゴオオオという、吹雪の音が聞こえてくる。  (ねえ、もう一度だけ……貴方に会いたかったわ。)  セラは目を閉じて、大切な元婚約者の顔を思い浮かべる。彼はセラが残したものを見つけて、幸せになってくれるだろうか。  「セラの魔力をすべて奪うまで、あと少しです!」  魔法陣は目を開けていられないほどのまばゆい光を放っている。セラに残された魔力が根こそぎ奪われていく。もはや抵抗は無意味だった。  (ああ……ついに終わるのね……。)  ついにセラは力を失い、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。  「ねえ、***…………。ずっと貴方を……愛していたわ……。」  彼の傍にいる間、一度も伝えたことのなかった想いをセラは最後にそっと呟いた。  

あなたをかばって顔に傷を負ったら婚約破棄ですか、なおその後

アソビのココロ
恋愛
「その顔では抱けんのだ。わかるかシンシア」 侯爵令嬢シンシアは婚約者であるバーナビー王太子を暴漢から救ったが、その際顔に大ケガを負ってしまい、婚約破棄された。身軽になったシンシアは冒険者を志して辺境へ行く。そこに出会いがあった。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...