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《165話》

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「ほう、これはこれは」

「お屠蘇もどうぞ」

「うむ、頂こう」

 そう言ってサイヒは盃に並々に継がれた酒をクイ、と一気に飲みほした。
 その酒を飲む姿ですら妖艶で淫靡だ。
 酒を嗜むサイヒは何処か色香を漂わす。
 そのせいで天界では酒は飲ませて貰えない。
 その姿を見て道を踏み外すやからが多いからだ。

 なので飲めるのはもっぱら寝室であるが、ルークは酒を嗜まない。
 1人飲みも寂しいものである。
 どうせなら酒は楽しく飲みたい。
 何より寝室に入ればルークがサイヒを放してくれないので飲む余裕のどない。
 相変わらず魔王様は伴侶にメロメロなのである。
 まぁ拒否しないサイヒも同罪である。
 何とも発情期真っただ中な全能神様と魔王様である。
 互いに出会うまで恋をしたことが無かったから、余計にただ1人の番を求める。

 だが、だがサイヒは酒に目が無いのである。

 マロンはつまみ系は酒が飲みたくなるから作ってくれない。
 マロンなりにお兄様が酒を飲みたくならないように気をきかせてくれているのである。
 なので天界の食卓はご飯がすすむほっこりした食事が多い。
 
 そんな中、旨い酒と肴を提供してくれる唯一の全能神のよりどころがセブンの所なのである。

「ぷはぁ、旨いな。セブン氏が医師でなければシェフとして雇いたいところだ。地上が飽きたら何時でも天界に来てくれて良いのだぞ?」

「お誘いは嬉しいですが、私はまだ地上でやりたいことが山ほどあるので」

「ふふ、暫くは通いで留めておこう。しかし良い酒だ。肴が良いから余計に進むな」

「お褒め頂き光栄です」

「だが、相変わらすセブン氏は私とサラを合わす気はないようだな」

「!?」

 ニヤニヤとサイヒが笑う。
 他者を揶揄うその姿がまた色香が立つ。
 もう地上波コードスレスレの歩く猥褻物のような全能神である。
 セブンはサイヒの色香に中てられない体質なのでソレは問題ないのだが。
 だが、こうしてセブンの気付かない心の奥底にまでスルリと忍び込む。
 実に迷惑な愉快犯である。
 セブンが、気付いていなかった事実をこうして口にするのだから。

「アラはこの時間に起きていられない子供体質ですから………」

「眠気位、私が神術で解いてやれるぞ?」

「無理に起こすのもどうかと…コレでも医師なので昼夜逆転はさせられません。それにアラは酒を嗜みませんし」

「だがあの子は私に会いたがっていると思うが?セブン氏はサラの何だ?」

 セブンの背中に冷や汗が伝う。
 サイヒの迫力に中てられた訳では無い。
 これ以上踏み込まれたら自分の中の脆い部分まで暴かれそうな、そんな嫌な予感。

「従業員兼ペット、のようなものです」

 そうペットである。
 従業員としても優秀だが、ソレ以上にセブンの心を和ませる愛玩動物のような存在。
 仕事する姿も食べる姿も、いつもニコニコ笑っていて、ソレを見るのがセブンは好きだ。
 サラもセブンに懐いいる。
 飼い主と愛玩動物、それがしっくりくるとセブンは思ったが、ソレをどう目の前の難敵に伝えれば良いか悩んだ。
 結果、素直に伝えた訳だが。

「では番わせることは考えてあるのだな?サラは結婚適齢期であろう?この時期に恋をし、伴侶を得て、子に恵まれるのが良い時期だとは思うが?サラはもう子供では無いぞ?」

「アラの相手は、俺が認められる男が居れば認めます。ですがアラが好きな男が出来たと言うまでは何もする気はありません」

「ふむ、自分は候補に入らんか。それもまた運命だが、愛玩動物と言う少女を近くに置く男に寄ってくる女もおらんぞ?セブン氏は己の結婚は考えんのか?」

「私は結婚に興味がありませんので」

「可哀そうに、サラも結婚適齢期を逃しそうだな。セブン氏のような男が横に居れば寄ってくる男はそう居まい。それはどう考えているのだ?」

 サイヒが楽し気に酒を飲む。
 重箱もせっせと突いている。
 恋バナは最高の肴である。
 酒も食も進むと言うものだ。
 セブンも大変な相手に気に入られたことを後悔するしかないだろう。

「私は愛犬を番わせてやったぞ。嬉しそうな姿を見るのは飼い主冥利に尽きる。セブン氏はそうは思わんのか?」

「アラが誰かと番うのを見るのが幸せ……………?」

 想像できない。
 いや、したくない。

 だけど、サイヒの揺さぶりで想像してしまった。
 自分では無い男に微笑むサラ。
 そして恋仲になった男と手を繋ぎ、口づけをし、何時かその男の子を産むサラ。

 グラリ、とセブンの視界は一瞬暗転して世界が回った。
 
(そんな事…許せない…………)

「ふふふ、色々とセブン氏も考えていておくれ。後これは代金変わりの天界の薬草だ、置いて行くぞ。では馳走になったな。また呼んで頂こう」

 思考が止まって固まるセブンを後に、爆弾を残したまま全能神は姿を消した。
 天界に帰ったのであろう。

「サラを幸せにしてやってくれよ、アーシュ殿」

 最後に小さな呟きが聞こえた気がしたが、思考の止まったセブンがソレを認識することは無かった。
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