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《152話》

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「あの薬草が使えないだと?近場の森で採れる薬草より上等な薬が作れるんだぞ!あの薬草から薬を作ればクロイツから高い金を払って薬を輸入しなくても良くなる。平民や貧民でも効果の高い薬が安価で提供できるんだ、ソレを何故薬師ギルドで取り扱えないと?」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 そんな擬音が似合う凶悪な笑顔でセブンがギルドマスターに尋ねる。
 尋ねると言うより尋問に近い。
 ギルドマスターはもうガタガタと震え蒼白な顔色だ。
 ちょっぴり涙目である。
 失禁しそうだがちょびっとお漏らししただけで済んだ。
 パンツしか濡れてないからOKにしてあげよう。

「アンソクコウノキからは安息香酸、去痰・鎮咳に!インドジャボクからはレセルピン、精神疾患に!キナからはキニーネ、解熱剤に!ケシからはモルヒネ、鎮痛剤に!コカノキからはコカイン、後鎮静・催眠・麻酔作用に!コーヒーノキからはカフェイン、運動の疲労を軽減する集中力を高める!ジギタリスからはジギトキシン、利尿作用がある上に心不全の特効薬に!セイヨウシロヤナギ、セイヨウナツユキソウからはサリチル酸、鎮痛剤と解熱作用に!ダイフウシノキ属 からは大風子油、ハンセン病などの特効薬に!トコンからはエメチン、赤痢・下痢の薬として使え催吐・去痰剤に!ハシリドコロ、ヒヨス、ベラドンナ からはアトロピン、スコポラミン、ヒヨスチアミンの3種類の成分ともアルカロイド、殺菌、収斂、消炎作用等があるとされ、 打ち身ややけどの湿布薬として使えまた、下痢止めや貧血予防にも使える!マオウ からはエフェドリン、血行や発汗促進、解熱、鎮咳に!マチンからはホミカ、苦味健胃薬に!
どうしてこれだけ役に立つ薬を使えない!?」

 バン、とセブンがテーブルを叩く。
 その音にギルドマスターはビクリと体を竦ませた。
 また少しお漏らしをしたがまだズボンにまで届いていないのでセーフである。
 
 それにしてもセブンの医療への情熱は凄い。
 母が亡くなった事も起因して、法術では治せないものは全部医療で治してやると思っているのだ。
 その為にクロイツに留学した。
 様々な医学薬学を習った。
 研修医として様々の症例の治療や手術も行った。
 そして民間の人間を助けられるように、アシュバットではなくセブンとしてディノートに戻ってきたのだ。
 常に患者を治すことを率先する。
 それが出来るだけの能力がセブンにはある。
 今は出来た助手たちもいる。
 クロイツから薬を取り寄せなくていいなら、本当に救える民間人が救えるのだ。
 なのでこのチャンスを逃そうとするギルドマスターの言葉に納得いかなかった。

 それが分かっているからギルドマスターも竦んでいるのだ。
 正直言い訳しかできない。
 セブンの言っている事は正論であるから。

 だが無理なものは無理だ。
 無い袖は振れない。

「セブン君、我々には君のような医学知識は殆どないのだよ…何百年と伝えられてきた民間療法で薬局も医師も手一杯なのだ。君のようにあの薬草から薬を作り出す方法を我々は知らない。
作り出した薬の用法容量も分からない。下手をすれば過剰投与で患者を死に至らしめるかも知れない。
そんな危険な真似は我々には出来ないのだ。正直セブン君が言った言葉の半分も私には理解できなかった……薬師ギルドのギルドマスターとしては恥ずかしいばかりだがね。
我々と国王を救った英雄の君とは、根本的に違うのだよ…………」

 腹の底から付いた大きな溜息が己の不甲斐なさを語っていた。
 そんなギルドマスターを見て、セブンはかける言葉が無かった。
 この国の医療は、薬草を煎じて飲ます、塗布して当て布をする、それ以上の医療は無い。
 後は治癒師に法術で治して貰う、それ以上の事は出来ない。
 そして法術で病気は治らない。
 やはり法術師の治癒だけではダメなのだ。
 民間療法であっても薬師や医師が必要なのである。

 そしてセブンの診療所が常識外なのである。
 多少高いが、本当に体を治したいなら行き甲斐ある。
 民間人が手軽に受けられる医療を目的としているセブンの診療所が、他の医療機関より金額が高め設定なのは、ディノートの他の医療設備を破産させないためである。
 同じ値段なら少しでも腕の良い方に行きたいのは病人の心理だ。
 だがセブン程の腕をっ持つ医者が、他の医療機関と同じ金額で治療したらどうなるか?
 答えは簡単である、他の機関は患者を根こそぎ奪われて店が立ち行かなくなる。
 ソレを見こうしてうえでセブンは多少高い値段設定をしているんだ。
 まぁ腕が良いので繁盛はしているが、他店を潰すほどの影響が起こらない範囲でコントロールしている。

 折角の神の加護も、このままでは役に立たない事になりそうな事態にセブンは歯を噛みしめた。
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