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《142話》

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「ところでアーシュ、本当にサラちゃんと恋仲では無いのか?」

「違うと言ってるでは無いですか兄上!」

 この問答はセブンが国王の主治医になってから2人きりになるとほぼ毎回行われる。

「兄上は余程私とアラをくっ付けたいようですね?」

「愛する弟の最後のチャンスを汲み取ってやりたい兄心だ」

「本音は?」

「国王になると人のコイバナとかで盛り上がれないから楽しくない」

「だからと言って弟のコイバナが楽しいですか?」

「楽しい」

 即答である。
 このノリ誰かと似ている。
 こう、振り回される感じが、こう逆らう気力をなくすほど己の道を行く感じが誰かに…?

「サイヒ様か………」

 偉い人(神)と言うものは我が道を行くタイプでないと上手く人の上に立てないのかもしれない。
 そうセブンは思った。

「誰だそのサイヒ様、というのは?」

「たまに我が家に酒を飲みに来る色気を振りまく神様です」

「ほぅほぅソレは是非とも会ってみたいな」

 国王の顔が緩む。
 このエロオヤジが、とセブンは思ったが口には出さなかった。
 女好きな所さえ目を瞑れば本当に理想的な君主なのである。

「物凄い色香を巻き散らし、男でもイイと思わせるほどの美少年の姿をしています。レオンハルトも己のアイデンティティの消失を恐れて逃げ出したほどです」

「何それ怖い!」

 セブンの家にレオンハルトが寄り付かなくなった1番の理由である。
 サイヒはたまにふらりと現れてセブンと酒を酌み交わす。
 セブンとしても酒を酌み交わせる相手が少ないのと、相手が何もかも超越している最高神であるため逆に何もかも悟られてしまうため、自分を取り繕わなくて良いので一緒に居て楽な相手であるのだ。

 それにサイヒが手土産に持ってくる弁当がサイヒの訪問を待ち望む1番の理由でもある。

 全能神専属侍女の作るお弁当。
 食後の菓子まで用意されている。
 弁当は3段のお重であったり大きなバスケットであったり。
 兎に角毎回違うメニューが入れられている。
 専属侍女流のセブンへの挑戦状のようだ。

 もちろんセブンも酒を用意するだけでなく料理も用意する。
 弁当とセブンの御持て成し料理、どちらにより早く箸が進むかの勝負である。
 サイヒが好んで1番食べた品を作った方の勝利なのだ。

 今のところ2:8でセブンの負け越しだ。
 どうにかして5:5まで勝率を上げたいと考えているところである。

「そんな美少年が来てサラちゃんが取られる心配は無いのか!?」

「アラは元からサイヒ様のシンパです。それに同性なので特別な嗜好を持たなければ恋愛感情を抱くには値しませんから」

「美少年では無かったか?」

「美少年の姿をしている2児の母の女神です」

「そそるのぅ」

「ただし振りまくのは雄の色気です。国王様なんてすぐに尻を差し出す羽目になるでしょう。
男同士でのまぐわい方の本に手を出すことになるでしょう。
何時来られてもいいように常に尻の準備をするようなるでしょう。それ程に性癖が破壊されるほどの美少年の姿です」

「私が…抱かれる側なのか………?」

「サイヒ様の前では誰でも抱かれる側に回る事になります」

「何それ怖い!!」

「会いたいなら取り持ちますが?」

「遠慮する!この年で尻の開発にハマりたくない!!」

 国王、半泣きである。

「寧ろレオン殿ほどの男が逃げ出すその美少年神様にお前は何故平気なのだ!?」

「性欲が0だからじゃないですか?」

「…………この魔法使いが」
 
 国王の呟きはセブンには聞こえなかった。
 
 次来るのは明後日くらいか?
 何で今回は勝負を挑むか?
 などとブツブツ呟いている。
 頭の中で全能神専属侍女の料理を凌駕するレシピを模索中なのだろう。
 こうなると外部からの刺激には反応しなくなる。
 子供の頃からそうだ。
 アシュバットと言う人見知りの王子は知識欲が強く、何かを考え出すと思考に没頭し外部を意識からシャットダウンしてしまう癖があった。
 大人になった今も変わってないらしい。

「美少年女神に尻を差し出す気にならないのは良いが、もう少し性欲が目責めても良いと思うのだがなぁ」

 国王はプリンをスプーンで突きながら、セブンの様子を呆れた目で見つめるのであった。
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