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《138話》

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 え、マジ!?

 ソレが1番の感想だった。

 サラの錫杖が撃ち込まれる。
 1撃1撃が重い。
 それでいて速い。
 しかも確実に急所を狙ってくる。

 これ法術師の持っていい殺意じゃない気がする…。
 さすがサイヒ様仕込み。
 攻撃がえげつない。

 しかも錫杖自体もかなり重いのだ。
 それを苦も無くブンブン振り回す。
 体重移動と鍛えられた体幹で見事に長い獲物を振り回すのだ。
 正直1撃受け止めるだけでレオンハルトの腕に痺れが走る。
 セブンの忠告通り頑丈な木剣に変えていて良かった。
 中に鉄が入ってい木剣だ。
 一応木剣の部類に入れて良いだろう的な、殺意満々な木剣だ。
 それを年頃の女の子に向けるのは憚れたが、そんなこと言っていたら3回は命を取られていた。

 最初に用意した木剣など、サラの1撃で破壊されただろう。
 獲物が壊されたらソコでジ・エンドだ。
 1撃で女の子に敗北するなんてレオンハルトのプライドが許さない。

 何よりナナが見ている。
 弱い所は見せたくない。
 だが汗だくのレオンハルトと違ってサラは全く汗をかいてない。
 はじめは法術で体力を回復しているのかと思ったのだが、どうやら違う。
 していたらセブンが止めただろうしナナも気づいたろう。
 法力も魔力も無いレオンハルトには気付くことが出来ないから。
 2人から何の言葉も出てないという事はサラは己の体力だけで戦っているという事だ。

 正直人生で1番苦戦している試合かも知れない。
 まさかサラがこんなに体力バカだったとは…。
 これなら良く食べる体質も納得出来る。
 筋肉が多いから代謝が良いのだ。
 だから食べても太らない。
 筋肉量の総量は大の男より多いかも知れない。
 それが収縮されているのであろう。
 そんなサラの体質に気付いたサイヒ様の、戦いにおける指導は完全に的を得ていたと言える。
 筋肉量ゆえ(サラ自身は気付いていなかった)に体重が重い事をコンプレックスにしていたサラなのだが、ソレをサイヒから説明されて、更には素晴らしい肉体である。
 武術を収めるのに理想的だ、と言われ、天にも舞う気持ちで特訓したのだ。
 そして見事サラは棒術を極めた。
 それ以外もしっかり習得している。
 無手での攻撃方法もしっかり仕込まれているのだ。

 そしてレオンハルトはサラが無手で戦える可能性に気付かなかった。
 年頃の少女が獲物も無く鍛えた成人男性を倒せる方法を会得しているなんて考えもしなかったのだ。
 それがレオンハルトの敗因となった。

「え、い…」

 サラが錫杖を木剣に絡めて己の背後に投げ飛ばした。
 武器が無くなるレオンハルトは次の動作に迷いが生じた。
 そして拳をサラの腹に打ち込もうとして、その腕を取られた。
 
 ふわり

 レオンハルトの体が浮く。
 そして地面に思い切り叩きつけられる。
 あまりに洗練された投げにレオンハルトは受け身すら取れなかった。
 それどころか追撃がある。
 腕を取られ地面に寝転がるレオンハルトの身体に足を絡めて、腕をグン、と己の側に引き寄せる。
 体全体の力を使い、サラはレオンハルトに腕ひしぎ十字固めをかけたのだ。
 レオンハルトの辞書に載っていない攻撃であった。

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ…」

「これ以上力いてたら腕、折れる、です…」

「ぐっ…はぁ~俺の負けだサラちゃん………」

「楽しい手合わせでした」

「俺は肝が冷える手合わせだったよ」

「またしたいです」

「今度はセブンに付き合って貰ってくれ」

「セブンさん、強い、です、か?」

「剣術はかなりのものだぞ」

「簡単な法術だけ、でなく、大規模な魔術、も使えるの、に、セブンさん凄い、です…」

「俺も2回も女の子に負けたくないしね」

「クロイツは銃、を扱い、ます。ソレも交えた、本気の決闘なら、私、負けると思う、です」

「はははっ、そこまで見えているか。大したもんだよサラちゃん!」

「ありがとう、ござい、ます………」

 戦い終わった2人は互いを健闘し合って楽し気に話をしていた。
 問題はその体制。
 腕ひしぎ十字固めがまだ続いているという事だ。
 レオンハルトの身体にサラの生足が絡みついており、下腿と胸をレオンハルトの腕に密着させている。
 正直ギリギリ下着が見えない塩梅だ。
 本気の戦闘モードに入っていたからレオンハルトも今はサラを女の子だけど、ちゃんと女の子だと認識していなかった。
 互いに剣を交えた対決相手であると見ていたのだ。

「「2人とも何時まで密着してんだ/のよ――――――っ!!!!」」

 セブンとナナの怒声が響き、2人はべりっ、と引き剥がされた。

 セブンの胸にサラは抱きしめられ、ナナの胸にレオンハルトの顔は埋められていた。

「うん、やっぱりこの位ボリュームが無いとな」

「馬鹿ッ、何言ってんのよ!」

 怒っているようだがナナの頬が赤い。
 照れているのだろう。
 サキュバスの癖に可愛げがある。
 そんなところがレオンハルトのお気に入りだ。

「そしてセブン、そんな殺気込めて俺を睨むな。決闘の中でのことだろう?俺だってこんな技をかけられるなんて想像もしていなかったんだからよ」

「ボリューム発言があったことから、サラの胸をそれなりに堪能したと思っているが?」

 セブンの目が笑っていない。
 でも笑顔は笑顔。
 正直怖い。

「じゃぁお前は揉んじゃえば?俺は堪能する余裕なかったって!今にも折られる寸前だったんだからな」

「だ、誰が揉むかっ!!」

 本当言うとサイズ感と柔らかさは認識してしまったが、それを言うとセブンが本気で殺しにかかりに来かねない。
 魔術師として上位の実力のあるセブンの相手は、サラとは違ったベクトルで命の危険を感じる。
 レオンハルトはまだ死にたくないのだ。
 だから巧みに話題を逸らす。

「確か勝った方のリクエスト聞いて料理作るんだろ?サラちゃんリクエストしたら?」

「そ、そうでし、た…何作って貰い、ましょう………?」

 サラも戦闘に夢中になりすぎてすっかり頭から勝者の特権を忘れていたらしい。
 目をキラキラさせてセブンの腕の中で料理名を口に出している。
 そんなサラを見てセブンも満足そうである。

「上手く話反らしたわねレオ」

「宰相は言葉で戦闘しますからね~」

 まぁナナには気付かれたが。
 腕の中のご機嫌なサラを抱きしめて、それだけでセブンは満足しきっているのでレオンハルトの話題のすり替えに気付かなかった。
 平和な事である。

 そしてサラが悩みぬいた結果、本日の昼食は懐石料理に決まったのだった。
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