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《114話》

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 所術室には寝台が2台。
 骨髄移植を行うためにドナーも麻酔をかけるからだ。
 言い方が違った。 
 ドナーにも麻酔をかけるから、だ。

「セブン医師、骨髄移植など私は見たことがありません。私が助手で構わないのですか?」

「専属医師殿もおられる方が国王様の神的負担もすくないでしょう。是非いて下さい」

「具体的には”骨髄移植”とは何をなさるのでしょうか?」

「骨髄ってどこにあるかご存知でしょうか?
実は腰などの硬い骨の中にあります。

「では、骨髄移植の時って骨を削るのか?」

いいえ、骨を削ったりはしません。
移植という言葉から、手術室に入ってメス等を使ってというイメージをお持ちになるかもしれません。
確かに、骨髄を提供するドナーさんは、全身麻酔をして手術室に入り腰骨の中にあるゼリー状の骨髄を注射器で吸い取りますが、患者側からすると実は、点滴のように骨髄を入れていきます。
この瞬間、患者は、「やった!助かった!」という本当に幸せな気持ちになります。
骨髄は、白血球や赤血球などの血液を作り出す工場で、大雑把にいえばこの工場ががん化すると白血病。
工場で血液そのものが製造されない病気が、再生不良性貧血となります。
骨髄移植は、健康な方から骨髄を提供してもらい、患者さんの骨髄を入れ替えて白血病等を治すというものです。
この骨髄移植のキーワードとなるのがHLA。
これは白血球の型で、血液占いなどでおなじみの、O型や、A型とは異なります。これら赤血球の方は大きく4つの型ありますが、HLAは他人同士で数百から数万通り。きょうだいでも4分の1の確率しか一致しないため、ドナーの方を広く集め、患者さんとの橋渡しをする団体がクロイツには居ます」

「ではその団体が適合者を見つけてきてくださったのですね!」

「えぇそうです。入ってきてくれアシュバット王子!」

 セブンの声で呼ばれて入って来たのは車いすに乗せられている青年。

 金糸の長い髪に湖色の瞳。
 長身痩躯。
 だが顔が整っており、切れ長の目を引く。

「あ、アーシュ、さん?」

「姿をくらましていたアシュバット王子、団体が探してきてくれました」

「兄上、長い時姿を見せなくて済みません」

「???」

 国王はセブンとアシュバット王子を交互に見る。
 確かに国王はセブンにアシュバット王子の面影を見た。
 そして名を変え姿を変え王宮から姿をくらましていたのは市民を救うためなのだろうと結論付けた。

 アシュバット王子は人の命を救う事を生きがいにしていたから。
 
 だが今目の前に居るのも間違いなくアシュバット王子であった。

「な、ぜ……?」

 国王には分かる。
 セブンは間違いなくアシュバット王子である。
 可愛がっていたのだ。
 どんなに姿を変えても分かる。

 だったらもう1人のアシュバット王子は誰なのか?

 国王にはセブンと全く同じ魂を感じる。

「神の御業です」

「お、お、神まで私の命を取りこぼさずに掬って下さるのか!」

 はらはらと国王の瞳から涙が流れた。

 セブンの言葉で充分に事態が伝わったのだ。

 神が、セブンとアシュバット王子を同時に存在させているのだと。

「骨髄液は、骨盤を形成する大きな骨=腸骨(腰の骨)から注射器で採取されます。
手術室でうつ伏せになった状態で、骨盤の背中側、ベルトの位置より少し下の腸骨に、皮膚のうえから専用の針を数ヵ所(腸骨には左右数十ヵ所)刺して吸引します。
採取する量は通常400~1200mLで、患者の体重に応じて採取量が決まります。骨髄採取の多くは全身麻酔下で行われ、所要時間は1~3時間です。
提供には、通常3泊4日程度の入院をします
移植後に血液幹細胞がうまく働けるようになったかは、血液検査で血液細胞が作れるようになったかどうかで判断します。うまく働けるようになった状態を「生着」といい、白血球の一成分である好中球という細胞の数で判定します。
短い時間ではありませんが、頑張って下さい国王様」

 セブンが自信に満ちた柔らかな笑みを見せた。

(あぁ、この子はこんな風に笑う子だった…幾数年たっても変わっていないのだな………)

 さぁ手術を始める準備は整った。
 サラの精神面のメンタルケア以外。
 現在サラは頭を抱え蹲っている。

「アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?アーシュさんが王子?!」

「叫ぶな!とっとと無菌状態にしろ!」

「は、はい、です」

【神よ清浄なる空間を】

 サラが神に祈る。
 部屋がソレだけで正常な気に満ちたのが全員に分かった。

「アラ、今は手術だけに集中しろ」

「了解、しました」

 疑問は尽きぬ者のサラとて元聖女。
 命を救う以上の使命などない。

(神様、どうかこの手術がうまく行きますように………)

 セブンの隣に立ち、サラは心の中で天に祈ったのだった。
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