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《101話》

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 3日ぶりの仕事である。
 サラはダブっとした法衣を纏っている。
 勿論顔はノーメイク。

 3日前の綺麗に着飾った儚げな美少女はそこには存在しなかった。

「サラちゃんこの傷なおしてくれんか?」

 下町の魚屋のおやじだった。
 指先を傷つけたらしい。
 玄人でも失敗はある。
 魚をさばいていた時に指先を一緒に切ったのだそうだ。

 その傷をサラはじっ、と見る。

 正直コレ位の傷なら法術ですぐ治せる。
 だがサラは少し考えた後、おやじに説明する。

「ん~これくらい、の傷に、法術、使っちゃダメ、です。体に本来あ、る回復機能が、衰える、上に痛みに弱く、なるです」

 そう言って消毒を脱脂綿でポンポンとし、軟膏を塗ると傷当てのテープを幹部に巻く。
 このバン〇ーコーと言うやつはセブンがクロイツから取り寄せているものだ。
 水仕事をしても剝がれない優れものである。

「軟膏、少しです、が、痛み止めの効果、ある、です。お仕事頑張って、下さい、ね?」

 ペコリとサラがお辞儀をする。
 手当てをした方が何故か仕立てに出ている妙な光景であるが、この診療所では見慣れた光景だった。
 そしてこの診療所に来る患者はそんな光景を見るのが好きだった。

 少し内気な治癒師の少女。
 幼く見えるが成人しているのだと言う。
 だが法術の腕は抜群。
 そして人当たりも良い。

 何より人間嫌いのこの診療所の主が、この少女が来てから少し丸くなった。

 こんな無垢な目で信頼を寄せられればそうもなるだろう。
 サラはセブンに全面的な信頼を置いている。
 自分が生きる方針をセブンが導いてくれたのだ。
 セブンにはそんな気はないだろうが。

 美味しいご飯を食べる事を教えてくれたのはセブンだった。
 法術と医療の関係性と効果を教えてくれたのもセブンだった。
 食べるもので人間の体が作られることを教えてくれたのもセブンだった。
 皆で取る食事が楽しいことを教えてくれたのもセブンだった。

 聖女の冠を剥奪されて1年。

 サラは人生の中で1番充実した生活を過ごした。
 そして隣には何時もセブンが居た。

 診療所内にセブンの声が聞こえる。

 1人1人の患者にそれ程長い時間はさけない。
 それでも真剣に、短時間にセブンは適切な処置をする。
 サラが神殿で行っていた、貴族相手の加護を与える法術などセブンの3分の診療の足元にも及ばない。
 人を助けようとするセブンのその姿勢が、サラには眩しいものに見えていたのだ。
 いや、今でも眩しく見えている。
 そんなセブンが自分を頼りにしてくれるのが嬉しい。

 午前診が終わるまでサラは広くない診療所を駆け巡るのだった。

 そして昼食の時間。
 サラの最も好きな時間だ。
 それは美味しいセブンの弁当が堪能できる時間。
 だが今日は何時もと少し違った。
 ナナがレオンハルトと外食すると外に行ったのだ。

 ……………。
 ……………………。

「2人、だな…」

「2人きり、です、ね…………」

 サラは己の顔が赤くなるのが分かった。
 仕事をしている間は意識せずにすんだが、こうして改めて膝を突き合わすと羞恥心が襲ってくる。
 3日前、サラはセブンに己の半裸をさらしてしまったのだ。
 恥ずかしくない訳がない。

「あの、変なもの、見せて、すみませ、ん、でした……」

「いや、別に変では無かったが…むしろ綺麗だったと思ったが………」

「はぇ?」

「いや、何でもない!それより随分仕事ができるようになったな。すぐに法術を使わなくなった。ちゃんと怪我の具合を判断できるようになってきたじゃないか」

 無理やりの話の方向転換である。
 だがその言葉はサラに喜びをもたらす。
 信頼している、尊敬している上司からのお褒めの言葉だ。
 嬉しくない筈が無い。

「セブンさん、を、何時も、見てます、から」

「おぉ、そうか……」

 おかしい。
 話を方向転換させたつもりが何か変なムードになっている気がする。
 セブンは頭を悩ませた。
 目の前の珍獣をどう扱おうかと。

 だがその珍獣はソレは嬉しそうに微笑んでいたのだ。
 無邪気な笑み。
 その笑みに構える必要などないのだとセブンは思った。

「綺麗な服を来て化粧をしているより、今のお前の方がいいな…」

「えっ?」

 サラはセブンの顔を見つめた。
 そして自分の頬が熱を持っていくのが分かった。
 セブンがそれは優しい目でサラを見つめていたから。
 薄い形の良い口元は柔らかく弧を描いている。
 そんなセブンの表情を見たのは初めてだった。

 そしてサラは、このセブンの笑みは自分だけに向けて欲しいと無意識に思ったのだった。
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