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《94話》

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「バレエ、綺麗、でし、た」

 ほぅ、とサラが悩まし気な溜息をつく。
 その甘い吐息にテーブルを挟んでセブンは何か腹がズン、と熱くなるのが分かった。

(食前酒がもう回って来たのか?俺はザルのはずなんだが?)

 全くもってDT拗らせすぎである。
 その腹の熱は酔いでも食中毒でもなく性欲だ。
 少し離れた席に座っているレオンハルトは、セブンの不甲斐なさに頭をはたきに行きたくなった。
 いや、行かないけど。
 本日の淫魔たちはセブンとサラの観察がメインなのである。

 時はバレエを見終わって高級レストラン。
 結局舞台の後、サラと食事は自宅で取ろうと思っていたセブンだったが、何か言い出しにくかった。
 何となくサラと今2人きりになるのは不味い気がしたのだ。
 因みに何がどう不味いのかはセブン自身にも分からない。

 そうして結局レオンハルトが用意した高級レストランに入ることになった。

 さすがに舞台だけ見て分かれるのも違う気がするし、食事の時間としては最高のタイミングで舞台は終わったのである。
 食に対して執着の激しいサラを野放しにしておけないと思った。
 何か食べさせて帰らすべきだと。
 1人でどこぞの店に入るなど言語道断。
 今のサラはセブンでも認める儚げな美少女だ。
 早い安い美味いがもっとうの店に今のサラが1人で入るのは悪い気がする。
 間違いなく悪い虫がたかる。
 それならレオンハルトの思惑に乗る方がマシだと、セブンは予約されていたレストランにサラを同行させた訳である。

 ほんのり薄暗い照明にテーブルの上のキャンドル。
 雰囲気は最高である。
 店の至る所に飾られた花は品も良く、女性が空きそうだ。
 これは間違いなく恋人、もしくは夫婦が来る店だ。
 間違っても家族で入れるちょっと良いレストランとは格が違う。

「綺麗な、お店、です、ね…ちょっと、ドキドキ、です」

 ふにゃ、とサラが笑う。
 そのなんとも気の抜けた笑顔にセブンは何だか胸が温かくなった。

 今回は間違いなく胸の温もりである。
 下半身の熱さではない。
 そんなサラの笑顔にセブンは何時もの調子を取り戻す。

「支払いはレオンハルトが既にしてるそうだ。たんまり堪能しろ」

「私、フルコース初めて、ですっ!」

 目をキラキラと輝かせているサラを見て、セブンはやっぱりレストランのキャンセルをしなくて良かったと思ったのだった。
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