婚約者の王子に聖女など国に必要ないと言われました~では私を信じてくれる方だけ加護を与えますね~

高井繭来

文字の大きさ
上 下
38 / 257

《27話》

しおりを挟む
 ドンドンと安物のドアを叩く音がする。
 半分眠ったままのサラは夢うつつでソレを聞いていた。

(安物のドア、そんなに叩いたら、壊れる、です。私、修理のお金、ない、です…)

「埒が明かない!力づくで開ける!」

 ドアの向こうで魔力が行使されたのが分かった。
 
 カチャリ、と安い音を立ててドアの鍵が開けられる。

「アラ!無事か!?」

「セブン…さん……?」

 苛立ったようなセブンの声がサラの耳に届いた。
 入って来たのはセブンの様だ。
 後ろから「お邪魔しま~す♡」とナナの声も続いてくる。
 どうやらナナも来たらしい。

(セブンさんの声、荒いです…勝手に休んだこと、怒ってる、ですか……?)

「血の匂い!?おいアラ、どこを怪我した!?」

(あれ、怒っている、じゃなくて…心配してくれてる、ですか……?私、心配されたの…初めて、です……)

 お腹が痛くてたまらない。
 なのに胸がポカポカとした。

「セブン、さん…」

 ゴソゴソとサラが布団から顔を出す。

「アラ、無断で休むかと思えば、何処を怪我したんだ!?血の匂いが酷いぞ!!」

 セブンの言葉にサラは顔を赤くする。
 女性特有の月の物。
 しかも初潮。
 それをセブンに伝えるにはサラは初心過ぎた。

「はいはいドクター退いてちょうだい」

 ナナがセブンの首根っこを掴み、ポイッ、と後ろに投げる。
 細い腕なのにやたらと力が強い。
 色気を出す以外に害が無いから忘れていたがナナはれっきとした魔族である。
 身体能力は人間の比ではない。

「んふ、サラちゃん美味しいそうな匂い♡少女から女性になりつつあるのね♡」

 ナナがサラの汗で額に張り付いた髪を優しく細い指ではらう。

「ナナ、さ、ん…」

「ん~痛いわね。すぐお薬の用意するから、まずは綺麗にしましょうか」

 ナナがニッコリと微笑む。
 その優しい微笑みにサラの心がほぐれる。

「うぅ~、ナナさん…痛い、です…グズッ…」

「いい子いい子。ドクター痛み止めを頂戴。それからナプキン買って来て頂戴」

「痛み止めはあるが…ナプキン?男の俺にソレを買ってこいと!?…ん、と言う事はアラは…」

「皆迄、言わないで、下さい…」

「お、おぉぅ…悪かった……」
 
 気まずい雰囲気が流れる。
 サラはゴソゴソとまた布団の住民、ミノムシサラに戻ってしまった。

「私が買って来ても良いけど、ドクターに今のサラちゃんの相手が出来るとでも?」

「カッテキマス」

 すごすごとセブンは買い出しに出かけた。

「はいサラちゃん、薬飲みましょうね。ドクターが帰って来たら、ちゃんと綺麗にもしましょう」

「は、い」

 布団から顔と手を出してナナから薬を受け取る。
 セブンはクロイツから薬剤を取り寄せている為、漢方薬以外の薬も多く保持している。
 漢方薬で無い薬剤を保持している医院は少ない。
 セブンの診療場が繁盛している理由の1つでもある。

 ナナから渡された痛み止めを湯冷ましで飲む。
 水分が唇を湿らせ口内を潤し喉を通っていくのが気持ち良い。

 そう言えば寝る前に白湯を飲んでからずっと水分も取っていなかったのを思い出した。
 どおりで水分が美味しいはずである。
 ただの白湯が酷く高級な飲み物に感じるほどに美味しかった。

「体清めたいけど、コレは清拭場にも行けないわね。部屋で清拭しましょうか。サラちゃん勝手にお湯沸かすわよ。水場を使って良いのかしら?」

「ナナさんに任せる、です」

 このアパートには水道が引いてある。
 流石に沸かさずに飲料水にするのには抵抗があるが、外に汲みに行かなくて良いのは大変助かる。
 貧民街ではいまだに井戸に水を汲みに行くのだ。
 どれだけ水道が有難いか、こういう時に身に染みる。

 後はセブンがナプキンを買って来るのを待つのみである。

「薬効くまでサラちゃんはゆっくりしてなさいな♡」

 ナナの言葉にサラはコクリ、と頷くとすぅすぅと寝息を立てて眠り始めた。
 薬を飲んだというのと、人が近くに居るというので安心して睡魔に身を任せる事が出来たのだろう。

 ナナがサラの髪を指で梳く。

(あ~本当素直で可愛い♡それに良い匂い♡サキュバスじゃなくてインキュバスになってこのまま男を知らないこの身を美味しく頂きちゃいたいくらいだわ♡)

 ナプキンを買いに行くセブンも苦行だが、美味しそうな獲物を前にして本能を抑えるナナにとっても中々の苦行なのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 セブンが買いに行ったのは布ナプキンです。
 万屋で売ってます。
 その辺り次回チラッと書きます。
しおりを挟む
感想 945

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

結婚するので姉様は出ていってもらえますか?

基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。 気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。 そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。 家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。 そして妹の婚約まで決まった。 特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。 ※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。 ※えろが追加される場合はr−18に変更します。

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...