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その後

青天の霹靂が身に降った思いだと後に彼女は答えた2

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 幼い子供を3人買った。
 文字通り買ったのだ。
 1番年長の少年を白金貨50枚で。
 幼児と赤子を2人合わせて白金貨300枚で。
 奴隷調達のオークションなんてどうかと思ったが、ミヤハルは上機嫌だった。

 将来有望な子供を手に入れたからではない。
 買った子供の1人が、数億年生きても手に入らなかったものをミヤハルに齎したからだ。

 まだ3歳くらいの子供が、会場を揺るがす殺気と魔力を放ったのだ。

 能力が圧倒的に普通の者より高い。
 だが能力が決め手では無かった。
 自分が殺気をぶつけても崩れなかった。
 それはオウマも同じであったが、腕に必死に赤子を抱いて睨み付けてくるその目は死さえ覚悟していた。
 ただ只管に赤子を護りたい。
 その冷たく見える瞳の奥底の炎に触れて、心に火傷を負った。

 きっとその火傷は治ることがない。

 今まで知らなかった胸の動悸。
 高まる体温。
 甘く痺れる脳髄。

 随分と長い年月を重ねても手に入らなかったものが、幼児によって齎された。

 幼児はまだ本当に幼かったけど、ミヤハルにとっては数万年生きてもまだ子供だ。
 年齢など関係なかった。
 ただただその幼児から視線が外せなかった。

 そして初めて生まれた独占欲。

 あの子が欲しい。

 唯一無二の存在として傍に置きたい。
 自分の気持ちは叶わなくても、成長する姿を見続けたい。
 そう思うと無意識に白金貨の枚数を叫んでいた。

 支払いが終わり、子供3人はミヤハルの奴隷となった。
 まぁミヤハルは奴隷としては見ていないのだが。
 子供たちは奴隷として買われたと思っているだろう。
 その考えは時間が解決する。
 そこまで思いつめてはいなかった。

 家に帰る獣車に乗り、自分の横に幼児を座らせる。
 赤子は年長者の少年に抱かせた。

 広くない獣車の中でミヤハルの腕に幼児の腕が当たる。
 子供なのに高くない体温。
 それもこの幼児らしいと思った。
 そして心地よいと思った。

 自分の体が熱いので、幼児の冷えた体温が心地良い。
 だが体温が上がりすぎている気がする。
 皆こうなのだろうか?

 恋に落ちると触れるだけでこんなに胸の鼓動が早くなるのだろうか?
 何時までも見つめたくなるのだろうか?
 何時までも触れ合いたくなるのだろうか?
 切なくて泣きそうになるのだろうか?

 数億年で培ってきた経験でポーカーフェイスを通す。

(あぁ、ウチは何時までこの子と一緒におれるやろか?)

 成熟した心のはずだったのに、一気に精神年齢が肉体に引っ張られている気がした。
 初恋。
 こんなに甘くて切なくて苦しいものだと知らなかった。

 だからミヤハルはこの子供たちを大切に育てようと思った。

 種族も生きる時間も違うから、せめてこの子たちが大人になり番を迎えるまで誰よりも近いところで見守りたいと思った。

(こんな3歳児相手に恋に落ちるなんて、まさに青天の霹靂やなぁ……)

 自分の恋が実ることはないのを知りながら、ミヤハルは恋した幼子に望まれたものは自分の持てる全てを捧げようと心に決めたのだった。

(まずは、笑顔が見たいなぁ………)

 その願いが叶うのはそう遠くないことを今のミヤハルは知らなかった。
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