上 下
128 / 279
その後

チビリコリスと一緒10

しおりを挟む
「リコリスちゃん、今日はユラ姉ちゃんと一緒にねんねしてなぁ」

 猫耳尻尾を生やしたミヤハルが言った。

「ミヤハルおねーさんとはいっしょにねれない、ですか?」

「おん、ごめんなぁリコリスちゃん。大人の事情ってやつなんやわ」

 幼いリコリスに何を言っているのだろうこの古代種は。
 だがミヤハルがそう言うのも無理が無い。
 背中に感じる視線が痛い。
 痛いくらい熱の籠った視線を感じる。
 自業自得である。

 弟である魔王が猫耳尻尾リコリスを所望したのだ。
 その兄のエントビースドが猫耳尻尾のミヤハルに興奮しない訳が無かった。

 だが何処から誰が見ても無表情である。
 相変わらず表情筋が死んでいる。
 それでも付き合いが長い者なら分かる。
 間違いなくエントビースドはミヤハルに欲情している。

 勘弁して欲しいとミヤハルは思った。

 たしかにそう言う悪戯を仕掛けた自覚はある。
 だが食事中からずっとこの目で見つめ続けられているのだ。
 今夜は寝れないだろう。
 ミヤハルは己の迂闊さを呪った。
 しかしまさかこれ程反応するとは…。

(まぁマンネリ防止に良いかなぁ、にしてもエントがこんなに反応するの数百年ぶりやない?ヤバない?ウチ明日ちゃんと起きれるやろか?)

 何とも幸せな悩みである。
 今夜魔王は1人で枕を血涙で濡らして寝ると言うのに。
 
「ハル、今日は一緒に入浴もしよう」

「あ、寝られへんコース確定やなこれ…」

 自業自得ながらも、ミヤハルはその夜はエントと仲良く、それはもう仲良く夜を過ごしたらしい。

 :::

「ミヤハルおねーさんはエントさんとねるんですね。ユラおねーさんはいっしょにねる人はいないんですか?」

「グッ…」

 ユラが床に膝をついた。
 子供の無邪気な質問の破壊力が凄まじい。

「私はね、寝る相手が居ないんじゃなくて1人で寝たいだけなの。寝る相手が居ないんじゃないの。1人寝が好きなだけなのよ!!」

 何故か血涙を流してユラがリコリスに説明をしていた。
 邸の使用人たちはそ、と目をそらした。
 誰しも見ないふりをしなければいけない時もあるのだ。
 そして今がその時だった。

「じゃぁ、だれにもじゃまされなくユラおねーさんとねれますね。わたし、うれしいです!」

「リコリスちゃん…」

 愛らしい幼児に言われてユラは感動の涙が溢れそうだった。
 溢れそうだったのだが。

「えへへ、おかあさんとねるのって、こんなかんじなのでしょうか?」

「ガフッ」

 ユラに見えないボディブローが入った。

 おかあさん…。
 お母さん………。

 母親(ははおや)とは、女親のことである[1]。

 お母さんと一般には言い、親しみをこめて「かあさん」・「かあちゃん」・「お袋」(おふくろ)などと呼ばれる場合もある。「母」という漢字の成り立ちは「女」に2つの乳房を加えた象形文字であり、子への哺乳者、授乳者であることを意味する。 お母さんという呼称を使う場面は、

 ①子が母親に呼びかけるとき
 ②母親が子に対して自分のことを指して言うとき
 ③夫が妻を言うときに子の母親として言うとき
 ④会話で他人の母親に言及する場合。「~のお母さん」
 にも用いられる。2, 3の場合は、話者が子の立場に自らを擬して言うという特徴がある。4の場合はおば(いとこのお母さん)やいとこおば(はとこのお母さん)など傍系尊属にあたる女性を指す場合もある。

 母親どころか、ユラは子作りの経験がない。
 むしろキスの経験すらない。
 コミュ障を拗らせた腐海の住民なのだ。
 いかに原稿用紙に過激な男同士の絡みを描いていようとも、ユラは真っ新な綺麗な体なのである。

「ユラお姉ちゃんと一緒に寝よ~ね~」

「はい、ユラおねーさん!」

 今夜血涙で枕を濡らすのは魔王だけでは無いかも知れない………。
しおりを挟む
感想 748

あなたにおすすめの小説

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...