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第2章

【染まるなら貴方の色に・前編】

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 今日は遂に結婚式です。
 花嫁控室でウェディングドレスに身を包み、化粧を施された私は迎えが来るまでスタンバイです。

 あの闘いから丸1日私は寝込みました。
 そして次の日は結婚式のプランを頭に叩き込まれ、最後のドレス合わせです。
 そこでとんでもない事が起こりました。

 ミレーユさんが作ってくれたウェディングドレスが…。
 オーダーメイドの私のドレスが……。

 グラデーションのかかった赤に染まっていたのです!

 ありえなく無いですか!?
 ウェディングドレスですよ!!
 純白の色は”貴方色に染めて”な意味でしょう!?
 何でこんなに自分を主張しちゃってるんですか!!

「ミレーユさん…ドレスのこの色……?」

「はいリコリス様、1日で染め上げるのは大変でしたわ。でも間に合って良かったです」

 違う、そうじゃない!
 何”良い仕事した”て充実した顔してるんですか!?
 エーデルも他の皆も何故感激してるんですか!?
 私ここ文句言っても良い所ですよね?

「純白のドレスは…」

「式では諦めて下さい」

 ピシャリ、と言い放たれました。

 何故、結婚式でドレスが純白じゃないんですか!!
 私は魔王の色に染めて欲しいアピールを盛大にしたかったのですよ!!

「リコリス様が純白のドレスに憧れを抱いていた気持ちは分かります」

 だったら何故に!?

「でも民衆が見たいのは陛下の横に並ぶ《暁の戦女神》なんです」

 何ですかその物騒な人は?
 戦女神とはそれはそれは血の気が多そうな人です。
 で、何で私のドレスが赤くなると?

「今や民どころか上流階級の者迄リコリス様の事をこう言っているのですよ。《血濡れの戦姫》は《暁の戦女神》であったと」

 いつの間に私は女神にグレードアップしたのでしょうか…。
 と言うか魔国での私の認識は《血濡れの戦姫》だったのですね……。
 まだ《暁の戦女神》の方が響きが良いですね。
 グレードアップしすぎな感はありますが物騒さは下がっていますし。

「では純白のドレスは…?」

「諦めて下さい」
 
 ズバッと切って捨てられました。
 泣いて良いですか?
 いや、我慢しましたけど。
 泣かなかった私は偉いですよね?

「その代わり――――――」

 ミレーユさんの提案に、私は暁色のドレスを身にま纏う覚悟が決まりました。

 :::

 コンコンコン

「どうぞ」

 ノックに返事を返します。

「リコリス様、それでは講堂の方へ」

「分かりました」

 神殿の巫女が迎えに来てくれました。
 私は赤のドレスの裾を軽く上げ、ピンヒールで綺麗に歩いて講堂へと向かいました。

 ギィ、と思い音を立てて重厚な扉が開かれます。
 広い講堂を埋め尽くす人人人。
 いえ、魔族と獣人の皆さまなので人では無いかも知れませんが。

 皆の視線が私に注がれます。

 私、人前に出てみっともない格好では無いですよね?
 広間が静まり返っているので不安になるじゃないですか。

 教えられた通りにバージンロードの先に立っている魔王の下へ歩みます。
 ゆっくり。
 優雅に。
 伴侶となる人の隣へと。

 私が赤なら魔王は黒です。
 魔国は自己主張が強いのでしょうか?
 でも正装に身を包んだ魔王はいつも以上に素敵です。
 こんな素敵な方の伴侶になれるのですね、私。

 《武神》をしていた頃は誰かと婚姻する事になるなんて思いもしませんでした。

 戦って戦って、そして朽ちるのだと思っていました。
 《武神》の役割は私が朽ちた後、血族の誰かがするのだと思っていました。
 誰かの隣に立てるなんて。
 婚姻を交わすなんて。
 愛されるなんて想像もしていませんでした。

「リコリス、手を」

 魔王の差し出された手を取ります。
 テノールの甘い声が私の鼓膜に響きます。
 何て甘美な響きなのでしょうか。
 名を呼ばれるだけで人はこんなに幸せになれるモノなのですね。

 魔王に手を引かれ隣に立ちます。

 祭壇から司祭様が難しい事を仰られます。
 
 要は永遠に愛し合え、て事ですね。
 それなら自信ありますよ。
 1人ぼっちだった私を見つけてくれた魔王に愛想をつかす日が来る訳無いじゃないですか。
 逆は想像しない事にします。
 魔王に捨てられたら体中の水分涙に変わって枯れて死にますよ私。

 神官の1人がリングピローを持ってきました。

 薔薇とヒマワリが刻印された美しいデザインのリング。
 石は封水晶です。
 薔薇の色は赤。
 ヒマワリの色は黄色です。
 前代未聞の結婚指輪です。
 宝石ではなく封水晶をメインの石としているのですから。

 おおよそ他の国では見れないでしょう。
 国を治めるモノの付ける格の石ではありません。
 でも、私はコレが良いのです。
 何時でも魔王を感じていたい。

 傍に貴方が居ない時でも、この石があれば心穏やかに居られるのです。
 貴方の力は遠く離れている時でも、私の事を護ってくれるのです。
 そして私の力を込めた石も、魔王にとってそうであって欲しい。

「指輪の交換を」

 私の左手の薬指にヒマワリの指輪が。
 魔王の左手の薬指に薔薇の指輪が嵌められます。

 ワァッ、と会場中に歓声と拍手の音が響きました。

 さっきまで静寂と言えるほどの静かさだったので驚きましたよ!
 心臓に悪いじゃないですか!!

「やはりお2人にはそのデザインと色の石が1番お似合いですね」

「えっ?」

 意味深なセリフを言う司祭様をよく見ました。
 あ、格好が違いますがイヤーカフを買ったあの露店のオジサンじゃないですか!
 司祭様は指を立てて「しー」としてながら、ウインクをしました。
 意外とお茶目だったんですね司祭様。

 魔王は気付いていないようです。
 それも良い様な気がします。
 これは私のたった1つの秘密として、死ぬ間際まで心に秘めておきましょう。
 その方がロマンがありませんか?

「では誓いの口付けを!」

 あ、司祭様が”露店のオジサン”から聖職者の顔に戻りました。
 うぅ、でもこんな大勢の人の前でキスとか…正直恥ずかしいです。

「他の者に気を取られるな、我だけ見てれば良い」

 あれ?魔王ちょっと嫉妬してます?
 それに気づいて気分が楽になりました。
 私の気が自分から逸れただけで嫉妬するとか、魔王ちょっと可愛いですよ?

 魔王の綺麗な顔が近づきます。
 目を瞑るのが勿体無いですが、目を開いたままじゃ雰囲気出ませんよね。
 私が目を瞑ると。

 フワリ、と温かくも柔らかな魔王の唇が重なりました。
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