上 下
60 / 279
第2章

37話

しおりを挟む
 あ~体が痛いです。 
 手に感覚もだんだん無くなってきました。
 指先から冷えていくのが分かります。

 腕がちぎれても足がちぎれても再生は出来ましたけどね。
 骨が折れてもすぐにくっつきます。
 皮膚が敗れても瞬間に元に戻ります。

 視力を失っても。
 耳をそぎ落とされても。
 喉を掻き切られても。

 私の体は【強化】の魔術で回復します。
 【強化】は治癒能力も上げますから。
 でも失われた血は元に戻りません。
 血が流れ過ぎましたね。
 《武神》時代の増血剤の丸薬が懐かしくなるほど血が無くなりました。

 悔しいです。

 私も戦闘にはそれなりに自信があったんですけどね。
 相手の方が格段に実力が上でした。
 さすがに魔王候補であっただけあります。

 魔力も、体術でも相手の方が上でした。

 でもシーナ達は皆逃げ切れましたよね。
 それくらいの時間は稼いだつもりです。

 出来れば自分で倒したい相手でしたが。
 どうかすれば助けが間に合えばと思って今したが。
 残念ながら間に合いそうではありません。

「はぁ~、しぶとい女だったぜ。だが上玉だ。このまま式迄目一杯可愛がってやるよ。魔王が待ってるチャペルで犯してやったらどんな顔するだろうなぁ?」

 男が私の腕に手枷を嵌めました。
 スッ、と魔力の流れが体の中で止まったのが分かります。
 魔力封じの手枷だったみたいですね。
 ただでさえ苦手な魔術迄使えなくなるじゃないですか…。

 本当、抜け目のない男で嫌になります。

 でもこんな男に凌辱されるくらいなら……。

「グゥッ!」

 喉から潰されたカエルのような声が出ます。
 こんな男のモノになるつもりはありません。
 死体とでも精々戯れて下さいな。

 魔力が完全に止まる前に、自分の心臓を握りつぶしてやりますよ。

「あ~別に死んでも良いぜ?勘違いしいるみたいだが俺の本職は戦闘職じゃなくて死霊使いだ。死体になったら正式に婚姻盗んでやるよ」

 ニッコリと男が笑った。
 その笑みは野性的な男が初めて浮かべた純粋な笑顔だった。

 死んだらこの男のモノになる?

 駄目だ駄目だ駄目だ…。
 私の全ては魔王のモノです。
 死体だってやる訳にいかないです!

 バキ
 パキ
 ボキ

 拳と拳を合わせて手首と指の間接を外します。
 スルリ、と手枷から手が抜けました。

 【紅蛇】

 ドンッ!

 伸し掛かって来ていた男の胸に手を当て、ゼロの距離から打ち込んだ。

「グゥゥゥウゥゥッ!!」

 ズザザ…

 男の体が3メートルほど後ろに吹っ飛びました。

「観念したんじゃ無かったのか?」

「いえ、明後日結婚式なのに死んでる場合じゃないと思いまして」

 すみません魔王。
 一瞬貴方の事を裏切りました。
 心が貴方のモノなら体位くれてやっても良いなと思いました。
 私の体は髪の先から爪先、血の一滴に至るまで貴方のモノだというのに。

 バキ…

 外れていた関節を元に戻します。

 魔王、私に力を貸してください。
 貴方の元に帰るための力を……。

 ブワリッ

 耳が熱いです。
 イヤーカフが熱を持っています。
 水晶の向日葵から黄色い魔力が溢れます。

 あぁ魔王の魔力が私を包みます。
 月色の魔力が私の夕日の色の魔力と混じります。

 そして私の体は黄と赤が混ざった朝日の色に包まれました。
しおりを挟む
感想 748

あなたにおすすめの小説

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

処理中です...