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第2章

【番外】魔王side3~デート編前半~

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 待ち合わせは11時王都の広場噴水前。
 魔王は質は良いが華美ではないシンプルな服装に着替えて待ち合わせ場所に向かう。
 髪の色は亜麻色。
 瞳の色は茶色と平民に多い色に変えている。
 そして顔立ちをはっきりさせないための伊達メガネ。
 魔王はコレで目立たないと思い込んでいた。

 確かに正体はバレていない。
 だが美貌は健在である。
 待ちゆく老若男女が魔王に目を奪われていたが、リコリスとのデートに心弾む魔王がそれに気づくはずも無かった。

 噴水前もすぐそこまでに近づくと若い男が何人もソワソワとしている。

 ”お前行って来いよ”

 ”いや、あれはレベル高すぎだろ!”

 ”どこのご令嬢だ?見たことないぞ、あんな美人”

 どうやらナンパをしようか検討中らしい。

 可哀想な奴らだ。
 デートをする相手もいないのか。
 今から自分はとてつもない美少女とデートだと言うのに。
 魔王はふっ、と鼻で笑う。

 1人の男が白いマキシ丈のワンピースにパステルイエローのカーディガン、麦わら帽子をかぶった少女へ声をかけに行く。
 長い髪の色はオレンジ色。
 麦わら帽子ではっきりと顔を遠目では確認できないが、それでも整った顔立ちであることが分かる。

「あの、良かったらお茶でもいかないかい?」

 優男が少女に声をかける。

「すいません。これから、その、か、彼氏とデートなんです」

 小さな声だったがその声を魔王が聞き間違えるはずなどない。

「我の番に何用だ?」

 優男を視線だけで威圧する。

 ひぃ、と声を上げ優男は逃げ出した。

「あ、魔王…格好良いです。眼鏡も素敵です………」

 頬を赤く染めて少女ーリコリスが魔王に微笑みかけた。
 
 魔王の体に電流が走る。

(なんだこの可愛い生き物は!!!)

 オレンジの髪とチョコレート色の瞳。
 今はその色合いに合わせて薄っすらと化粧を施されている。
 グロスを塗っているのか何時もより色鮮やかでプルプルしている唇につい視線が行く。

「似合いませんか?」

 無言の魔王にリコリスは心配そうに声をかける。

「反対だ。余りにも可愛らしくて言葉を失った」

 微笑む魔王に周囲のお嬢さん方がフラリ、と倒れ込む。
 色気が半端ない。

「魔王はとても格好良いです。何時もの色でなくて残念ですが魔王は何色でも似合いますね」

「リコリスも何色でも愛らしいぞ」

 甘いテノールボイスで魔王が囁く。
 周囲のオバちゃんたちが腰砕けになった。
 まさに歩く猥褻物である。

「デートは我が考えたプランで良いのか?」

「はい、魔王が連れて行ってくれる所ならきっと何処も楽しいのでしょうね。楽しみです」

 嬉しそうにくふくふと笑うリコリスの愛らしさに魔王は今すぐ寝室に掻っ攫いたくなる。
 いやダメだ。
 今日はリコリスがデートに行きたいと己から言ってくれたのだ。
 その気持ちを蔑ろにする訳にはいかない。
 それにリコリスが少しでも楽しめるようデートプランは練ってきたのだ。
 半分、義姉に考えさせたのはこの際置いておく。
 時には人の力も借りねばならない時もあるものだ。

「行こうか」

 すっ、と差し出した手を少し躊躇いながらリコリスは手を乗せて来た。

「私の手、ごつごつしてて嫌じゃないですか?」

「今までリコリスが頑張った証だろう?美しいと思いはすれ嫌だなど思うはずがない」

「魔王、手つなぐのは幸せですね。私誰かと手をつないで歩くの初めてです」

 その言葉に魔王はつないだ手に少しだけ力を籠める。

「手を繋ぐのは我とだけだぞ?」

「は、はい!」

 俯いてリコリスは赤くなった顔を隠そうとしたが、耳まで赤く染まっているので魔王にはバレバレだ。
 本当に今すぐ寝所に連れ帰りたい。
 いやダメだ。
 今日はリコリスを楽しませなければ!
 
 魔王の中で理性と本能がガチでバトルを始める。

「お腹空きましたね、何を食べましょうか?」

「あぁ是非リコリスを連れていきたい店がある」

 どうやら理性が勝ったらしい。
 余裕のある笑みを浮かべて魔王はリコリスの手を引いた。

 歩幅をリコリスに合わせる。
 でないと魔王の無駄に長い脚は無駄に早いスピードで歩いてしまうからだ。
 獣車が走る車道側は魔王が歩く。
 女性を危ない方に歩かすわけにはいけない。

 どれもオウマのアドバイスである。
 女好きな幼馴染兼部下は無駄に女好きなので、こういった時のマナーはしっかり叩き込んでくれた。

 そのマナーに魔王は目から鱗が取れる思いだ。

 正直この目の前の男は、そんな面倒臭い事を普段から何人もの女としているのかと思うと逆に尊敬の念すら湧いてきた。
 魔王はリコリス以外にそんな気を使う気は起らない。
 しかしデートにもマナーがあったとは。
 さすがにミヤハルにもそんな事は教えて貰っていない。
 いや、ミヤハルは教えたことはあるのだが、魔王は興味が無く忘れているのが本当の処だ。

 少し歩くと裏通りに小さな店が見えた。
 知る人ぞ知る名店だ。
 今日は予約もしてあるので待ち時間はいらない。
 本当は貸し切りにしようと思ったのだがオウマに止められた。

 ”王妃さんは静かな場より賑やかな場に連れて行ってあげた方が喜ぶでしょーが!何でも金で解決しなさんな”と諭されてしまった。

 デート、奥が深い……。

 扉を開けるとカラリ、と扉に付けられていた鈴が鳴る。
 客はまだそれほど多くない。

「お久しぶりです。予約してくださった席へどうぞ」

 人の好さそうな笑みを浮かべたシェフが挨拶し、席まで案内してくれる。
 窓際の席は外が良く見える。
 この辺りは裏通りでも小さな商店が沢山あるので見ていて飽きないだろう。
 魔王が子供の頃に座っていた特等席だ。

「我が子供の時によく姉上に連れて来てもらった店だ。この席にも良く座った。外の賑やかな街並みも楽しいであろう?」

「はい!お外が賑やかで楽しいです。魔王が子供の頃通っていた店に来れるなんて嬉しいです」

「そんなに気に行ったか?」

「子供時代の魔王もこの席でこんな風に過ごしていたのかと思うと胸がポカポカします」

 リコリスが目を輝かせる。
 こんなに嬉しそうなのは心が通い合った時と、初めてクッキーを食べた時以来でないだろうか?
 その2つの事柄を同一レベルで並べるのもどうかと思うが、とにかくリコリスは嬉しそうだった。
 窓の外の商店を見ながら魔王に””あれは何の店か”と尋ねてくる。

 こんなに嬉しそうならもっと早く王都を案内してやれば良かったと魔王は思う。
 これからはもっともっと色々な事を教えてやりたい。
 魔王の理性は本能に完全勝利を果たしたらしい。

 邪な感情はすっかり成りなりを潜めて、ただただリコリスを大事にしたい気分が湧き上がる。

「お待たせ致しました。予約されていたメニューでございます」

 シェフが直々に食事を運んでくれた。

 魔王の前にはボロネーゼのパスタとサラダとスープ。
 リコリスの前にはお子様ライスが置かれた。

「ふわぁぁぁ、色んな食べ物が1つのお皿に乗っています!ご飯に小さい旗が付いています!こんな料理初めて見ました!!」

 大興奮するリコリスに魔王は胸を撫で下ろす。
 正直18歳のリコリスにお子様ランチは子供向け過ぎるかと思っていたのだが、想像以上に気に入ってくれたらしい。
 義姉に感謝である。

「魔王!これは何という食べ物ですか?美味しいです!こっちの料理も美味しいです!!」

 夢中で食べているモノだから折角のグロスも落ちてしまっている。
 だが魔王は化粧をしているリコリスより、素顔のリコリスの方が好きなので問題はない。

 むしろ化粧などしなくても良いではないかと思う処も多々あるが、素顔を他のものに見せるのもそれはそれで不愉快な気がする。
 リコリスの素顔の可愛さは自分だけが知っていれば良い。
 無邪気にお子様ランチを頬張るリコリスを見て魔王は大満足だ。

「これ、美味しいですが何でしょう?」

「フライドポテトだな。ジャガイモを細く切って油で揚げたものだ」

「王宮じゃ出てこない料理ですね。私コレ好きです!」

「我も子供の時良く食べたな」

「じゃぁ魔王も食べましょう?はい”あーん”です」

 フォークに刺したポテトを魔王に向ける。
 そう言えば王宮に来て以来こんなに和やかにマナーも気にせず食事をとった事が無かったな、と魔王は気づいた。
 パクリ、とポテトを頬張る。

「旨いな。それに懐かしい味だ」

「魔王、私この店気に入りました。魔王が時間あるときで良いからまた来たいです!」

「そうだな。定期的に食べに来よう。まだまだ食べてないメニューは沢山あるからな」

「えへへ、次のデートの約束をこぎ着けれました。お仕事している魔王も格好良いですが、塔の時の様にたまには2人で楽しく過ごしたいです。デートって楽しいですね!」

 満面の笑顔をリコリスが浮かべる。
 その笑顔を見て、魔王は今日1日リコリスがこの笑顔のままであれば良いと思うのだった。
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